16 勝利をおさめたぜい
犬をモフモフしたい衝動にかられた次の瞬間、オークが猛然とこちらにダッシュしてきた。
持っている斧を大きく力一杯振りかぶり、こっちに振り降ろしてきた。
ドーーーン!!
犬を咄嗟に抱いて、飛び退く。 もう危ないなあ。
大きな衝撃と同時に、私がいた場所に深いクレーターができていた。
「ええと、攻撃するのをやめて、家に帰ってもらえる? どうして攻撃をするの?」
話し合いで解決できたら平和なのに、どこをどう見ても話せる感じじゃないな。 戦うしかないね。 分かっていたけど。
初めての魔物討伐を頑張るぞ。 助けるんだ。 門限がせまっているからちょちょいのちょいと素早く終わらせるぞ。
どこをどう攻撃すればいいんだろう。 一思いに苦しませないように… とっとりあえず、心臓に近そうなところを狙おうか。 初めてだからそんな高度なことはできないか。
オークの斧の攻撃を避けて逃げ回りながら考える。 ちょこまかと逃げ回っているのが、不愉快なのか青筋を立ててめっちゃおこってる。 あわわわわ。
よしっ、この方法で戦おう。 てか、敵を相手にするとき、考え事はだめだよね。
「待っててね。」
犬をを自分の背後にある草の茂みに隠して降ろして、オークに向き直る。
初めて魔獣をみたけど、恐怖が沸かない。
銃弾をつくろうか。 土魔法と火の魔法とを合成して、極限まで圧縮して硬くて丈夫な石をつくるように。
オークが変な笑みをうかべて、猛然とこちらへ走り出した。
これで決めよう。 強度は十分だと思う。 発射!
オークはその場でほんの一瞬、足を止めた。
そしてオークの胸に穴が開いて、地面に倒れる。
何が起こったのかは理解していなさそうな顔をしている。
オークを貫いた銃弾が、背後の木々を貫いてもその勢いは劣えることがなく遥か彼方へ消えていった。 うわ、これの威力、すげーな。 私も環境破壊をしているな…
「おー」
そして、オークが転んだと同時に、オークの手から離れた斧が空高く舞い上がった。 重たそうなのによくそんなに飛ぶな。
ほっ。 よかった。 倒せた。
はじめてでも全然恐怖で足が震えてない。 殺しても何も感じない。 もともとこういう性格なのか、異世界にきて考え方がこの世界に染まっているか。 あっ、レベルがオークより高いからかな。
ほっと一息ついていて、犬を隠したほうを向こうとすると、犬に急に体を倒された。
「うわっ」
クルクルクル グサッ
あっぶねー。
私がいたところの近くに斧が突き刺さった。 これは私がオークを倒してほっと油断させたあとに私を倒すっていうオークの計画のうちかっ。 このオークすごいな。 いやたまたまかな? 最後まで気を抜いたらだめだね。
白い犬に向き直る。
「助けてくれてありがと。」
警戒心が消えて、表情が柔らかくなっている気がする。
「汚れを取るね。」
手に光の魔力を集中させる。
「イメージー。 イメージー。 回復しろー。」
次の瞬間、一瞬輝いて、きれいになった!
「アオン!」
白い犬は、けがを確認すると、周りをクルクル走り回って、体をすり寄せてくれる。
犬も嬉しそうで、よかったよかった。
「おっと、オークの死骸の処理を忘れちゃだめだよね。」
ボゥ!!
火の魔法を使いオークの死骸を燃やす。 火が激しく燃え上がり、その形を失い灰となっていく。
しばらくして火が消えるとそこには…
コロンと大きい魔石が転がっていた。
「おお、これは…」
魔物から出てきたものだね。 魔石以外にも素材や薬草などいろいろドロップするらしいけど。
この魔石は水魔法の力を宿すタイプか。 とてもきれいだ。 透明な青色をしていて、まるで湖の底から拾い上げたかのような美しい光沢を放っている。 これだけの魔力を内包した魔石は、間違いなくとてつもなく貴重だろうね。 オーク、そんなに強くなかったのに何でこんな貴重なものがドロップしたのかな?
「これ、かなり高額で取引できるだろうな… 大きくて内包された魔力が多いしね。」
魔石は、少しの魔力を流すだけで、魔石に宿された魔法の力が生まれる。 魔石は、貴族や研究職にとくに重宝されているね。 平民でも魔石を待っている家がちらほらあるらしい。
魔石は大小問わず使われているけど、魔石の価値はもちろんサイズや内包される魔力の量によって決まるから、この魔石はとくに貴重だろう。
売ってお金を稼こうかなぁ。 いや、手放すのは少し惜しいな。 持ち帰って研究してみるのも面白そうだしね。
「私、もう行くね。 また襲われないように気をつけてね。 ばいばーい。」
私は犬に手を振り、来た道をひとりで歩き始める。
少し歩いた先で振り返ってもう一度手を振る。 はあ、お別れかー 別れた場所で、答えるようにかわいく吠えてくれた。
ここは犬が怪我を治してくれたことについて感謝して、私の後ろをずっとつけてくるもんじゃないの? まあ、そんな下心で、助けたわけじゃないけどね。 寂しいな。 まあ、明日も会えるかもだし?
魔法を使い、走って帰る。 やっぱり予想通りとても奥まで来てしまったな。 しっかり門限に間に合ったよ。 ふぅー