第25話 聖女の誤算
シシラとシュバリアたちがショーツカ大森林を通る少し前、聖女アビス・アリゲイタはアリゲイタ公爵の屋敷の自室で怒り狂っていた。
「一体何なのよ!? なんでこうなったの!? なんでお姉様が、私の便利な道具が歯向かうのよ!?」
いつもこの時間は親しい者たちと王都の有名な店で食事をする時間帯だったのだが、姉シシラがこれまでの試験結果の入れ替えを暴露したせいで学園をしばらく休学ということになった。自宅で大人しくする以外の選択しかできない。
「お姉様に何としてでも全部嘘だって言わせて謝らせようと思ったのに……!」
姉シシラを無理矢理でも嘘だと謝らせようと自慢の聖属性の魔法を放ったのに、その全てを否定するかのごとくシシラの光属性の魔法が打ち消していった。シシラのことを魔法も含めて見下してきたアビスからしてみればプライドがズタズタにされたも同然だ。
「ちょっと魔法を使っただけなのに、ユーム様もみんな私から離れていくなんて……!」
試験結果の入れ替えだけでなく、姉に対する態度や魔法を使って脅したり実際に使ったこともあり、周囲からは掌を返すようにシシラと立場が逆転した。更に、学園内における数々の不正も発覚したこともあり、下手をすればもう学園に通えなくなるかもしれない。
しかも、王太子ユームからも「婚約は考え直してほしい」と言われてしまった。
「あんなことをしたお姉様なんか……お父様とお母様に厳しく叱ってもらおうと思ったのに……追放って何よ!」
学園での厳しい問い詰めから開放されたアビス、これからは自身の名誉回復のために奔走しなければならないと考えながら屋敷に帰宅する。そこで信じられないことが起こっていた。
「まさか、お父様とお母様がお姉様を追放してしまったなんて……!」
父であるイマジニ・アリゲイタ公爵と母ソーナ・アリゲイタが笑顔で「私達の大切なアビス。この家に不要な者はいなくなったよ」と言い出したときは何のことか分からなかったが、すでにシシラの退学届を出したと言い出したから驚いた。
◇
「信じられない! なんてことするのよ!」
「? ははは、あの娘は王太子殿下に婚約破棄された挙げ句追放宣言されたのだろう? 我が家の恥でしかないじゃないか?」
「アビスが王太子殿下の婚約者になった以上、あの娘に居場所はないわよ?」
「え? なんでそれを……?」
どうやらシシラが学園を出た後に公爵家に顔を見せて王太子に婚約破棄と追放宣言されてアビスが代わりに婚約したことを伝えたようだ。それ『だけ』を。
(私がしてきた不正行為が暴露されたこととかは知られていないの? お姉様……あの女は何を考えているのよ?)
「お父様、あれでも公爵家の令嬢ではありませんか。どうしてこんなことに……」
「あれのことは気にしているのか? アビスが王太子殿下と結ばれるのは時間の問題だったはずだろう?」
「そうよアビス。それに比べてシシラは退学ですもの。将来貴族として使えないならもう必要ないわ」
「これ、縁起でもない名を言うな」
朗らかに話す両親と娘の認識は違っていた。その事実に何を言えばいいかアビスは迷う。




