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中国物ヒーローの呼び方

 前回は、古代中国物のヒロインの名について考えましたので、今回は中国物ヒーローの呼称問題について。

 書庫裏は、一部例外もありますが、基本的に三国志物が好きです。演義ベースでも、正史ベースでも、民間伝承でも。

 それで、たまにはゲームも漫画も人形劇も嗜むのですが、時々ふと思います。「この人たち、主君や上司のことを名前で読んでるけど、実際はあり得ないよね」と。

 皆様ご存じの通り、古代中国では相手の名を呼んで許されるのは親か主君くらいのもので、それ以外の人が名前を呼ぶのは非常に無礼なこととされます。でもそれでは不便だから、男子ならば成人する時に(あざな)を付けるわけですよね。しかし、相手の立場によっては(あざな)を呼ぶことさえ失礼なのです。『三国志』ファンなら、馬超が劉備を(あざな)で呼んで、関羽と張飛を苛つかせた逸話はお馴染みですよね。「上の立場にある相手は官職名で呼ぶ」というのが、古代中国世界に転移した時のライフハックの一つです。

 とはいえ、官職名は生涯固定されているわけではありませんし、(あざな)の習慣も日本人には馴染みません。「そもそも、創作した人物の(あざな)の付け方が分からない」という方も多いことでしょう。

 (あざな)を付けること自体はさほど難しくはありません。一番簡単なのは最初に兄弟間の生まれ順を示す「伯」(長男)「仲」(次男)「叔」(三男)「季」(末っ子)の字を持って来ることです。側室の産んだ長子なら「孟」の字を使うとさらにそれらしくなります。それで、二文字目はその世代に共通した字を使うも良し、名前から連想される字を使うも良し。前者の例には司馬懿の「仲達」、後者の例には孫権の「仲謀」が挙げられます。

 また、諸葛亮の「孔明」のように、名から連想される言葉を(あざな)にする、という手もありますし、本人の志を(あざな)にする手もあります。

 しかし、本格歴史小説ならばともかく、エンターテイメント作品では、「余計な設定を本編に出したくない」、「なるべく幅広い層の人たちに楽しんでもらいたい」という思いで創作される方も多いことでしょう。そういう場合には、登場人物同士を本名で呼び合わせるのも仕方のないことですよね。

 ちなみに、高等学校の国語の教科書でお馴染みの中島敦の『山月記』が、唐代の伝奇小説『人虎伝』の翻案であることは有名ですが、『山月記』で袁傪が「李徴子」と呼びかける部分は、『人虎伝』では「隴西子」と書かれています。李徴の父祖の出身地が隴西であるため、『人虎伝』の袁傪はそう呼んだのでしょう。けれども、その呼び方も、日本人には馴染みにくいものです。某国民的アニメの主人公でたとえるなら、「彼の生まれ育った場所は埼玉県だけれど、彼の父方のルーツは秋田県にあるから、彼のことは『あきたくん』と呼ぶね」というようなものですから。

 最初の一行で「難しい!」と言われがちな『山月記』ですが、実は中島敦も読者に配慮していたのかもしれませんね。

 

 呉の陸遜の字が「伯言」なのは、元の名である議から連想したものなのでしょうか。

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― 新着の感想 ―
 私はどうしても中国系の人が書いた小説には手を出せないのですが、なんか理由が分かったような気がします。 前提としてのルールが難しいのです。 真朱麻呂様の解説で、名前に関してはなんとなく分かったような気…
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