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忘れられたナニカ

「こっくりさんってずっと喋ってるねぇー?」

クロが耳をぺたんと畳み、呆れたようにため息をつく。


「いいじゃないのよー、お喋りしながらの方が楽しいじゃない?」

こっくりさんはふわりと笑いながら、悠真の顔をのぞき込む。

「ちょっと悠真?おやつ出しなさいよ、おやつ。

ぽんたちゃんも食べたいわよねぇ?」


「ほ、ほんまにええの?ええの!?わぁあ…!」

ぽんたは巻き込まれていることも忘れて、目を輝かせ、手をニギニギ。

すでに頭の中はおやつ一色だ。


「…仕方ないなぁ」

悠真は苦笑しつつ、慣れた手つきで地面に枝を走らせる。

ふわりと甘い匂いが広がり、次々と描いたおやつが現れていく。


「キャッホー!!」

ぽんたは嬉しそうに跳ねながらおやつにかぶりつき、

クロは「…毎回よく出るなぁ」と感心しているのか呆れているのか、微妙な顔。

りとは静かに微笑んで、こっくりさんに一礼する。


そして、そんな不思議な光景は、もはやこの旅のいつもの風景。

4匹と1人にとって、それは「当たり前」の優しい日常になっていた。

森の奥から、まるで瘴気そのものが這い出してくるように嫌な気配が満ちていく。

ざわ…ざわ…と、風もないのに木々が鳴り、動物たちの気配が一斉に消える。


こっくりさんが、いつものふざけた調子を消して、凛とした表情になる。

「ぽんた、こっちにおいで」

言葉に逆らえず、ぽんたは小さく頷き、そっとこっくりさんの後ろへ隠れる。


「アレは……よくないわ。子供が見たら、夢に出る」

その声は、今まででいちばん低く、冷たかった。


森の木々の合間から姿を現したのは、ドロドロと溶けたような身体に、まともな形を保てていない“迷いの者”。

目も、口も、輪郭すらもあやふやで、ただ“存在している”だけでおぞましい。

それでも笑っていた。

ニタリ…ニタリ…と、形にならない顔で。


「……あら?何がそんなに面白いのかしら?」

こっくりさんの袖の中から、ひらりと札が現れる。

それをひとつ、ぱしんと空に叩きつける。


「失せなさい。ここはあんたが居ていい場所じゃないの」


だが“迷いの者”はやめない。

むしろ一層嬉しそうに、楽しそうに、笑う。

まるで——この場にいる皆の“色”を、壊す瞬間を想像して、喜んでいるかのように。


そして、瘴気がさらに濃くなる。

空気が重く、黒く、歪む。


その時、りとが前に出て、静かに構えた。

「……今度は、俺も容赦しない」

クロも唸りを上げ、悠真は筆を強く握りしめる。


戦いの火蓋が、再び落とされようとしていた。

「ウレシイナァ… ヒサシブリノエモノ… ウレシイナァ…」

迷いの者の口から漏れるその声は、人の声とも獣の声ともつかない、どこか底冷えするような音だった。

それはまるで、魂の奥底をじわじわと侵してくるような、不快な囁き。


「……あら」

こっくりさんの目が細くなる。

「喋れる個体は、初めて見たわ……不味いわね、これは」

彼女の背に、じっとりと冷たい汗が流れる。

“ただの迷いの者”ではない。進化している。あるいは、何かに導かれている。


風がうねる音が響き始める。

りとが静かに手を掲げ、周囲の空気を操って迷いの者を包囲する。

その風は鋭く、まるで刃のようだった。


「ぽんた、しっかりつかまってろよ」

クロがぽんたの襟をくわえて、全速力で安全な木陰へと走る。

「う、うん…!」ぽんたは怯えながらも、じっとこらえる。


そして——悠真は、静かに筆を構えた。


筆先に宿るのは、濃くて鮮やかな“色”。

それは希望、温もり、そして命の象徴。


「ここは、俺たちの旅路だ。お前に、汚させはしない」

迷いの者をまっすぐに見据え、悠真は一歩、前に出た。


クスクス笑う声がする

見ると迷いの者が笑っている

不気味な顔をこれでもかと歪めて


りとの風が迷いの者を切り裂く

何度切り裂いても元に戻る姿に一同は困惑した


「なんなのよコイツ…」

こっくりさんが珍しく歯噛みする。

札を投げても燃え尽きて灰になるだけ、効力は弾かれている。


「悠真!アレは、ただの迷いの者じゃない!」

りとが風の中から叫ぶ。

「誰かが力を与えてる…それも、とてつもなく悪い“色”を!」


悠真の筆が震える。

色を塗っても、まるで油の上に絵の具を垂らしたように滑って消えていく。

「色を、拒絶してる…?」

「違う…色を、食べてるんだ」

静かに、こっくりさんが言う。


「うれしいなぁ…もっともっと…きれいな色……」

迷いの者が、嗜むように舌を出す。

悠真たちの持つ“鮮やかな色”に、飢えている。


「悠真……これはもう“まじない”だけじゃダメかもしれないわ」

こっくりさんが真剣な顔で続ける。

「アレを封じるには、あなたの“想い”が要るのよ」


悠真の手が、筆をぎゅっと握る。

頭の中に浮かぶのは、今まで出会った動物たちとの時間——

笑いあった時間、涙を分け合った日々、そして――

旅を始めた“あの日”。


「塗るだけじゃ、足りないんだ」

「俺は……届けるんだ。みんなの、色を」


そして、悠真の筆が再び動き出した。

まるで魂を込めるように、一本一本の線に想いをのせて。

一つ一つの色に宿る記憶や感情が辺り一面に動物達や花が現れる

ゆっくりゆっくり広がる花畑

その上を泣いてる者笑ってる者たくさんの動物達が居た


迷いの者は笑うのを辞めた

ソノイロ…クエナイ…タスケテ○◇◎□サマ…


誰かの名を呼び助けを求める迷いの者

ちょっとアンタ!もう一度言ってちょうだい!

こっくりさんが慌てて聞き返す


その時にはもう悠真の色に核を貫かれていた


りとも聞きたかったようだが仕方ない

クロとぽんたが無事ならそれでいい

「……終わった、のか?」

クロがぽんたを背負ったまま、慎重にあたりを見渡す。


辺りには、悠真の色で描かれた優しい光景が広がっていた。

風に揺れる花、笑顔の動物たち、心地よい香りが漂う。

そして——

中心には崩れ落ちた迷いの者の影が、ただ静かに消えていく。


「助けを…求めてた?」

ぽんたがぽつりとつぶやく。

いつも元気な声がかすれていた。


「でも、最後に呼んだ“誰か”……気になるわねぇ」

こっくりさんが難しい顔で空を睨む。

「名前、途中で途切れてたけど……この世界にまだ“元凶”がいるってことかもねぇ?」


りとは静かに頷いた。

「この旅…終わったわけじゃないようだな」


悠真は筆をそっと地面に置き、ぽんたの頭を撫でる。

「でも今は、少しだけ休もう。花の匂い、今はちゃんとするから」


クロが鼻をひくひくさせながら言った。

「……甘いな。なんか、どら焼きの匂いするぞ」


「それ幻覚じゃないのー?」

こっくりさんが笑う。


「ほんまや!なんか匂う!……あっちや!」

ぽんたが元気を取り戻したように走り出す。


——あの日、あの時、色が戻った場所。

そこに小さな一歩、確かな希望が灯った。



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