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嫌い

 三日月が夜空の真ん中に浮かんでいた日にふと呟いてしまった。



「もうこんなことをして生きていたくない」



 自分の人生に疲れてしまった。一体何のために生まれて死ぬのか、普通なら考えなくてもいいことに悩まされたせいで、やらなくてはいけないことにも手がつかなくなる始末。きっとこっちの世界は自分には向いていないのだろう。



 何かの拍子にアイデンティティがゴロゴロと崩れて、我を取り戻した感覚だった。



 だが、どこに行けば良いのか。居場所なんて最初から無いはずなのに、無理して自分に嘘をついて今まで見て見ぬふりをしていたことが仇となり、自分が今どこにいるのかも分からなくなってしまった。



 誰かに必要とされたいわけじゃない。ただ、ここにいたくない。また飲み込まれる気がして。自分のことを知っている人がいない場所のほうが、居心地が良さそうだったから走って、遠くの街に逃げた。



 けれども、三日月は逃げ惑う自分を見つけて笑う。



『逃げられないぞ』



 そんなことを言われているような気がして。


 最近、月が少しだけ嫌いになった。自分と同じで表面だけ取り繕って綺麗に見せている。もう一つの姿は醜いくせに。お前がついているのは餅ではなく嘘だ。



 だけど、そんなことはどうだっていい。



 新しい生活を始めてみることにした。


 もう一五歳。普通だったら高校生の道を選ぶ人がほとんどなのに、そんな選択肢は見えていなかった。今までの経験も世界も捨てて、全て新しい自分を目指すことが出来るのはこれが最後になってしまうのかも。


 やり直そう。どうせロクな人生じゃなかったのだから、ここの世界は昔よりは幾分マシであればいい。期待はしないが、ほんの少しのスパイスくらい求めたって良いはず。


 でもそこで邪魔になるのが昔のこと。足を引っ張るくらいなら捨てていく。




 それがダメだって言うのなら、この夜に隠しておく。




 夜は何でも隠してくれる。過去の出来事や、悩んでいること。秘めた想いだって。


 そのベールは広くて暗くて、そして深い。星空の模様や暗雲の模様だってあるからお好みで。普段は誰にも見られることのないようにしっかり覆っておいて、必要な時にそれを外す。陽が出ている間は、誰にも見られることはないから安心。



 もし誰かが何かを隠そうとしているなら何も言わずにそっとしておこう。



 見て見ぬふりは自分のためでもある。



 静かな夜はどんなものでも運んできてしまう。



 気落ちしているなら、それは君のせいじゃない。



 闇は誰だって怖い。包み込むのは優しさだけじゃないから。



 でも、もし何かあっても自己責任。その時は誰も助けてくれないよ。



 子供も大人も、男も女も関係ない。



 夜は自由であっても、あなただけのものではない。悪い人もいる。



 その約束を守れる人だけが、この夜に秘密を隠していい。



 あ、君もそこに秘密を隠しているの?



 ────分かった。何も見ていないよ。


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