第28話 歪な侍女
アビスはシシラが見つかれば自分の下に戻ってくるかと思っていた。しかし、考えてみれば確かに姉のシシラの力はすごかったとアビスも思っていた。口に出したくもないが自分にできたこともない鮮やかで美しい魔法の技術力すら感じたのだ。アビス個人ではなく王家が利用したいと思えても仕方がない。
「下手をすればアビスお嬢様の聖女の立場も危ぶまれるかもしれません。光属性の魔法で聖女に選ばれた人も過去にいたのですから」
「な、何よそれ!? 私の聖女の立場が!?」
「聖女と戦って打ち勝ち聖女に成り上がった。そういう歴史もあるのですよ」
「知らないわよそんなの!」
アビスは聖女の歴史を殆ど知らない。通常そんな事はあってはならないのだが、アビスは聖女の歴史に関する勉学さえもシシラに任せていたため聖女の立場が絶対なんだと思い違いをしていたのだ。
「もっとわかりやすく言ってよ!」
「私も聖女の歴史を学んだことがありますから簡単に言えば、アビスお嬢様の聖女の地位を姉君が奪える可能性は非常に高いということです」
「嘘よ! ありえない! そんなことあってはならないわ!」
「今のままだとありえます。現にこの公爵家どころか王家までもが姉君を探し出そうとしています。本当に見つかって姉君の意思次第では、」
「嫌よ! 聖女の地位は私のものよ!」
アビスは激しく取り乱す。使用人に整えてもらった髪を振り乱し自慢の可愛い顔を醜悪に変えるほどに。それもそのはずだ。先日、見下していた姉に負けたばかりだというのにその姉が戻ってくれば聖女の地位を奪われるなど屈辱が倍になるようなものだ。そんな話を聞いただけでも非常に悔しいと思えてならない。
「そんなの絶対に許さない! そんなことはさせないわ!」
「そうなると姉君が見つからないことを祈るしかありませんね」
「え?」
「先ほど私が口にしたことは見つかって戻った場合の話です。逆に見つからなければそのようなことは決して起こることはありません」
「そ、そうなの!?」
アビスの口が喜びで綻ぶ。都合がいい話があるとアビスはすぐに飛びつくのだ。それをよく知ってるアンは無表情で淡々と更に告げる。
「お嬢様のためになるのは、姉君が見つからずに帰ってくることがないことでしょう。それを神に祈ればその通りになるのでは?」
「!」
まるでそのように扇動するかのように。
「そうよ、その通りだわ! お祈りなんか滅多にしないんだけど今回はしてあげてもいいかも! それでお姉様みたいな邪魔者がいなくなるんなら!」
アビスはさっきまでの怒りを忘れたかのように舞い上がる。そして、早速アンが言ったような行動に出る。あおんなアビスの様子をアンは見守るということはしない。
ただ、アビスの前では本性を見せないだけなのだ。
「キヒヒヒヒヒ! なんとも愉快な聖女様だこと!」
アビスの部屋から出た後で、アンは笑みを浮かべた。しかも、人間とは思えない口の曲がり方で。そして、侍女にもかかわらず主に対する敬意は全く見られない。
「わざわざ自分を支えてきた姉に見放されえうようなことをしておいて、この先も都合のいいことしか頭にないなんてねー! キヒヒヒヒヒ! お陰で本物の聖女がこの国からいなくなったから感謝感謝! キヒヒヒヒヒ!」
むしろ、アビスのことを嘲る始末。笑い方も酷くなる。
「聖女の仕事をしてた姉はいなくなったけどまだ心配ねー。そうだ! 今頃は大森林なのは確実だからあの森の魔物たちを暴走させちゃおーっと!」
アンの目が真っ赤に光る。それは彼女が人間ではないことを示していた。




