シーレの秘密
「そ、そんな・・・・・。姉ちゃんは俺の為に自ら堕天使になったって言うのかよ・・・・・・。」
「全て事実だ。現実を受け入れろガロード。」
ライオネルから全てを聞かされたガロードは落胆する。なぜあの日、カレンと共に山に行かなかったのか。なぜあの日、自分はもう少し早く家に帰らなかったのか。なぜあの日、エリカとワタル以外の村人に捜索の手伝いを頼まなかったのか。色々な後悔がガロードに押し寄せる。
「お、親父。あんたは姉ちゃんを連れ戻してどうするんだ?」
「俺は、魔王様を復活させる!そして、魔王様と共にこの世界を一から作り直す。そのためにはカレンの力が必要だ。」
「姉ちゃんはきっと、そんな事を望んではいない。勝手に姉ちゃんを巻き込むな。やりたきゃ親父、あんた1人でやれ!俺は、この命に代えてでも姉ちゃんをお前達には渡さない。」
ガロードは父親ライオネルを止めるべく、立ちはだかる。シーレをレイナの元に預け、レイナには解毒薬を渡す。そして今一度ライオネルの前へと向かっていく。ガロードは深呼吸して構える。
「俺とやる気かガロード?ただじゃ済まされないぞ!?最悪死ぬぞ!?」
「かまわねーよ!どのみち、ここであんたを止めないと死ぬんだからな。」
「そうか。なら仕方ない!覚悟しろガロード!」
2人が、構え静寂が訪れる。ライオネルもガロードと同じクラスでモンク。共に近距離を得意とする戦闘スタイル。ただ、経験と実力の差はハッキリしている。圧倒的に不利なガロードだが、それでも逃げ出したりはしない。ここで逃げれば、世界が滅ぶだけだとガロードは知っている。そしてガロードが初めに仕掛けようとした時、森の方から声が聞こえた。
「おい!ライオネル、とっととシーレ連れて来いよ!こっちには時間がねーんだ!早くしねーとアザゼル先輩に怒られるぞ。」
ガロードは、踏み込むのを止めて声のする方を見た。ライオネルも声のする方に目を向けて、
「なんだ、ラハブか。何の用だ!せっかくの親子水入らずの時間を邪魔するな。」
そこには、【暴力】を意味する名を持つ堕天使ラハブが立っていた。
「ああん?ライオネル、誰に口きいてんだ?ブッ殺すぞ?」
木にもたれかかり、腕組みをしながらライオネルを睨みつけるラハブ。その圧倒的重圧に、ガロードは動けないどころか声も出せない。
(なんだこいつ。イポスの奴とはまるで次元が違う。同じ堕天使なのか?堕天使にはこんな奴も居るのかよ)
「そいつは悪かったよ。だが少し時間をくれ!5分でいい。このバカ息子が、今後脅威になるか確かめたいんだ。脅威になると判断したら、この場で殺すからさっ。な、いいだろそれぐらい?」
「てめーに決定権はねーんだよ!今さっき、アザゼルさんからお呼びがかかったんだよ!準備が出来たから合流しろと!そんなゴミみてーな人間ほっておけ!どうせすぐに死ぬことになるんだからよ。」
「あら?いいじゃない、ラハブ?せっかくの親子水入らずなんでしょ?5分ぐらい待ってあげなさいよ?可哀想じゃない?」
すると、さらに奥から女性の声が聞こえる。
「ライオネル?久しぶりに息子さんに会ったんでしょ?そりゃ、少しぐらいお話ししたいわよね?ラハブも、ライオネルが脅威になるならこの場で殺すって言ってるんだしさ、見守ってあげたら?アザゼルには私から言っておくからさ!ねっ!?」
「ナアマ姉さんがそこまで言うなら・・・。おい、ライオネル!5分だけだからな!ナアマ姉さんに感謝するんだな!」
「あら!?いい子ねラハブ!後でご褒美あげるわよ。」
堕天使ナアマ。それは【喜びを与える者】の意味を持つ娼婦の堕天使。
「ありがとうございます、ナアマ様。後で極上のワインをお持ちします。」
「あら、別に気にしなくていいのに。でも、ありがたく受け取っておくわ!」
さらに堕天使が増えたことで、気が動転するガロード。まず勝ち目が無いことは確実だ。堕天使2体に現時点での強さが分からない父親。このピンチをどうしのぐか必死に考える。
「よし、ガロード。お前の相手をしてやる。時間が惜しいからさっさと、かかってこい。」
「わかってるよ。こっちも早くあの2人を安全な場所に避難させたいからな。行くぞ親父!」
先にガロードが仕掛けた。雷神の型で攻撃力を底上げしてライオネルに襲い掛かる。負けじと、ライオネルも雷神の型で応戦する。どちらも一歩も引かずスキルを使いながら拳が交わる。
「どうした、ガロード。お前の実力はそんなものか?」
「うっせー!ここからが本気だ!俺が編み出したスキル食らってみろ!」
「雷神の型奥義!雷神の化身!」
【バチッ、バチッ、バチッ】
ガロードの体の周りに、稲妻が纏わりついている。風で流れてくる木の葉も、ガロードの周りに近づいた途端チリも残らず消滅する。
「ほほう!なかなか面白そうな技だな。」
「ふん、笑っていられるのも今のうちだぞ!」
(この技は、長くても1分が限界だ。それまでになんとしてもケリをつけないと。)
「行くぞ!親父!」
再び、ガロードとライオネルは拳を交える。お互い、殴り殴られ一歩も引かない。だが、経験の差からか、徐々にライオネルが押し始める。
「クッ。」
攻撃の手を緩めないライオネルだがここで、
(いいか、ガロード。そのまま攻撃しながらよく聞け。俺の目的は、魔王討伐だ。今さっきラハブがアザゼルから「準備が出来たから合流しろ」と言っていただろ?あれは、魔王復活の準備が出来たって事だ。)
(なっ!)
(馬鹿野郎!攻撃の手を緩めるな!あいつらに感づかれる。)
(あ、ああ、すまん親父。で、その後どうなる?)
(まず堕天使共は国を墜とすことを始める。まずは、王都イザークのあるクリスタ王国。そして次は、隣国の王都セシルがあるアレンシア王国。そして、王都アグリアスあるフィーレ王国だ。)
(な、何だと!本当かそれは?)
(ああ、間違いない。後1か月もしたらその3か国は堕天使の手に落ちるだろう。だから、お前もこの後すぐにフィーレ王国に行け!クリスタ王国とアレンシア王国は、すぐに墜ちるだろう。最後のフィーレ王国にはおそらく堕天使の幹部が集まる。その時、俺は堕天使どもを叩くつもりだ。そのために、カレンの力が居る。)
(カレン姉ちゃんにそんな力があるのか?)
(ああ、カレンが覚醒して元の姿に戻ればおそらく堕天使の中で1番強い。逆に言えば、カレンが居ないと堕天使を殲滅することが出来ない。だから、お前はカレンを連れてフィーレ王国に行け!そして、この事を信頼できる人物に話せ!いいな!)
(わ、わかった。でも、親父はどうするんだ?)
(俺は、このまま奴らと共に行動する。時が来れば、お前たちの味方につくつもりだ。では、うまくやれよガロード!)
そう言うと、ライオネルは渾身の1撃を放ちそれを受けたガロードは吹き飛ぶ。
「弱いなガロード!最初はお前も連れて行こうかと思ったが、やめだ!今のお前では何の役にも立たん。とっとと野垂れ死ね。」
「クソがっ」
「わりーな、ラハブ!時間とらせた!こいつはやはりただのゴミだ!もう、気が済んだ!アザゼル様の元に行こう!」
「チッ!だから言っただろーに!そんなゴミみてーな人間ほっておけよと!てめーは、最初から俺の言う事聞いてればいいんだよ!このクズが!」
そう言って、ライオネルはラハブとナアマの方へと歩き出す。だがしかし、ナアマは何処か違和感を感じていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
その後、ライオネル達は姿を消しこの場から居なくなる。
「まずいことになったな。急いでこの事をエリーに伝えないと。」




