第21話 命じる国王
「シシラ嬢を失うのは惜しい損失だ。国外追放などありえぬ。聖女アビスの肩代わりではなく本当の聖女にふさわしいかもしれん」
「恐れながら陛下、シシラ・アリゲイタ嬢の魔法の属性は光です。聖属性の魔法ではありませぬ。過去にも光属性の魔法の聖女がいましたが聖属性の魔法に比べるとやはり心もとないのでは?」
家臣の一人が進言する。ジュンメウキ王国の歴史を考える限り別に聖女は聖属性でなくてもいいわけだが、光属性では力が足りないと思われがちなのだ。
「その心配は無用。宰相」
「はい。報告を聞いた限り、聖女アビスは魔法技術が弱いと見えます。シシラ嬢と戦った際も使った魔法は歪だったという証言もあります。それに性格的にも難がある様子、実際に姉に攻撃的なのがその証拠です。もとより遊び呆けているという噂があったがこの件で姉に押し付けていた事が発覚しました。そんな聖女を相手に戦って勝利したシシラ嬢こそ聖女になっていただいたほうが国益のためでしょう」
宰相のボッスン・ローチが補足して説明する。体育館での状況をいち早く息子から聞いて、その情報を上手く整理したのだ。
「ただ、シシラ嬢は聖女アビスに都合のいいように利用されてきたご様子。学園での立場も決していいものではなかったようですね」
学園と聞いて国王や家臣たちはユームを睨む。その視線を受けてユームはビクッと震えた。
「シシラ嬢に聖女になっていただくには、これまでのことを現聖女アビスとユーム殿下から謝罪させていただく必要があります。新たな聖女になっていただいた際の報酬も準備するべきでしょう」
「分かった、任せよう。愚息ユームのことは好きにしてもらって構わん」
「父上!?」
「シシラ嬢は国外追放を受け入れたと聞く。本当に国外へ出ていく可能性がある。騎士団長よ」
「はっ!」
国王ジョケアは騎士団長ウォルフ・オルフノクに命令する。
「すぐにシシラ嬢を王宮に連れてきてほしい。国外追放の無効と新たな聖女に任命するという話をつけたうえでの」
「かしこまりました」
騎士団長の次に国王ジョケアは王太子ユームに目を向ける。実の息子に向けるものとは思えないくらい冷たく鋭い目で。
「さて、教会にも働きかけて聖女アビスの愚行の裏取りをせねばならんな。魔法技術の未熟さといい、金遣い荒く遊び呆けることといい、我が息子と不貞……調べれば化けの皮が剥がれることだろう。なぁ、ユーム?」
「……っ、はい!」
「貴様からも聖女アビスについて詳しい話を聞かせてもらおうか」
「……わかりました」
ユームは頭の中でどう話せばいいのか考え始めた。アビスのことを詳しく話さなければならないということは、ユーム自身も遊び呆けていたことを話さなければならないのだ。ただでさえ、シシラという才能を逃してしまったばかりだというのに、これ以上恥を知られることになると思うと羞恥の極みだ。
(どうしてこんなことに……僕は聖女を蔑ろにしなかっただけで、アビスがそもそも誘惑するのが悪くて……それにシシラも関わって来なかったし……)
見るからに言い訳ばかり考えている姿を見せるユームに国王ジョケアや家臣たちは呆れる。こんな男ではもう王太子は務まらないだろうと思われた。
「……はぁ、馬鹿息子め。隣国から留学してきている王子とはなんという違いだ」
「え?」
隣国から留学、と聞いてユームは何やら嫌な予感がした。何故か、思い浮かぶのは体育館でシシラの味方をしていた男の姿だった。
(そういえば、シシラに味方をしていたあの男……留学生って話だったな……まさか……)
「父上……その留学生の王子というのはどういう人物なのですか?」
「お前……私が言ったことを覚えていないのか? ここまで愚かだっったとは……」
「う……それは……」
息子のバカさ加減に頭が痛くなる国王ジョケア、自身の愚かさを見せつけてしまう惨めさを恥じるユーム。国王は念の為にもう一度隣国の留学生のことを詳しく説明するのだが、ユームはその事実に驚かされることになるのであった。




