恋とささくれ
鏡子「あー、痛い…またささくれができちゃった。」
?「…ちゎ」
鏡子「ん?」
ささくれ「こんにちは」
鏡子「ささくれが喋ったー!」
ここからささくれとの鬱陶しい恋物語は始まった
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ささくれ「はじめまして、私はあなたのなめらかな右手の一番長い中指の、些細なささくれでございます。」
鏡子「そいつはどうも、私は津村鏡子どうもよろしく」
ささくれ「僭越ながら私はあなたに恋をしてしまったようなのです。」
鏡子「私あんたの母体だよ?」
ささくれ「ええ創造主様、いつかは独立します故、もう少しばかり貴方の指先にいてもよろしいでしょうか。私はここが一番居心地がいいのです。」
鏡子「勝手にしろや」
ささくれ「この上なき喜び」
鏡子「それで、なんでささくれのあんたが私に惚れたわけ?」
ささくれ「ええ、私は貴方をこの小さな指先からずっと見ておりました。」
「ペンを持つとき、貴方は優しく
ものを持ち上げるとき、丁寧に
何かを置くとき、そっと繊細に
朝起きて、カーテンを開ける小さな手はいつも嬉しそうにしています。
職場で小言を言われても、どんなにイライラしていてもタイピングは滑らかに丁寧です。
暇なとき貴方は指先をコツンコツンと机に音を。その仕草もまた愛らしく。
とにかく私は貴方のそういうところに惚れたのです。」
鏡子
「そう、ありがとね。あんたのことを切ろうかとも思ったけど突然喋り出すささくれは面白そうだからやめとくわ。」
ささくれ「な、なんと…貴方が、私をが直接切ると………」
鏡子「だって痛いじゃん」
ささくれ「なっ…」
ささくれ「そう…でしたか。
私は生まれながらにして貴方の苦しみ、痛みなのですね。
貴方のお役に立つどころか負担になっている始末…。
ご主人様、どうかわたくしめをお切りください。
ご主人様、私は耐えられませぬ。生まれながらにして愛するひとの負担になるなど。
身勝手で申し訳ございません。短い間でしたが貴方との時間は何よりも尊いものでした。
愛しています。」
鏡子「待って待って待って、やっぱあんた面白いから切らないであげる。あと言うほど痛くないから。
その代わり暇なときは話相手になってよね。」
ささくれ「ああ、なんと寛大な御心。
感謝してもしきれません。」
これが鏡子とささくれとの出会いであった。
つづく
鏡子可愛いなぁ