小さな背中、大きな名乗り
ふと、ぽんたが立ち止まる。
「……あのな。ワイ、持ってきたもんがあるんや」
ぽんたの小さな手が開かれ、その中心には瑠璃色のビー玉が一粒、ころんと転がっていた。
それは淡く光り、内側で揺れる何かを閉じ込めているようだった。
「これ、兄ちゃんに渡されててん。“色が見える奴なら、きっと分かる”って」
不安げな視線のまま、ぽんたはビー玉を悠真に差し出す。
受け取った瞬間――胸元にしまっていた、あの割れた古びた硬貨が光を放ち始めた。
「……っ!」
硬貨の欠片はふわりと浮かび、空中で柔らかに絡まりながら、ひとつの形を成す。
それは、金属とも木ともつかない不思議な質感の“筆”だった。
筆先には淡い光が宿っていた。あの桜の社で見た、“記憶の色”のように。
「これ……」
リトがそっと息を呑む。
「書けるんだ。この筆で、“色”を」
ぽんたは丸い目をまんまるにしていたが、すぐにしっぽをぱたぱたと振って叫んだ。
「な、なんか知らんけど、すごいことになったんやな!? ワイ、役に立てたんか!?」
悠真は微笑みながら、その頭を撫でた。
「うん。……ありがとう、ぽんた」
ぽんたは照れたように身を縮めながらも、誇らしげに胸を張った。
「ワイな、小さいけど、ちゃんと“旅のお供”やさかい!」
春風が道を撫でる。
瑠璃色のビー玉は、筆の柄にすっと溶け込んで消えた。
世界はまだ色を失っている。
でも――たしかに今、ここにひとつの“色”が灯った。
誰かの願いが、想いが、重なって生まれた光。
その光を携えて、四人の旅は、また一歩、前へと進んでいく。