第4話 信長、未来を変える一言
朝霧の残る安土城。石段を登るたび、空気が鋭く冷たくなっていく。
俺は胸の内でため息をついた。
(ああ……やっぱり今日も“まったり”は遠いな)
信長に仕えるようになって、まだ数週間。
毎日が怒涛の展開で、のんびりなんて夢のまた夢だ。
今日の用件は「新政の発表」だという。
織田信長が全国の商人・職人を呼び集め、**“楽市楽座”**という政策を打ち出すらしい。
歴史の授業でも習ったな、これ。
中世の市場を解放して、誰でも商売できるようにしたやつ。
けど、今この時代の価値観じゃ、結構な大事件だ。
「蘭丸、行くぞ」
信長が声をかける。黒地に金糸を織り込んだ羽織が朝日に照らされて輝く。
威圧感というより、存在感が強すぎて空気が変わる。
「はっ!」
俺はすぐ後ろに控え、他の家臣たちとともに大広間へ向かった。
畳の上には有力な武将、そして豪商たち。
その中央で、信長は堂々と口を開いた。
「今より、座を廃し、市を解き放つ」
ざわめきが起こる。
重臣たちの間に明らかな戸惑いの気配。
信長は続ける。
「これまでの“特権”を持つ者らが市場を独占し、民の働きを奪ってきた。
だがそれでは、国は豊かにならぬ。民が動き、商が巡り、富が流れることで天下は栄える」
(おお……まじで歴史通りのセリフ。いや、これ授業で聞いたことあるやつ!)
感動していると、隣でひとりの男が一歩前に出た。
「──御意に背くつもりはございませぬ。
しかしながら、あまりに急な変革。領民が戸惑い混乱いたしましょう」
そう、明智光秀だ。
声は穏やかだが、芯がある。
信長と正面から意見を交わす、唯一の家臣。
「光秀、そなたの言葉、もっともだ。
だが民の混乱など、恐れるに足らぬ」
「……は?」
「混乱の先に、秩序が生まれる。
民は動かねば成長せぬ。過去に縋るは死なり」
信長の言葉に、光秀は静かに眉をひそめた。
その瞬間、俺の目の前にウィンドウが開く。
【スキル鑑定:対象 明智光秀】
忠誠:高
感情:動揺/反発
裏目標:織田信長を討つ(確率:17%)
(うわ、上がった!!)
さっきまで4%くらいだったのに!?
やばい、信長の一言でまさかの爆上がりだ。
「……信長様。変革は時に必要。ですが、あまりにも速すぎれば、心が追いつきませぬ」
「光秀。人の心など、わしが導けばよい」
(おおお、信長ぁぁ! もっと優しく言ってぇぇ!)
このままじゃ“本能寺”が確定ルートに戻っちゃう!
俺はそっと袖の中に手を入れ、スキルウィンドウを開く。
【ネットショップ】
検索:……何か、空気を和らげるもの。
→ “高級緑茶・宇治金雲”
(またお前か。よし、頼む)
人に気づかれぬよう茶葉を懐に出し、近くの茶器に仕込む。
茶の香が立ち上がった瞬間、信長がふと目を細めた。
「蘭丸、何をしておる」
「……信長様。少し、一服でもいかがでしょう」
「ふむ、よい香りだな」
湯を注ぎ、差し出す。
信長が口に含んだ瞬間、わずかに表情が和らいだ。
「……悪くない。苦みの奥に、深い味がある」
光秀もその様子を見て、少し肩の力を抜いた。
そして、信長の前に膝をつく。
「……拙者、殿の理を疑うつもりはありませぬ。ただ……恐れながら申し上げます。
民の心を置き去りにすれば、いずれ反発の種となるやもしれませぬ」
信長は茶を置き、ゆっくりと立ち上がった。
「……民の心、か。ならば問おう、光秀。
民とは何だ?」
「……何、とは?」
「民とは、誰のために生きると思う?」
光秀は息をのんだ。
信長は続ける。
「わしはこう思う。民は主のためではなく、“己のため”に生きるべきだ。
そのための道を作るのが、この“天下布武”だ」
その言葉には炎のような信念があった。
誰も口を挟めない。
広間の空気が、変わった。
俺の目の前に再びウィンドウが開く。
【光秀の裏目標:討つ(確率:17% → 3%)】
(……下がった!)
光秀の瞳が揺れている。
尊敬と、畏怖と、ほんの少しの理解が混じったような表情。
信長は背を向け、静かに言った。
「よいか。時代は変わる。
だが、わしは民の上に立ち、民のための“秩序”を作る。
──それが、わしの“天下布武”だ」
沈黙。
やがて光秀が深く頭を下げた。
「……心得ました。殿のお考え、しかと胸に刻みます」
【裏目標:討つ(確率:0%)】
(っしゃああああああ!!)
ついガッツポーズしかけて、慌てて手を引っ込める。
──そして、まさにその時。
【システム通知:スキルエラー発生】
【原因不明の干渉を検出】
「……は?」
ウィンドウの文字が乱れ始めた。
信長のステータス欄に、見慣れぬ一行。
【未来変動率:+0.02%】
(未来……変動?)
まさか、俺の介入で“歴史の流れ”が変わり始めてるのか?
信長が振り向き、俺を見た。
その瞳はまっすぐで、まるで全てを見透かしているようだった。
「蘭丸。……そなた、面白い風を連れてくる」
「へ? あ、いや……なんのことでしょう?」
「よい。わしの直感が言う。
──おぬしは、この天下に必要な男だ」
ウィンドウが再び点滅する。
【織田信長の好感度:好印象 → 信頼】
(……まじか。信長ルート、ロックオンされた?)
けれど同時に、背筋がぞくりとする。
未来が少しずつ動き始めている──確実に、何かが変わっている。
そして俺の“ネットショッピングスキル”の下部には、見慣れないタブが増えていた。
【新機能:未来購入】
【説明:過去・未来を問わず、存在する可能性のある商品を購入できます】
(……ちょっと待て、それチートすぎん?)
まったりどころか、ますます忙しくなる予感しかしない。
でも、これで少しだけ確信した。
この転生はただの偶然じゃない。
──たぶん、歴史を正しい“平和な未来”へ導くための、誰かの意志。
俺は茶器を片付けながら、心の中で小さくつぶやいた。
「……まったり隠居は、まだ先になりそうだな」
窓の外で、風が城下を吹き抜ける。
それは確かに、新しい時代の匂いがした。
──
✦次回予告✦
第5話「未来購入、爆誕」
信長の命で京へ向かう蘭丸。だが、新機能“未来購入”の試し買いが──まさかの現代兵器!?




