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こっくりさんの夜
神社の裏手、小さな社の前。
深夜の風が、木々の葉をさらさらと鳴らしていた。
「……こっくりさん、こっくりさん。おいでくださいませ……」
淡々とした声で唱えるのは、18歳の青年――榊 悠真。
薄暗い瞳、冷たい指先。制服の下の肌はまるで紙のように白く、
周囲からは「不健康そう」「やばい占い師」と囁かれていた。
だが、彼はただのアルバイト占い師ではない。
彼には“視える”力があった。
少しだけ、死者の影が。
少しだけ、未来の線が。
「……来るかな、今日も」
静かに木製のこっくり盤に指を置く。
だが、その夜はいつもと何かが違っていた。
カタン。
不意に、コインがひとりでに動く。
“イ”“ル”“ヨ”
「……誰?」
“マ”“ツ”“テ”“イ”“タ”
悠真の背筋がぞくりと震えた。
その瞬間、彼の足元から黒いもやが広がり――
気づいたときには、彼の意識は「色のない森」へと吸い込まれていた。