お守り堂のキツネ
「……もっと、いろんな色、見たいなあ」
ぽんたがぽつりとつぶやいた。
赤い花の中で転げ回っていたあの子が、今は小さな手を胸の前でぎゅっと握りしめている。
その一言は、まるで風に乗った種のように、悠真たちの心にそっと根を下ろした。
森を歩きながら、彼らはふと不思議に思った。
どうして花には色が宿るのに、木々には色がないのか。
幹も枝も、まるで時間に置き去りにされたような色のなさ。
「俺たちが来た時にはもう、こうだったよ」
クロが答える。
りとも静かに首を横に振る。
どうやら、この森の住人たちにとっても“木に色がない”のは当たり前のことだったらしい。
そんな中、ぽんたがふと思い出したように言った。
「……でも、きつねなら知ってるかも!」
「キツネ?」悠真が問い返すと、ぽんたは自信たっぷりに胸を張る。
「お守り堂のキツネや! 森の奥に住んどって、病気も治すし、願いも聞いてくれる!
“お願いの獣医さん”って、うちの村では呼ばれとったんや!」
その言葉に、悠真はりととクロの顔を見る。
二人とも、どこか言葉にはしないまま、何かを感じ取っているようだった。
“色を知る者”
“願いを叶える存在”
“お守り堂のキツネ”
――まだ見ぬその存在に導かれるように、彼らは森の奥へと歩みを進める。
やがて、風が香りを運んできた。
どこか懐かしく、そしてほんの少し、胸の奥がざわつくような気配。
まだ見ぬその場所で、彼らを見つめる目が、そっと細められたことに、誰も気づいていなかった。




