第15話 王子と側近二人
ただし、皆が皆、唖然とするままではいられない。
「……いやいやいやいや! 待ってくれシシラ!」
「待つのは貴方ですよ殿下」
「っ! タイーガ、何をする!?」
我に返ったユームはシシラの後を追いかけて引き留めようとしたが、唐突に側近のタイーガに肩を掴まれて止められた。その後ろには息を切らして立っているフォティンがいた。
「学園長の、拘束魔法から、やっと抜け出したと思えば、こんな事になっているとは……」
「はぁはぁ、殿下ももう分かったでしょう……はぁはぁ……」
「フォティン、それはアビスのことか?」
「それも、そうですが……シシラ様のことです……」
「これで分かったんじゃないですか? 貴方がどれだけシシラ様のことを見ていなかったのかを」
「……」
確かに、シシラのことでユームは驚かされたものだった。映像の魔法をはじめとするシシラの魔法の能力はアビスの聖属性の魔法と互角以上の力を示した。挙げ句にはアビスに勝ってしまった。今まで軽んじられたことが不思議なほどに。
(アビスの口からは魔力が無さすぎるとか役に立たないと聞いていたのに、むしろアビスは……)
アビスのことを思い返すユームの脳裏には、姉の婚約者だと分かっていながら積極的に関わってくるアビスの笑顔がよぎる。大人びたシシラと違って幼くて愛らしく可愛いアビスがいつもいることはユームにとって幸せなことだったが、考えてみればおかしいと今になって気づく。アビスは聖女のはずなのに、『いつも』ユームのそばに入れたのは何故なのだろうかと。
(映像の学園長の言うように、アビスはシシラに押し付けてした? 今となってはそうとしか思えないではないか……!)
学園長の方を振り返るユームはギョッとした。あれだけシシラに高圧的だった学園長が十歳くらい老け込んだ顔になってうなだれていたのだ。しかも、「私はもうおしまいだ」とブツブツ呟いているのも聞こえてくる。
シシラの真の実力、今までのアビスのことをまとめて考えると嫌でもアビスが嘘をついていた可能性が高いとユームは思えてしまう。側近二人の言う通り、ユームはシシラとアビスのことを何も見ていなかったのだ。
「そ、それならば……シシラにも詳しい話を聞いて、」
「その前にこの体育館の状況をなだめるべきではないんですか?」
「貴方にも……責任が、ある!」
「それは……」
体育館では今も多くの生徒たちが混乱したままだ。その当事者の中心人物はシシラだが、ユームにアビス、それに学園長も同じことだ。しかも、糾弾した側なのだから責任は十分になる。シシラを追いかける暇はない。
「僕は……間違っていたのか?」
「そう、ですね……僕らの言葉を聞いてくだされば、結果は違っていた……」
「俺達はいつも言っていたはずですよ。シシラ様のことを見るようにと」
「ああ……そうだな」
側近の二人はいつもユームがシシラを見ないことを危惧していた。アビスに傾向することも悪いが、婚約者を蔑ろにすることは貴族の頂点たる王族にあるまじき行為だからだ。それなのに、ユームはまともに聞かなかった。その結果が今だとも言える。
「アビス……」
ユームはアビスに目を向けると、そこには見知った可愛い顔ではなく悔しさと疲労で醜悪に歪む顔だった。しかも「お姉様のくせに……」と言って姉のシシラを罵倒している。シシラに魔法をぶつけようとした時から薄々気づいていたが、本性が出たようだ。
「僕は、いつ間違えてしまったんだろう……?」
「少なくとも、シシラ様を蔑ろにしていた時点ではないかと」
「聖女に傾向なさった時かもしれませんね」
「…………」
側近二人が嫌味と皮肉を混ぜて口にしてもユームは何も言えない。言える立場ではなかった。
後に、この一件が国王の耳に入ることでユーム達は更に苦境に立たされることになる。




