表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/5

第3話 創造のはじまり(最初のスケッチ)

 無能の烙印を押された俺は、命からがら森に逃げ込んだ。

 あの日は、人生で一番長い一日だった。


 森の中は、想像以上に暗い。陽が沈むと、辺り一面が墨を流したように黒く染まる。

 ネオンの明るさに慣れていた俺は、人が何も視認できない領域――いわゆる漆黒ってやつを、初めて実感した。


 夜は何も見えないし、獣の気配もない。

 でも、音はする。風の音。葉の揺れる音。自分の心臓の音。

 音がするたびに、何かが近づいてきてるような気がしてならなかった。


「……寝る場所、どうすっかな。」


 地面は硬く、根が突き出している。適当に枝を集めて寝床を作ったが、まるで石の上に寝ているような体の痛さだ。

 不安と恐怖で、正直まったく安心できない。

 おまけに空腹で倒れそう……。


 支給品の水袋が皮肉にも役に立ったが、それも長くはもたないだろう。

 明日、食材探しと一緒に……探しに……。

 こうして一日目の短い眠りを迎えた。


 ――翌日、空腹が限界を迎えた。

 生き残るためには、四の五の言ってられない。

 (こうなったら()()()()()生き残ってやる!) 


 そう意気込んだ俺が、まず初めにクリアすべき課題は食材探し――

 次に底をつきかけている水の調達が急務だ。


 辺りを見渡した……日中でも森は薄暗く不気味だ。

 最初に目に付いた物はキノコだった。

 見える範囲のキノコは怪しげな形のものが多かったので、少し範囲を広げて探索をした。


 明らかに鮮やかな色をしたキノコは危険だと聞いたことがある。

 だから、赤や青、紫色のキノコは除外した。

(地球じゃ見たことない色ばかりだ……。)


 選別しながらようやく手に取ったキノコはスタンダードな茶色だ!

 幸運にもねぐらの側にたくさん自生していた。

(少し小ぶりだけど、これならいけるか?)


 普段なら絶対に口にしないような物も、極限の疲労と空腹でご馳走(ちそう)にしか見えない。

(キノコがキラキラ輝いて見えるぜ!)


 キノコを拾い集めた帰り道、小さな音が耳の端に聞こえてきた。

 ――チョロチョロ……水の音だ。


 音の方へ足を向けると、茂みの奥に小さな湧き水を見つけた。

 手のひらで掬ってみると、冷たくて――生き返る。


「……助かった。」


 倒木にこびり付いていた苔をフィルター代わりにして、ろ過を試してみるが……濁っただけで上手くいかない。

 やむを得ず、そのまま湧き水を水袋に補充した。

 泥臭い。でも、うまい。生きてるって感じがする。


 食材が集まったら次は調理だ……。

 

 火種……なし!

 スパイス……なし!

 他の食材……なし!

(はい、()()()()です!)


 ――今日はキノコを刺身にして食べようと思う。

 

 つまりは……生だ……。

(天から授かりし()()()()()……そう思い込め!!)


 少しだけ……いやかなり土の臭いがしたが、食べられないほどではなかった。

 不味いが……ビッグバン的に不味い、わけじゃない?

 (意外といけるんじゃないか?)

 この調子でサバイバルで生き抜いてやるぜ!!


 ――ギュルギュルギュル!

 胃の奥が妙に重い。鈍い痛みとともに、じわじわと吐き気がこみ上げてくる……原因は言うまでもない。

 腹が内側からねじれるような感覚に、思わず地面に手をついた。

(この世界の難易度、()()()()()()じゃね?)


 寒気がした。


「……やばいな……俺、ほんとに死ぬかも。」


 この世界に来て、まだ一日目だというのに。

 まだ何も始まっていない。

 誰にも会ってないし、何も手に入れてない。


 それなのに──すでに、終わりが見えている気がした。


 ごうっ、と木々の間を風が吹き抜けた。葉がざわめき、まるで誰かが笑っているように聞こえた。

 今日は獣なのか魔物なのかわからないが、不気味な鳴き声がやたら煩い夜だった。

 リュートは身を縮め、丸くなって目を閉じた。


「明日は、火を起こそう……絶対に……。」



 翌朝、倒れ込んだまま、しばらく空を仰いでいた。

 呼吸が浅い。体は冷たい。

 でも、心のどこかで――何かが、灯っていた。


 ……そうだ。

 スキルカードをもう一度確認してみよう。


 そう思い経つと、俺は兵士に拘束される前にポケットにしまっておいたスキルカードを取り出した。



【職業】:クリエイターズ(階級:お絵描きニート)

【スキル】:棒人間召喚(Lv1)


 いつ見ても馬鹿にされているとしか思えない、ふざけたステータスだ。

 「そもそもお絵描きニートってなんだよ!」

(お絵描きまでは許すとして、ニートは職業じゃないだろう!)

 

 この世界の俺への冷遇に沸々と怒りが込み上げてくる。

 (それになんだ、どこのラノベでも見かけない、このギャグスキルは!?)


「ふつうはこの世界に勝手に呼んだのだから、チートスキルとかで接待しろよ! 美女のバートナー、イベントとか発生するでしょうが!」

 それが【棒人間召喚】って何さ、……すごい泣けてくる。


 そんなことを考えながらブツブツと独り言を発していた。

 (昨日、食べたキノコがチートスキルくれないかな?)


 くだらない事ばかりが頭を過る。


 ――しばらく、スキルカードと睨めっこをしていて、ふと気が付く。

「お絵描きニートのインパクトが強くて気が付かなかったけど、このクリエイターズって何だ?」


 クリエイターってことは何かを作るのか?

 お絵描きだから、描けってことか?

 どうやって……?


 頭をポリポリと掻きながら考え込んでいると、ステータス欄にあった大ヒントを発見する。


 【概要】:描いたものを具現化するスキル(ただし使用者の芸術センスに依存)


 そういうことだったのか!!

 要するに俺が想像したものが、具現化できる能力ということだ。

 一瞬、息を呑んだ。まさか、俺が描いたものが――この世界で実体になるってことか!?

 (つまりは想像力と絵心次第で、どんなものでも出せるってことか!?)


 例えば、移動手段に空駆ける馬、ペガサスとか、最強の想像種、ドラゴン、伝説の古代兵器なんか出せたらスゴイ!!

(ついに俺のムーブが到来か!?)

 壮大なスケールに妄想は膨らむばかりだ……。


「……早速、試すか。」


  俺は、ゆっくりと体を起こし、右手の指先を見つめた。

 ――あの時、あの光は、確かにここから出た。

 

 空に……描こうとしたが、手はむなしく宙を切るだけだった。


「……え?反応、なし……?」


 何度も空をなぞってみるが、手ごたえはゼロだった。

 そういえば――あの時は、指が勝手に動いてたんだっけ……。

 もしかして……あれって、チュートリアル的なサービスだったのか?


 仕方なく、俺は地面に視線を落とした。

 足元の土は柔らかく、指先でなぞれば、線が描けそうだった。


 「お絵描きニート……自分で言ってて腹が立つが、お絵描き……。」

 

 ――土でお絵描き……やってみるか。


 しゃがみこみ、右手の指で土の上をなぞる。

 想像を巡らせ、丁寧に、集中して、描いていく。


 かっこいいドラゴンだ!ドラゴン……。

 もしくは雄大なペガサスでもいい!!

 意識の高まりに呼応して指先が鈍い光を帯びる。


「……出てこい!僕の友達!!」

(ん?また……デジャヴ?)

 妖怪が出てきそうな気がしたが……気のせいだった。


 ぽんっっっ!!


 土の上で震える光の粒から、ひょっこりと棒人間が飛び出してきた。

 

 無情にも俺の期待とは逆に、出てきたのは――

 小学生の時にたくさん描いてきた……()()()だ!

 線がふにゃふにゃ、足も短い、どこか憎めない愛らしいヤツだった。

 限りなく二次元のそいつは紙のようにペラペラ、あえて言うならば紐だ。


 そして、すぐに

 ――ぱんっっっ!!

 爆ぜた。


 閃光のように、そして音と光は瞬く間の出来事だった。

 

 俺はしばらく立ち尽くした。

 期待が高かったぶん、落差がひどい。

 心が……折れた気がした。

最後まで読んでいただきありがとうございました!

災難続きのリュートの今後の展開に乞うご期待・・・。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ