「違う、そういう意味じゃないんだ」
異世界物で時折見られる、特殊用語。現実世界にない造語なら問題はないのですが、現実世界に存在する言葉や名称を、本来の意味と違う意味で用いる時には要注意です。なぜなら、何の説明もなく本来の意味とは違う意味で用いると、読者からは「誤用」と見なされてしまうからです。
そうなると、読者によっては「誤用」が気になって、作品世界に没頭出来なくなることもあります。せっかく素敵な作品なのに、そのせいで評価が下がることもあり得ます。それはとても勿体ないことです。また、「小説家になろう」には読者が作品中の誤字を報告出来るシステムがありますので、何度も同じ箇所が誤用として指摘されることもあり得ますし、感想欄で「違いますよ」と指摘される可能性もあります。もし誤用なら訂正すれば済む話ですが、作品の展開や設定に必要な用語や名称だった時は有り難くも鬱陶しい、となってしまうことにもなりかねません。
それでは、そうならないようにするにはどうしたら良いのでしょうか。私なりの解決策を考えてみました。
例えば、私が中華風アクションファンタジーを書いたとします。そこに、こういう場面があったとしましょう。
「ある日、宰相が主人公にこう命じた。
『その方の屠龍の技をもって、不濁城の十万の民を救ってほしい。』と。」
これだけですと、違和感を覚える読者もいることでしょう。私たちの住む現実世界では「屠龍の技」とは「実際の役には立たない技術」のことですし、「城」の中に十万人もの人間がいるのか、と。
しかし、次のように情報を加えれば、どうでしょうか。
「人に危害を加える竜が猛威を振るうこの世界には、『屠龍師』と呼ばれる、竜退治の専門家が存在する。ある日、不濁城という都市で竜が暴れているとの報告を受け、宰相が屠龍師に命じた。
『その方の屠龍の技をもって、不濁城の十万の民を救ってほしい』と。屠龍師――陸議は宰相からの下命を拝しながら、内心で思った。『全く、屠龍の技という言葉が、実際の役には立たない技という意味になるのはいつのことやら』と。」
これなら、「屠龍の技」という言葉の意味に対する違和感もなくなりますし、「城とは都市のことである」という、中華風世界と日本での文字の意味の違いも分かって、読みやすくなるのではないかと思います。
また、こういう文章はどうでしょうか。
「瑪麗が、愛用の武器『暁星』を惚れ惚れと眺めた。」
これでは、メアリが柄の先に棘のある鉄球を取り付けた武器を眺める姿を想像してしまうでしょう。しかしこの時、私のイメージでは、メアリはレイピアのような細い剣を眺めています。このズレを解消する為に、次のようにします。
「瑪麗が、愛用の細剣『暁星』を惚れ惚れと眺めた。これは、数十年前のある朝に砂漠に落下したと伝わる隕鉄から作られたのでその名がある。」
これならば、細剣の名前が「モーニングスター」でも、それなりに納得して頂けるかと思います。
如何だったでしょうか。これらの情報を本文に入れるのが無理なら、あとがきに書いても良いと思います。作品によっては、ある言葉の作中での意味と現実世界での意味が異なることもあるでしょう。しかしそういう時には、書き手と読み手の間にズレが生まれないように工夫することを忘れないようにしたいものです。
誤りだと思って指摘したものの、もしかしたらその作品の世界では誤りではなかったのかもしれない、と後で悩むことがあります。おそらく私も、今後多くの作品を公開するようになれば、誤りではなくとも「間違いですよ」と指摘されることがあるかもしれません。なるべくそうならない為に、考えたことをまとめてみました。




