たぬきだらけレースと、クロの赤面朗読事件
にぎやかな屋台村のど真ん中。
ぽんたが威勢よく声を張り上げる。
「たぬきだらけレース、はっじまるでー!!」
元気いっぱいにスタートの合図を――
……出さずに、ぽんた自身が一番に走り出してしまった。
「おい、スタートって言ってないぞ!」
クロが耳を畳んで呆れる間もなく、他のたぬきたちも慌てて後を追う。
まるでお祭り騒ぎの大運動会だ。
ゴールまで一直線。
ぽんたは色付きの玉をしっぽで器用に運びながら、にっこにこでゴール!
「一等賞はぽんたちゃんだー!」
屋台のおばちゃんが盛大に拍手して、ぽんたにどら焼きを手渡す。
ぽんたはどら焼きを両手いっぱいに抱えて、
「みんなも一緒に食べよなぁー!」とにっこり。
見ていたクロはため息をつきながら、どら焼きをひとつ受け取った。
⸻
日も暮れて、夜のお祭りの部が始まる。
クロは「物語の森」で絵本の読み聞かせをしていた。
小さな子供たちが集まって、しんと静まりかえる。
クロが手に取ったのは、見慣れない分厚い本。
開いた瞬間――
「……君を、誰よりも愛しています」
クロの声が震えた。
読み進めるうちに気づく。これ、ラブレター集じゃないか!
(しまった……本を間違えた……!)
シーンと静まりかえる子供たち。
ぽんたが不思議そうに首を傾げる。
「なぁクロ、それどんなお話なん?」
たまらずクロは耳まで真っ赤にして本を閉じる。
遠くでこっくりさんが腹を抱えて笑っていた。
「し、仕切り直すからな!」
必死に別の童話を取り出して、朗読をやり直すクロ。
その横で、ぽんたは「クロ、顔真っ赤やで〜」と無邪気に笑っている。
⸻
夜の祭りは続く。
あちこちで笑い声と音楽が溢れていた。
悠真はふと、たぬき村や、こっくりさんの店、
この街に住むみんなの未来を思い描きながら、
柔らかい灯りの中、どら焼きをひと口かじった。




