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古代中国物のヒロインの名前

 物を書く上で、悩ましいことの一つが、「何処まで現実、或いは史実に沿って書くか」という問題ではないでしょうか。

 異世界恋愛でさえ、いい加減に書けば「現実世界では実際は斯々然々(かくかくしかじか)ですよ」と指摘を受けるわけですから、他ジャンルがさらに厳しい眼にさらされるのは当然です。

 しかし、あまりに用語やリアルさにこだわり過ぎると、作者にとっては窮屈になり、読者にとっては難解になり過ぎる、という問題があります。

 そこで、創作上の方便が必要になるわけです。

 その方便の代表例が、皆様もご存知の「刑事ドラマのホワイトボード」。実際の捜査では事件関係者の相関図をホワイトボードに書き出すことはないそうですが、ドラマ視聴者に分かりやすいように、大抵の刑事ドラマではホワイトボードが使われるそうですね。

 ここでは、「分かりやすさ」「親しみやすさ」を狙った創作上の方便について考えていきたいと思います。


 今回は、古代中国物のヒロインの名前について。

 中国古典文学や史書に登場する女子の多くは、姓で呼ばれることはあっても、名で呼ばれることはありません(呂雉、董白などの例外はあります)。なぜなら実在する女性でも、その名が伝わっていないことが多いからです。

 当時は古代日本と同じように、女子が家族以外の人間に名を告げることはなかったのかもしれません(雄略天皇の和歌で乙女にわざわざ名を尋ねるのは求婚の意味があります)。また、妓女などを除けば、そもそも古代中国の女子に個人名が付けられることはなかった、という説さえあります。

 ではかの有名な「夏姫」や「大喬・小喬」は?

 実は「夏姫」は「夏の一族に嫁いだ姫の一族出身の女」という意味の通称ですし、「大喬・小喬」も「喬家の姉・妹」というくらいの意味しかないのです。

 それに、孫権の妹「孫尚香」や諸葛亮の妻「黄月英」が後代に創作された名前だというのも有名な話ですよね。

 『礼記(らいき)』では、男性から女性に婚約を申し込む過程で相手の女性の名前と生年月日を問う「問名」という儀式を行うということが書かれていますので、女性の名前を知るのはこの段階、ということになります。公開されている情報なら、わざわざ問う必要はないはずです。

 そして、字(通称)も、女子の場合は婚約が整ってから付けるものですから、妓女でも異類でもない未婚の女子が初対面の男性に姓名、或いは、姓と字を名乗るのは、時代考証的には不自然だと思われるのです。

 とはいえ、ヒーローがヒロインを呼ぶ時に「李氏」「張氏」では味気なく感じられますし、せっかくのヒロインですから、美しい名前を付けたいものですよね。

 エンターテインメント作品ならば、ヒロインが姓だけでなく、名まで告げるのは「刑事ドラマのホワイトボード」と同様に考えられるでしょう。ゲームや華流ドラマでも登場人物の女性が自身の名前を告げるシーンは珍しくはありません。

 しかし、本格歴史小説であるならば、ヒロインの名は伏せておいた方が良さそうです。

 学生の頃、「我が姓は劉、諱は備!」というようなことを書いて「おや、この主人公は既に亡くなっているのですか?随分と活きの良い幽霊ですね」と笑われた思い出……。中国物を読むのは好きですが、書くのは難しいです。

 個人的には、三国志物の世界でヒロインが自分のフルネームを叫んでも気にしませんが、三国志の英雄たちが満漢全席を楽しむのはエンターテイメントでも許容出来ません。

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― 新着の感想 ―
中華もの、とくに史実準拠ものは、やはり登場人物の呼び方に気を使いますよね。 以前書いた作品では、三国志もので言うなら「玄徳(劉備の字)殿、よくぞ参られた」みたいな書き方をしましたが、どうしても煩わしい…
お話の中では、姓でも名でもキャラクターの一部と言うイメージが強いので、作中に名前が出てくるのは当たり前のことだと思っていました。 名を名乗ると言うことも特別だなんて、少しロマンチックですね。でもそれを…
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