あやかしキツネと色玉と
「とん、とん」
肩を優しく叩かれる感触で、悠真は目を覚ました。
さっきまで、師匠と初めて出会った日の夢を見ていた。
怪しくて、騒がしくて、それでいて温かい――そんなあの日。
ぼんやりと周囲を見渡すと、仲間たちもまた、それぞれに夢の余韻を残していた。
どこか遠いところを見つめるぽんた。目を擦るクロ。静かにまぶたを閉じているりと。
「――あら、お目覚めかしらぁ?」
耳に届いたのは、どこか懐かしい声音。
気だるげで、けれど芯の通ったあの喋り方。まるで、師匠のようだった。
その瞬間、悠真は思い出した。
――ここは、自分の知る世界じゃない。
ほんの少しだけ、寂しさが胸に差し込んだ。
でもそれは、あの師匠に助けられて、救われていたからこそ――
そんな風に思える自分が、ここにいるのだと気づいた。
「あんた達の“色”は、見せてもらったわぁ」
キツネが紫煙の奥で、どこか優しい声を響かせる。
「それ、大事になさいね? 忘れたら……もう手に入らないのよ」
一瞬、その顔が寂しそうに見えた。
けれどすぐに、いつものニタニタ笑いに戻ってしまう。
――気のせいだったのかもしれない。
「はぁい、お疲れ様〜。これ、あげるわ」
キツネが軽く投げて寄こしたものを、慌ててそれぞれ受け取る。
ぽんただけは見事に落として、しょんぼりと拾っていた。
掌に残ったそれは、小さな“色玉”。
「それはねぇ? あんた達の“色玉”。
筆に宿らせれば……塗り絵みたいにできるわよお?」
キツネの声がどこか遠くなる。
幻のような出会いと、不思議な贈り物。
物語はまた、少し色を取り戻した。