第1話 過労死サラリーマン、戦国でまったりを夢見る
気がついたとき、俺は草の匂いに包まれていた。
視界いっぱいに広がる青空、耳には遠くから聞こえる馬のいななき。
──え? ここ、会社の休憩室じゃないよな?
「……あれ、俺……死んだのか?」
最後の記憶は、パソコンの前で残業報告を送信している最中だった。
終電はとっくに終わり、缶コーヒー片手に目をこすっていたところで──視界が真っ暗になった。
それが、俺の“終業”だったらしい。
でも目を開けたらこの有様だ。スーツもネクタイもない。
代わりに、浅黄色の着物。腰には刀。
まるで、時代劇のエキストラにでもなった気分だった。
「……おい、そこの若造!」
振り向いた先にいたのは、赤い鎧をまとった男。
その背後には十数人の武士が控えている。
そしてその中心に立つ男の顔を見て、俺は息をのんだ。
「……織田、信長……?」
まさか。そんな、まさか。
だが、ステータス画面を開けばすぐにわかる。
【スキル鑑定】起動しますか?
→ はい/いいえ
反射的に「はい」を押した。
空中に半透明のウィンドウが浮かび上がる。
名前:織田信長
年齢:三十歳
状態:天下布武を志す。体調良好。
好感度:中立(興味)
「……マジか。ほんとに戦国時代?」
これは夢じゃない。転生ものでも滅多に見ない“ガチ実史”ルートだ。
しかも、俺の能力は──「ステータス確認」「スキル鑑定」「ネットショップ」。
異世界転生テンプレ三種の神器。……だが、戦国日本にネットショップて。
「おい、お主。名はなんと申す!」
信長の鋭い視線が突き刺さる。
俺は慌てて背筋を伸ばした。
「は、はっ! 森……蘭丸、でございます!」
口から出たのは、勝手に脳が補完した名前だった。
え、森蘭丸って信長の小姓の……?
もしかして俺、そのポジションに転生したのかよ。
「蘭丸か。見ぬ顔だな、面白き目をしておる。そなた、何者ぞ?」
「えっと……まぁ、その……ちょっと風変わりな商人とでも」
ごまかしながら、俺は袖の中でウィンドウを開く。
緊張で喉がカラカラだ。こういう時は──お茶だ。
【ネットショップ】
検索:緑茶
→ 高級宇治茶(茶葉)/1袋 1800円
「……たっけぇ。でも死んでるし、いいか」
俺は人目を盗んで袋を開けると、懐の湯飲みにそっと茶葉を入れた。
近くの兵士が煮ていた湯を少しだけ拝借し、茶を淹れる。
ふわりと立ち上がる、香ばしく深い香り。
「なんじゃその香りは? 異国の香か?」
「いえ、京の……珍しい茶でございます。信長様、よければ一服を」
「ほう……よい香りだ。いただこう」
信長は湯飲みを傾け、目を細める。
その瞬間、俺のステータスに通知が表示された。
【信長の好感度が 中立 → 好印象 に変化しました】
「──ふっ。面白い男だな、蘭丸。そなた、気に入った」
「……あざっす(よっしゃああ!)」
こうして俺は、まさかの“信長のお気に入り”ポジションを獲得した。
俺の目標は決まっている。
本能寺の変を防ぎ、信長を天下人にする。
そして天下が安定したら、静かな城下町で畳に寝転がって──。
「次こそは、まったり生きてやる……!」
だが、そのささやかな願いが、やがて戦国の歴史を大きく変えていくことになるのだった。
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✦次回予告✦
第2話「信長に仕えることになったけど、早速バグってる」
──スキル鑑定がバグって、まさかの“明智光秀”の裏ステータスが見えてしまう!?




