記憶の色を書く筆
ぽんたが差し出した瑠璃色のビー玉。
それに呼応するように、割れていた古びた硬貨が、形を変えて筆へと生まれ変わった。
それは、「色を紡ぐ」ための筆だった。
けれど、悠真はまだ――“色”を描く方法が分からなかった。
ぽんたとクロは、色のない花をつつきながら鼻歌まじりに遊び、リトはただ静かに、悠真のそばに佇んでいる。
そんな中、悠真は自分の「好きな色」の話をはじめた。
夕焼けの赤。
駅のホームから見えた、ビルの隙間をはみ出すように空を染めていた色。
帰ってきた、と感じられるあの風景。
ぽんたは興奮してしっぽをふくらませ、続きをねだった。
クロはぽつりと語った。
自分のビー玉も最初は「偽物の色」と言われたと。
けれどそれは、誰かが諦めきれなかった“願いのかけら”のようにも見えたと。
――色とは、記憶であり、夢であり、物語である。
この世界で生まれ育った子たちは、本当の“色”を知らない。
だからこそ、悠真の語る色に惹かれるのだ。
その想いが、筆をそっと震わせた。
悠真はゆっくりと筆を持ち上げ、一本の白い花に触れる。
あの日見た夕焼けの赤を、そっと落とし込むように――
じわり、と色がにじんだ。
花びらの中心から、夕焼けの温もりが広がっていく。
ぽんたは目を見開き、リトはそっと微笑み、クロは静かに花を撫でた。
風が通り抜け、一輪の赤い花が、白い原っぱの中で静かに揺れた。
それは、悠真が初めて描いた“色”。
記憶が咲かせた、一輪の物語だった。
※次回、「赤い花に宿るもの」――旅の記憶が、そっと目を覚ます。