おまけ
十歳の誕生日にセシリアのところへやってきたのは、淡い桃色をまとった小鳥だった。
伯父が異国へ出かけた際、気に入って持ち帰ったとのことだ。ちょうどセシリアの誕生日も近く、贈り物にしようと思ってくれたらしい。ようやく羽が揃ったくらいの、まだ雛と言えるような小鳥はピィピィと澄んだ声で鳴いて愛らしかった。
ロチカと名付け、毎日毎日、飽きもせずに話しかける。
籠の中でちょこちょこ動きながら、眠たげに目をしょぼしょぼさせながら、羽の手入れをしながら、ロチカはどんなときもセシリアの声を聞いてくれていたと思う。
鳥が人の言葉を真似ることがあると本に載っていたから、ロチカもなにか覚えてくれないかなという期待もあった。
初めに伯父に聞いたら、購入元でこの種類はしゃべらないと思うと言われたそうだ。もっと赤や青の羽を持つ、大きめの鳥だとたくさん話してくれるらしい。
大人になっても小さい鳥だから、そういうものなのだろう。歌声はかわいいぞ。伯父にはそう慰められたが、セシリアは気にせずにロチカに話しかけ続けた。
その結果、結構な話し上手になってくれたのである。
そんなロチカは、連れてきてくれたはずの伯父には、まったく懐かなかった。
遊びに来てくれたときにロチカを手に乗せようと奮闘したけれど、一度も達成できたことがない。
悔しがる伯父を父がからかうなんてこともあったし、ロチカが話すのを聞いておかしいなあと訝しんだ伯父が突かれたこともあった。ロチカがきてから、セシリアの家が賑やかになったのは間違いない。
「ディアス様とは、仲良くなってくれるかしら」
体格でいえば、大きくてがっしりしたところはディアスと伯父は似ている。大きい人が苦手なのだろうか。
家を訪ねてくれる際、ディアスは必ずロチカにも挨拶をしてくれるからか、セシリアからは懐いているように見える。ただ、今までディアスの手に乗せるようなことはしていなかった。
ディアスが嫌でなければ、今日来たときに触れ合ってもらおうか。できたら仲良くなってくれたらうれしい。
「ロチカは、ディアス様のことお好き?」
籠の中でパチパチと瞬きをするロチカ。首を傾げてクルルルと喉を鳴らす。
ピィピィ。ピーロロロロ。
「アナタ、カワイイワ」
いつものロチカのおしゃべり。
一番初めに覚えてくれた言葉がこれだった。自分の名前でもなく、褒め言葉だったことが余計にかわいらしくて。
思わず笑みがこぼれてしまう。
「そうね、ロチカ。とってもかわいいわ」
「アイシテイマス」
「まあ」
「オシタイシテイマス」
「ロチカったら」
いつの間にそんな言葉を覚えたのかしら。
ロチカが覚えるほど、聞かせてしまっていたかしら。
そんなことはないと思いつつ、現に覚えているのだから言ってしまっていたのかもしれない。少し恥ずかしくてセシリアは顔を赤める。
またディアスに聞かれてしまったら……恥ずかしいけれど、隠すことでもないわけで。こほんとセシリアは誤魔化すように咳払いする。
「仲良くなってくれたらうれしいわ」
ごつごつした大きな手に、この小さなかわいらしい小鳥が乗る姿を思うだけで。きっとディアスは、戸惑いながらも優しく接してくれるだろう。自然と笑みがこぼれてしまう。
そろそろ、ディアスの馬車が着くころだ。
うまくいきますように。セシリアは思いながらそっと籠をなでた。
「アナタ、カワイイワ」
得意げな声が、またセシリアの胸をくすぐる。
会話になっていないけれど、時としてドキリとするほど返事をしてくれたようにしゃべる、不思議な不思議なロチカ。
本当にかわいい小鳥。
どうかどうか、ふたりが仲良くなりますように。




