希望の場所
「こんな生活、アタシの美肌に悪いのよぉ…!」
こっくりさんがごろんと倒れて、耳をぱたぱた揺らす。
「でも仕方ないよね、ほんとにどこもかしこも廃れてて…」
クロがぽんたの毛づくろいをしながら呟く。
「テント、俺もそろそろ限界感じてきたかも…」
悠真は苦笑いしながら、地面に広げた地図のようなものをじっと見つめる。
そこには色を失った村の跡、迷いの者が現れた場所、そして唯一“色が戻った場所”が記されている。
りとがぽつりと口を開いた。
「ひとつ、試してみたいことがある。かつて“色を閉じ込めた者たち”が集まっていた、祈りの都があったという…伝承だけどな」
「そこには、色を守る“神の社”が残ってるかもしれないってこと?」
悠真が目を輝かせる。
「可能性はある。けれど…遠い。険しい道のりになる」
りとの尾が静かに揺れた。
「遠くても!キレイな宿があるかもしれへん!」
ぽんたがピョンと跳ねる。
「そうと決まれば、出発の準備ね!」
こっくりさんが勢いよく立ち上がる。
「次に野宿したら、今度こそ泣くわよアタシ!」
旅の新たな目的地は“祈りの都”。
色を失った世界に、希望の社はまだ残っているのだろうか——。
祈りの都に思いを馳せながらこっくりさんの店の話を聞いていた
アタシの店はなんだか色々言われてるけど
なんてことはないのよ?
「ただの薬草とちょっとした気の巡りを整えるだけ。誰かが“叶った”とか言うから面倒くさい評判が立っちゃってねぇ…」
こっくりさんは肩をすくめて、葉っぱのようなものを指でくるくる回していた。
「でもさ、それって実際叶ってるんでしょ?」
悠真が問いかけると、こっくりさんはちらりと視線を向けて、にやっと笑う。
「さぁどうかしらぁ?その人が“本気で願った”からこそ、叶ったのかもよ?アタシはちょっと背中を押しただけぇ〜」
「なんかそれ…師匠に似てる」
悠真の声はどこか遠くを見ていた。
「まぁ、アンタの師匠とは知り合いだったしね」
ぽん、と葉っぱを悠真の頭に乗せながらこっくりさんが言う。
「えっ!?マジで!?えぇっ!?」
クロがぴょんっと跳ねて驚く。
「…ぽんたの怪我も、ただの薬草だけじゃなかったの、知ってるわよね?」
声のトーンを落としながら、こっくりさんは微笑む。
「アタシの“店”ってのはね…願いじゃなく、“縁”を扱う場所なのよ」
不思議な風が一同の間を通り抜ける。
「祈りの都」もまた、そういう“縁”の先にある場所なのかもしれない。
師匠ではないこっくりさん
貴方は…師匠の一番弟子の?
よく師匠があの子またどっかに行って…困った子ねほんと
まぁどうせまた薬草でなんかやってるのね
こっくりさんは一瞬きょとんとしたあと、ふふっと含み笑いを漏らす。
「…そうそう、その“困った子”がアタシよぉ〜。師匠はほんっと口うるさかったわね〜。あれはダメこれはダメ、でもって時々すっごい笑うのよ、思い出しただけでムカつくわ〜。……でも、ね」
少しだけ目を細めて、遠い記憶を懐かしむような声で続ける。
「“あの子は器用なんだから”って、よく言ってたわよ。アタシのことも、アンタのことも。あの人、心配性だったもの。“この子たちが迷わず生きられますように”って、まじないかけてたわよ」
ぽんたがぽかんと口を開けて見上げている。
クロは気まずそうに視線を逸らしてる。
「師匠はね、アンタにだけじゃなく、私たち全員に“居場所”を作ってくれてたの。…でもその居場所、今はもう残ってない」
こっくりさんはふっと笑い、けれど少し寂しそうな表情を見せた。
「だからよ。あたし達が作るのよ、新しい居場所を。…この色がまだ消えてしまわないうちにね」
こっくりさんの言葉に、空の色がほんの少しだけ明るくなった気がした。




