第20話 叱られる王子
シシラとシュバリアがアリゲイタ公爵の屋敷から去った時と同じ頃、ジュンメウキ王国の王宮で怒号が飛び交っていた。
「なんということだ! シシラ・アリゲイタ嬢に聖女アビスに勝る程の力があったとは!」
この男はジュンメウキ王国の国王ジョケア・ジュンメウキ。禿げ頭で息子と同じ深紅の瞳の壮年だが、実年齢よりもだいぶ老けて見えるのは今のように息子を叱る機会が多くなってきたせいなのかもしれない。なにせ今しがた、息子のユームとその側近二人、更に学園長から学園の体育館で起こったことと衝撃的事実報告を受けていたのだ。
「ユーム! 婚約者でありながら一体何を見てきたのだ! 聖女アビスのことは蔑ろにするわけにもいかぬのも分からなくもないが不貞をしていい理由にはならん! そんなこと言わずとも分かるであろう!」
「……で、でも、アビスが……」
「言い訳するな! 貴様が自分の婚約者を蔑ろにしていたのは事実だ! 違うと口にするな!」
「はい……申し訳ありません……」
「しかも! あの聖女アビスの本性が最悪!? なんということだ……!」
ユームは青い顔で俯いたままだった。王子でありながら顔を上げられないのは、それだけに父である国王の怒りが深いからだ。国の政を担うはずの王家から不貞をした王子が出た挙げ句、その有責が王子と浮気相手の方にあり、しかも浮気相手が聖女でありながらの性格が悪いという。謁見の間で顔を上げる許可など出したくないに決まっている。
「やはりそういうことか……聖女アビスの行動に疑念を抱く声があったが、姉であるシシラ嬢に押し付けていたのだな。道理で聖女でありながら遊ぶ姿の方が目立つわけだ!」
「……父上、それは以前からアビスが聖女らしからぬ行動をしていたと疑っていたということでしょうか?」
「聖女教会で聖女の仕事をする際は常に姉のシシラ嬢を同伴していた。ただ、仕事をする際に聖女アビスが仕事中に外に出ていく姿を目撃する姿を見たという報告があったのだ。ただ、仕事は完璧にしていたから早く仕事を終わらせたからと思われていたようだが……姉に肩代わりしてもらっていたのなら遊びに行けるわけだ」
「なっ……」
ユームは絶句した。以前、アビスからは聖女の仕事について聞いてみたのだが「全然たいしたことないです!」と笑顔で言ったのを覚えている。聖女伝説を王族として歴史と一緒に教えられていたため「たいしたことない」はずがないと思っていたのだが、まさか姉にさせていたからだなんて……と思った瞬間、ユームの背筋が凍った。
(あんな会話をしていたときにシシラも一緒にいた……アビスは、シシラの眼の前で平然とあんなことを言ったのか……!?)
「公爵家も何をしておるのだ。聖女だから甘やかし、その姉を蔑ろにするとはな。シシラ嬢も光属性という希少な魔法を使えるというのに。そのシシラ嬢は学園の退学と国外追放を受け入れたと……そこまでの決意をさせてしまうとは……我が息子も酷いが学園長よ、貴様も愚かなことをしたものだ」
国王ジョケアはユームの後ろに控える学園長を睨む。すると鋭い視線を突きつけられる学園長は慌てて弁明を始めた。
「わ、私の、私だけの判断ではありませぬ! そもそも聖女アビス、それに公爵夫妻が頼むものですから仕方なくてですね……!」
「黙れ! 借りにも教鞭を振るう者が賄賂をもらった挙げ句に率先して不正行為をするとはあってはならんことなのだぞ! 今日を持って貴様から学園長の地位を剥奪し教員免許を無効とする!」
「そんな! 陛下! どうか御慈悲を!」
「『元』学園長を下がらせろ! 別室で尋問だ!」
学園長、いや元学園長ガニバケは喚きながら兵士に連れて行かれていく。その間にも国王ジョケアは家臣たちに指示を始める。




