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秘密を暴く

 しばらく歩けば、誰もいない閑静な公園に到着した。ここには何度か来たことがあるが、相変わらず人は見当たらない。この公園には遊具はないが、彼女はそんなことを大切にしていないようで、新しい景色にわくわくしていた。


 夜戸出をよくしているのかと思っていたのだが、こういう風に遊んだりしていなかったのかな。


「公園。久しぶりに来たかも」


「普段は何をしているんだ?」


「勉強よ。色々な知識があればどんな事態が起きても対応出来るでしょ?」


「まあ、無いよりはマシかもしれないな」


 何か、意外とポンコツな部分があるな。だからあんなことがあった今でもあまり怖くない。


「光は勉強得意なの?」


「いや全く。なんならドベ筆頭かもしれない」


 入学試験はギリギリ解けた感じの問題ばかりだったので、恐らく成績は下から数えたほうが早そうだ。


 勉強が得意なのは羨ましいな。どこに行っても頭が良いって言うのは便利だし、将来にも繋がる可能性も高いし。俺も少しは頑張ってみるのもいいかもしれない。


「もし朝比奈がよかったら、たまにで良いから勉強を教えて貰えないか?多分このままじゃ留年するかもしれないんだ」


「いいよ!じゃあ、毎日遊びに行っていい?」


「ま、毎日?いいけど……」


 快く引き受けてくれたのはいいものの、逆に彼女が心配になってきた。


 本当に俺以外に友達がいないのだろうし、毎日遊びに行く宣言をするっていうことは、つまり朝比奈は友達を………。


 これも夜に隠しておくか。


 俺は近くにあったベンチに腰掛けると、行きつく暇もなく朝比奈はその横にやってくる。


「何もないな」


「それでもいいの。この雰囲気を味わうことが重要だから」


「まあ、お前が楽しそうだからそれも悪くない」


「でも、何かに熱中出来たらよかったなぁ」


「やりたいことがあったのか?」


「本当は何か部活をやってみたかったけど、勉強とか暗殺術とか色々やらなきゃいけないことが出来ちゃったから」


「暗殺術……」


「それで、もしさ。私がその復讐を果たして、ここにいることが難しくなっちゃっても、友達でいてくれない?」


 震える声で、独りぼっちの怖さに襲われる。俺が見ていないと、すぐにでもそこから逃げ出して消えてしまいそうで、その不安定さにこちらまで伝染して張り詰めた気分になった。


 それが彼女の素直な言葉。一瞬だけ、迷いそうだ。


「ま、俺でいいならな」


「ほんと⁈」


「あと俺に何かしらの支障が出なければ」


「その辺は心配しないで。友達にそんな重い仕事させないから」


 拳を握って力強くアピールするなんて頼もしい。


 けれど、復讐を果たしたのならどこへ向かうのだろう。朝比奈にとってここは地獄に等しいはずだ。家族は殺され、復讐に燃えて、無駄になるかもしれない人生を歩むしかないなんて。随分と惨めだ。


 まるで昔の自分を見ているかのようで、手を貸してしまいそうになる。弱くて、愚かで、何者にもなることはなく、ただ半死半生みたいな人間だった。


 目の前の少女は、俺と同じような道を進むしかないのか。


 ああ、そうだ。朝比奈は止まらない。


「えっ?」


「どうした?」


 俺の顔を見ていた朝比奈の視線が少しだけズレているのが分かると、後ろを見た。


 そこには、恐らく仕事帰りであろう女性を後ろから羽交い締めしている男の姿があった。やはりこの辺は人気がないことが多いため、そこを狙って犯行に及んだのだろう。


 捕まっている女性は口を押さえられており、大きな声を出すことが難しいため俺たちが見つけることが出来たのは不幸中の幸いだ。


「どうしようっ。警察とか呼んだほうが良い?」


「っ!」


「ひ、光⁈」


 俺は慌てる朝比奈を無視して駆け出した。


 仮に男が強盗ならわざわざ身動きを止めるために羽交い締めにする必要はない。俺は男の目的が誘拐であると判断した。


 ならば、大けがを負わせるほどの凶器は持っていないと推測する。持っていたとしても、暴れる女性を押さえるのに必死でそれを出す時間を与えなければ何も怖いものは無かった。


 朝比奈が大きな声で俺を呼んだせいで、二人はこっちを向いてしまった。しかしそれは好都合。


 俺はブレザーを脱いで、スラックスのポケットからブレザーのポケットにスマホを入れた。そして、ブレザーのスマホから一番遠い場所である部分を掴んで腕を伸ばす。


 男は女性を離して、俺に向かって女性を突き飛ばして逃げようとする。


「な、なんだ⁈」


「きゃっ‼」


 女性を避けて男の近くまで行き、ブレザーを掴む腕を大きく振りかぶりそのまま思い切りスイングした。


 ポケットに入ったスマホが狙う場所は顎の先端。そんなものを予測できない男は避けることもガードすることも出来ずに、その攻撃を許すしかなかった。ゴンッと少し心配になりそうな鈍い音がすると、そのまま後ろに倒れそうになり俺はそれを支えてゆっくりと地面に寝かせた。


 狙い通り気絶してくれたが、あんなことは二度とやるべきじゃない。もし仮に男を殺めてしまったら俺に責任はとれない。


「あ、ありがとうございます!」


 訓練されたように頭を下げてきた女性はスマホを取り出し、警察に連絡する。


 この時間はもう外に出てはいけない時間だ。まともな大人ならこのことを警察に言ってしまうだろうしな。


「光っ‼」


 真実とは意外と人に話さないものだ。朝比奈は俺に接近し、何も言わずに平手で頬を叩く。ばちん!と響く音と共にじんわり痛みが増してくる。避ける事も出来たが、自分への罰として受け止める。その音に反応した女性は、理解不能な状況に目をぎょっとさせスマホを耳から離して呆然としてしまった。


 朝比奈は今にも涙を零してしまいそうだった。やはり、それに気付いてしまったようだ。


「どうして言ってくれなかったの?」


「……言えるわけないだろ?友達なんだから」


 女性は空気を読んだのか俺たちから離れていく。


「一度、家に帰ろうか」


「分かった。でもちゃんと話してよ。そうじゃないと、何か裏切られてみたいじゃん……」


 ぷるぷる震える頬は泣かないように我慢している。


 そりゃそうだ。自分は悲しい秘密を話しておいて、俺は何も言わずに被害者ヅラしていただけなのだから。折角共感してくれたと思っていたら、そっち側の人間であったなんて朝比奈からしたら最悪でしかない。


 俺は彼女の手を引っ張る。その表情を見ることはせず帰路につく。


 彼女には悪いが、俺は仕方ないで済ませるつもりだ。


 その力の一端を見てしまったら、もう言い逃れは出来ないが。


 まだバレたくなかったのだが、こればかりは運が悪いとしか言えないな。



 そうだ。俺は元暗殺者なのだ。



 さあどう乗り切ろうか。この修羅場を。

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