第19話 公爵家を出ていく
「……アビスほどでなくてもお前にも一定の価値があると私は認めている。だからこそ我家から逃れることは許さんのだ」
「私が王太子殿下に婚約破棄されて国外追放を命じられていても?」
「……何?」
(言っても駄目なら見て説得するしかない。それなら……)
「【ライトメモリー】」
「「っ!?」」
シシラは自分の言葉では聞く耳を持たないからまずは見てもらった方が早いと考えた。そこで体育館で使用した魔法をここでも使った。光魔法による映像を映したのだ。
「今お見せするのは今日学園であった事実そのものです。お二人も学園に在学されたことがあるなら映像に写っている光景が学園の体育館だと理解出来るでしょう?」
『諸君! 集まってくれただろうか!』
「な、なんだと……こ、これが光魔法だと……!」
「こ、こんな便利な魔法を使えるなんて!」
映し出されたのは体育館で王太子ユームが生徒を集めて宣言する場面からだった。こんな事ができるだけで公爵夫妻はシシラに対して驚きを隠せないが、もっと驚くのはここからだった。
『シシラ・アリゲイタ、今日この時をもって貴様との婚約を破棄する! それと同じく国外追放を命じる! そして私はアビスと婚約を結ぶ! 聖女こそ私の婚約者にふさわしい!』
「「ええーっ!!??」」
「っ! こういうこともできたのか……」
王太子ユームがシシラとの婚約破棄及び国外追放宣言。生徒を体育館に集めてからこの宣言までアビスのことで色々あったのだが、うまく省いたようだ。そこにシュヴァリアは感心する。
「し、シシラが婚約破棄されて……アビスが王太子と婚約!?」
「アビスが王太子と結ばれることになっていたの!?」
シシラの魔法で彼女の伝えたいことを理解した夫妻の頭は、目を丸くして驚き、理解が追いついた瞬間にシシラを凝視して叫んだ。
「お、お前は何をやらかしたんだ!? 王太子殿下から婚約破棄に国外追放を受けるなど貴族令嬢として生きていけぬではないか! わ、我が家によくもとんでもない泥を塗りおってくれたな!」
「本当になんてことになったのよ!? アビスの姉ともあろう者が王太子から婚約破棄を受けるなんて!」
公爵は怒りを込めて、夫人は嬉々としてシシラを罵倒した。これも予想通りな反応なだけにシシラは表情は変わらない。
「くそ! もはや貴様などこの家の者のではない! 王家に睨まれては敵わん! とっとと出ていけ!」
「そうよ、出ていきなさい! それが可愛いアビスへの最後の貢献だと思ってね!」
(まあ、そうなるでしょうね)
――結局、シシラの望み通りに追放ということになったのであった。
「……なんて両親だ。婚約破棄と国外追放された娘の心に寄り添うつもりもないとは……」
「気にしても仕方ありません。分かっていたことですから」
公爵家から出ていったシシラとシュバリアは先程の公爵夫妻のことで軽口を叩いていた。もっともシュバリアの方は本気で怒りを感じているようだが、シシラはもう何も気にしていない。むしろ清々しいというように笑顔でいた。公爵家はシシラにとって居心地の良い場所ではないのだから当然だった。
「それよりもこれからのことに目を向けていきたいです」
「ああ、そうだな。早速この俺と共に我が祖国バッファロード王国に行こう。面倒な奴らの気が変わらないうちに」
「? この国に私を引き留めようと考える人はいませんよ?」
「体育館で聖女に勝利したことを知る者の中には考え直す者もいるはずだ。頭のいい貴族とは臨機応変に考えるものだからな。公爵が君を監禁しようとしたように」
「! そうですね。まだ気が抜けない状況でした」
「待機している俺の部下たちと合流して早々にバッファロード王国に行く。学園を出る際に伝えたから手はずはもう整っているはずだ」
シュバリアの危惧していた通り、ジュンメウキ王国側はシシラを逃がさぬように動いていた。




