表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/43

色喰い

悠真は1人手の中の色玉を眺める

「んー……たしかに、師匠がくれたのにしてはやけに綺麗で…優しい色だよな」


悠真は手のひらにある銀の色玉をじっと見つめながら呟く。

それは、まるで月明かりのように淡く輝いていた。


「なぁなぁ、それ筆に宿したらどないなるんや?描いたもんが銀色になるだけやないやろ?なぁ?」

ぽんたは身を乗り出し、今にも飛びかかりそうな勢いで聞いてくる。


悠真は苦笑しながら答える。


「さすがにそこまではわからないよ。ただ…師匠のことだから、“願い”とか“想い”とか、そういうのがこもってる気がする」


「銀は“間”を繋ぐ色でもあるからな」と、クロがぽつりと呟く。

「この世界とあっちの世界。現実と夢。希望と絶望。その“あいだ”にいる存在の色だよ」


「なんか難しなってきたな…」ぽんたが目を回しそうに呟いたその時。


パァァッと、銀の玉が微かに光を放つ。

悠真の手からゆっくりと浮かび上がり、空中で小さく回転する。


「…今、何か見えたような…?」

ぽんたが目を丸くして言った。


その瞬間、悠真の頭の中に師匠の声がかすかに響いた。


「それ、あんたが“本当に願ったとき”にだけ使いなさい。

色じゃないの。“想い”を描く道具よ」


悠真は、色玉をそっと胸にしまうと、優しく微笑んだ。


「まだ、今じゃないみたいだ。けど…きっといつか、使う時が来る」

その言葉に、3匹はうなずいた。


銀の色玉は、まだ静かに光っている。

まるで、“その時”を待っているかのように——。


どこからか滲み出るように現れた迷いの者

いつもと少し様子が違う

もっと恐怖を煽るような

見ていたくない者だった


ドロドロと溶けるように手を伸ばし触ろうとする

一同は避け戦い勝ちを収めた

ぽんたが倒れるまでは


ぽんたの体がぐらりと傾き、地面に倒れ込む。


「ぽ、ぽんた!?」

クロが真っ先に駆け寄り、抱き起こす。


「さっきの……奴の手が、ぽんたに……!」

りとの声は静かに震えていた。


悠真は膝をつき、筆を構える。だが——筆が反応しない。

色が、まるで紙の上に弾かれるように乗らない。


「な、なんでだ……!色が……のらない……っ!」


ぽんたの体から、じわじわと色が抜けていく。

今までのような、ただの“病”のような様子ではない。

まるで——色そのものが“拒絶”しているようだった。


「おかしい……ぽんたは、生きてるのに……!」

悠真の声が掠れる。焦りと悔しさが滲む。


「やっぱり…あの“迷いの者”……ただの存在じゃない……」

りとは静かに言う。

「ヤツの中には……“世界の外”の断片、つまり“虚無”が混ざっていたのかもしれん……」


クロは黙ってぽんたの毛並みにそっと顔をうずめる。


「悠真……まだ、やれることはあるよな……?お前のその筆で……!」


その言葉に、悠真はハッとする。

見上げた空の端で、銀色の光がきらめいた。


思い出す。

師匠が遺した、銀の色玉。

あのとき、こう言っていた——


「言い忘れてたわ! あんたと私は何度でも会えるわよ。だってそう占いに出てるもの」


あの色には、ただの“記憶”や“願い”だけじゃない。

——“繋がり”そのものが、宿っている。


「……ぽんた。お前は、まだ消えちゃいけない」

震える手で、銀の玉を取り出す。


「描くよ。願いじゃない、“繋がり”で……お前の色を」


悠真の筆先が、銀色に染まった。

その光は、まるで空に咲いた星のように広がり、ぽんたを包み込んでいく——。


「呼んだかしらぁ〜?……って、あらまぁ、大変じゃないの」

紫煙の向こうから現れたのは、どこか師匠にも似た——けれどもっと艶っぽく、謎めいた雰囲気の狐だった。


その狐はふわりと宙を舞うように一同のもとへ近づき、怪我を負ったぽんたを見下ろす。

「……これは、“色喰い”の瘴気ねぇ。あんた達、ずいぶんと厄介なのに出くわしたわねぇ」


「色喰い……?」とクロが問い返す。

狐は目を細めてうなずいた。


「色を失わせ、想いを曇らせて、自分の形すらわからなくなる。迷いの者の一部が分裂して生まれた災いよ。

記憶、感情、絆……全部ぼやけて、最後には“何者でもないもの”になるのよ」


ぽんたの顔に怯えの色が浮かぶ。


悠真は震える手でぽんたの背を撫でながら筆を握りしめる。

「治せる方法は…あるのか?」


狐はくるりと一回転し、ふわりと着地した。

「まぁ〜、ないこともないわよぉ?」と、いたずらっぽく笑う。


「ただし、“あんたの筆”じゃなきゃ無理。想いを描き起こして、“ぽんたがぽんたである証”を塗り直すのよ。

つまり……色を“戻す”んじゃなくて、もう一度“描き出す”ってこと。できるかしら?」


悠真は一瞬、言葉を失ったあと、ゆっくりとうなずいた。


「俺にできるなら、やってみせる」

筆が震える。だけどその手には、確かな決意があった。


ぽんたの失われかけた色、記憶、気持ち——

全部をもう一度、この世界で描き直すために。

「……あの時、林の外れにちょこんといたあんたを見た時、びっくりしたんだぜ?」

ぽんたの隣で膝をついた悠真が、静かに語りかける。


「葉っぱの傘かぶって、しっぽふるふる震わせながら……でも目だけは好奇心でいっぱいでさ。

あの目、今でも覚えてる」


筆先が静かに光を帯びはじめる。


「甘いの食べて幸せそうな顔したり、俺の後ろをちょこちょこ歩いてきたり、

怖がりなくせに、知らないことには真っ先に飛び込もうとする……」


色が、ぽんたの体ににじむように戻りはじめる。けれど、それは“元の色”ではなく——

悠真の手で“新たに描かれた色”。


「俺、こんなに誰かをちゃんと想ったの、初めてかもしれない」


ぽんたのほっぺに、うっすらと桃色が戻る。


「だから……ぽんた、お前がぽんたである限り、俺はなんでも描くよ。何度でも、どんな色でも」

震えた声でそう言うと、ぽんたのまぶたがゆっくりと開いた。


「……ん……? なんや、みんな泣いとるやないか……おやつパーティー……もう終わり……?」


その言葉とともに、銀の光がふわりと舞い、ぽんたの色が完全に戻っていく。


クロもりとも、安堵で静かに息をついた。

そして狐は、優雅にくるりと舞って言う。


「——色ってのは、ね。想いのかたちよ。忘れず描き続ける限り、絶対に消えたりしないのよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ