第17話 公爵家を望まない
シシラが公爵家に帰宅すると珍しく公爵夫妻が揃っていたので、その場で学園の退学と婚約破棄のことだけを告げた。ただ、暴露映像や聖女アビスに勝ったということは面倒になりそうなので黙った。
「何を考えているのだ!? 我が公爵家に恥をかかせ評判を落とすなどあり得ん! 聖女になったアビスとはなんという大違いだ!」
「なんて恥知らずな愚か者、貴族は学園を卒業するものなのに退学なんてありえないわ。お前は貴族社会を追放されたのよ。どの面下げて戻ってきたのよ?」
黒目で茶髪のオールバックが特徴の壮年が顔を真赤にしてシシラを罵倒する。この男はシシラの父にして公爵家の当主イマジニ・アリゲイタ。その隣りにいる冷たい目つきで青紫色の髪を後ろにまとめた碧眼の淑女が義母ソーナ・アリゲイタ。
二人ともシシラの予想通りの反応だった。
(本当にこの二人は……最後になると思うのに全く心が動かないわ……)
以前のシシラならこの夫妻の言動を気にしていたのだが、体育館で大胆な魔法を放ち、アビスに魔法で勝利したことで大きく自信を持つようになってから、それほど気にすることもなくなった。
「婚約破棄はともかく、学園長に退学を取り消してもらうまで謝り続けることが筋だろう! この痴れ者! 公爵家の恥さらしが!」
「望んでこんな公爵家に生まれたのではありませんわ」
「はぁっ!?」
シシラは常日頃思っていたことを口にした。それが激昂した公爵には衝撃だったようだ。シシラの父親に対する初めての反抗でもあったのもあるが、公爵家を仮にも娘に侮辱されたのが許せなかったのだ。
ピタリと一時止まって怒りで震えるほどに。
「なんということを言うのだ……公爵家に生まれたことを誇るどころか望まないというのか……なんと愚かな……!」
「貴族に生まれた価値も分からないなんて酷い出来損ないだわ。お前などこの家にふさわしくないわ」
「この出来損ないが! 絶対に許さん!」
(言うと思った)
夫妻の性格を知っていたシシラは自分が婚約破棄され退学されただけでは追放してもらえないのではないかと思っていた。それならば、公爵家のプライドを傷つけるような言葉を口にして公爵を激昂させればと考えたのだ。
しかし、怒り狂った公爵はシシラの予想とは斜め上の言葉を告げた。
「シシラ、貴様は我が屋敷の地下に監禁してくれる!」
「え?」
監禁。それは追放とはある意味逆のことだった。つまり、屋敷の外に出すことはおろか光の射さない暗い部屋に閉じ込められることを意味する。そんなものはシシラは望まない。冗談ではない。
「……普通なら追放するものではないのですか?」
「そ、そうですよ貴方。こんな恥さらしをわざわざ屋敷で監禁するなんて、穀潰しの世話なんて馬鹿らしいですわ」
シシラは目を細めて追放をほのめかす。更に、いつも公爵に追従する公爵夫人が困惑しながら監禁に反対する。実母でないからシシラに出ていってほしいのだろう。だが、公爵は仮にも貴族だった。
「穀潰しとはいえ仮にも公爵家に生まれたのだ。それを追放したとなれば世間体に悪い。厳しく教育し直してアビスの使用人にでもしてやる」
「お断りします!」
「何!?」
世間体のために監禁して教育し妹の使用人にする。そんなことはシシラに受け入れられるはずがない。シシラは怒りを交えながら強気に反抗した。




