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~追憶の欠片~



 その男アーミン・ウォーカーは、周りから愚者と陰ながら呼ばれていた。

 幼少期の頃は歴代最高の神童と呼ばれていた麗しい男の子であったが、今では素行の悪い男となっていたのだ。見た目だけであれば、国内外問わず異性から求婚されるほど。しかしその中身を知れば千年の恋も冷めるというもの。


 15歳でありながら、才能を持ち溢れていた彼は学園の支配者になろうとした。しかし、上には上がいるというように生徒会長によって阻まれてしまう。その復讐の為に動いていたが、一つ年下の男の子によって再び野望を阻止されてしまう。

 彼が行ったのは重罪だ。

 生徒会長を貶める為、更には学園を支配しようと犯罪組織に加担していたのだ。重罪の中でも重罪である、国家転覆罪。死刑は免れないだろう。


 彼には婚約者と幼馴染み、血の繋がった妹、異性の親友がいた。が、素行が悪い為婚約者は自ら離れて野望を阻止した男と恋仲になった。  

 幼馴染みも、最初は彼を注意や戒めたりはしたが手には終えず婚約者同様に離れ、その男の元へ行った。妹に関しては、幼い頃は非常に仲が良かったにも関わらず「役立たず」、「貴様は落ちこぼれ」、「顔を見せるな」などと暴言をされて距離を置いていた。既に彼を兄と呼ばず、婚約者と幼馴染みがいる男の元へ。その男にかつて彼に呼んでいた「兄様」と慕っている程、信頼関係は良好なのだろう。

 異性の親友は新入生の頃に肩を並べ、時には背中を預ける程の信頼関係があった。が、ある時から「弱い女はいらない」、「所詮は女」などと彼女の自尊心を傷つける言動をし、殺し合いが始まってしまう程の喧嘩まで発展していた。素行の悪さから彼女も、その男の良きサポーターとして活躍しているらしい。


 結論から言えば、アーミン・ウォーカーの末路は、因果応報であった。それに相応しい行いをしてきたのだ。誰も彼には同情しない。誰もがその行いを見れば見放すだろう。


 「王よ、無事ですか」


 ─────ただ、その真実を知る者達を除けば、だ。


 そこは王宮、謁見の間で国王と王妃、そして王女二人がいる中で禍々しい雰囲気を放つ死神の如き存在が顕現していたのである。その死神は性別不明ではあるものの、10代程の若々しい人物であった。

 その人物は、自ら【アポカリプス】と名乗り国王を殺害しようとしていたのである。


 それを阻止したのが─────アーミン・ウォーカーだ。


 「あ、アーミンか……!」


 目の前にいるのは間違いなくアーミン・ウォーカー、その人で間違いはない。王妃と王女は脱獄した大罪人も現れた事に絶望するが、国王はそうではなかった。


 「何故……何故だアーミン。お前はこのまま、隣国へ逃亡する手筈だ。これ以上、貴殿を────」


 「いいえ王よ。俺は───いや、私はこの国の為に命を落とす覚悟をしてきました。そして今こそ、この国と民に迷惑をかけた償いを果たす時だと」


 「償い……?償い、だと?貴殿は!我が国の為に!敵組織のスパイ(・・・・・・・)として今まで貢献してきたではないか!!!婚約者を、妹を、友を守る為に、自ら悪を演じて─────」


 「全ては我が国の為です」


 そう言い切ったアーミンは様子を伺っている死神、アポカリプスへ目を向ける。今の会話で攻撃を仕掛けなかったのはアーミンという計り知れない存在に下手に手を出さなかったからだ。


 「───何者だ貴様」


 「お初にお目にかかります。七つの大罪種【終末種(アポカリプス)】、【憤怒の獣セト】ですね」


 「ほう、我を知るか。眠りから覚めてみれば、軟弱な人間どもが溢れているかと思ったが────何とも、我に傷を与えれるやもしれん人間が、まだこの世に居ようとは」


 「せ、セトだと……」


 七つの大罪種【終末種(アポカリプス)】・【憤怒の獣セト】。

 大罪種、アポカリプスという呼び方は聞かないがセトという名で各国の王族貴族などが思い浮かべるのは、ある一つの神話で語られる存在のみ。

 【羅刹の大王セト】。

 その存在は大陸を震撼させた人智を越えた存在。

 憤怒に身を任せて世界統一、もとい世界を崩壊をさせようとした世界の敵。世界各国、人種が手を取り合い、そして漸く倒した相手である。故にセトという名前は世界各国では禁忌の名前であり、決して付けることはない。


 「貴様、名は」


 「アーミン。アーミン・ウォーカー」


 「ふん。貴様程の男が、あの時代に居れば存外楽しめたものを。いや、わざわざ封印されてやった(・・・・・・・・)のは選択として悪くはないか。クカカカカッ!封印を解いた奴らには感謝しなくてはな!」


 「……ここで、あなたを倒します」


 「ほう。我と踊るか?」


 「───シッ!」


 即座に投擲したのは魔方陣が刻印されている短剣である。螺旋を描き回転させてドリルの様に貫こうとする短剣であれば人体を貫通させるのは十二分の威力だろう。

 

 が、それをセトは易々と片手で受け止め、掴んだのだ。


 「中々の芸達者だな」


 「それほどでも。しかし、掴みましたね(・・・・・・)短剣(ソレ)を」


 「!」


 その刹那、セトは驚愕の表情をしたまま姿形が消えてしまうのだ。


 「ど、どこに」


 「転移魔法陣を組み込んだ短剣です。私以外が触れれば発動するように小細工をしました」


 その言葉に国王だけではなく、王妃と王女が驚愕を隠しきれない。何せ転移魔法とは失われた七大魔法の一つであり、現代の技術では扱うことすら出来ないもの。あったとしても過去の異物などに込められているものしか残されていない。


 「アーミン、様」


 「王女殿下。今までの無礼をお許しください。叶うのであらば、私の妹のこと……これからも仲良くしてくだされば光栄です」


 「いいえ、いいえ!それよりも、アーミン。貴方は─────」


 「本来であれば生徒会長である王女殿下にお力になるべきでした。今までの無礼は到底許されるべきではないでしょう。この命、あのセトを倒す為にお使いします」


 「何を言ってるのですか!貴方一人では!私も────彼らにも応援を!」


 「いいえ。彼女たちを危険にするわけにはいきません。私は大罪人として、葬られるべき………彼女達を散々傷つけ、苦しめたことに変わりはありませんから」


 「そんなの!」


 「彼女達が幸せであるならそれでいいんです。それが私の願いですから」


 彼女達の幸せの中に、貴方は居ないのですね。と生徒会長である王女は本来守るべき生徒の1人、死地へ歩もうとする姿をただ見ているしか出来なかった。それ程、彼との差があまりにも途方もないことを示している。

 

 「アーミン。今すぐ軍を動かして─────」


 「いけません陛下。この国はあのセトを目覚めさせた組織が狙っています。手薄にすれば、攻めてくる可能性も十分あるんです」


 「あの犯罪組織が……」


 セトを目覚めさせたのは、アーミンがスパイとして潜入していた犯罪組織。世界的に有名であり、一人一人の幹部メンバーが懸賞金をかけられている。無論、素顔を隠しているがアーミンは組織のNo.4として懸賞金をかけられていた。


 「しかし、貴殿1人が」


 「ふふ。私は幸せ者ですね。陛下にこれ程心配してもらえるとは─────まずは感謝を。親不孝者ではありますが、それでも私は幸せでした」


 「ま─────」


 王が止めようとする前にアーミンの姿は消えてしまう。恐らくセトがいる場所へ転移したのだろう。


 アーミンが消えた今、王女は己の無力さを痛感し悔し涙を流す。そしてポツリポツリと王はアーミンが今まで何故あの様な言動をしていたのか。そして何故犯罪組織に潜入していたのかを改めて話す。王は知るべきだと思ったのだろう。アーミンがどれほどこの国を愛し、想っていたのかを。


 王女は、今までしたこのがない様な表情をしていたのだろう。自分より一つ下の男の子が、学生の身でありながら、君主の様な。王のような思想で、1人で戦ってきたことを。神童となり、わざわざ自ら特殊隠密機動隊の一員となり世界をその目で目の当たりをしたのだろう。特殊隠密機動隊は10歳の頃に入隊したらしい。そして彼が素行が悪くなったのもその後。


 「特殊隠密機動隊の、元リーダー……!?」


 「彼は、それ程までの実力とその思想を持ち合わせていた。組織内でも年齢を除けば誰もが口出しもしなかった」


 そして、アーミンは国を狙う巨大組織の存在を知る。リーダーを退いた後、自らその組織に荷担したのだ。自国の情報を流してはいたが、全て事前に国王や特殊隠密機動隊のリーダーや騎士団長などの国上層部に知らせつつ、組織の情報も流していた、というのが真実。


 アーミン・ウォーカーは、貴族の子だ。

 しかし、まだ15歳。これから貴族として、大人になるのは数年。

 だが、彼は子供らしいことを殆どしてこなかった。

 本来ならば、子供らしく多少の青春を過ごす筈だっただろう。だが彼の場合は、祖国の為に組織の内部に入り込み、常に命を狙われる立場。挙げ句の果ては、自ら犠牲を選び大罪人の汚名を自ら被った。そうなることは察していたのであろう彼は、周りの人間関係を悉く自らの手で壊した。全ては巻き込まれない為に。危険な目に合わせない為に。

 何より、彼女たちの幸せを願って。


 遠い場所から重なる様な爆発音、そして地響きが起こったが、誰一人アーミンの増援に行くことは出来なかった。


 アーミンが言っていた様に、犯罪組織が襲撃してきたからである。


 だが、犯罪組織による襲撃は呆気なく失敗したのだ。その原因を知る者は少ないだろう。


 何せ、国を滅ぼす為に封印を解いた【羅刹の大王セト】の気配消失。封印を解いた際に【羅刹の大王セト】からの“遊び”によって幹部達が重傷を負ったのだ。幹部がいなくとも犯罪組織の長が【羅刹の大王セト】をコントロールし、国を滅ぼしていた。が、肝心の【羅刹の大王セト】の消失に加え、組織No.4であるアーミンの裏切りを知ったのだ。

 内部の情報も漏れているのであれば、組織の構成員達の個々の能力が暴かれ、その対処策をしていると悟ったのだろう。事実、アーミンは組織構成員の長を覗く幹部とその構成員についての情報を全て流していた。その為、これ以上の戦いは犯罪組織の壊滅は免れなかっただろう。


 襲撃後、直ぐに国王は隠密機動隊にアーミンの捜索を命令したものの、彼等が目の当たりにしたのは─────









 



 アーミンが愛用していた─────婚約者から彼自身を守るようにと願い、初めて送ったプレゼント─────剣が、アポカリプスの鎌を砕き、地面に突き刺さった。


 そして、彼の姿は髪一つ残っていなかった。

 

 

【人物紹介】

アーミン・ウォーカー ※故人(誕生日に死亡)

 性別:男

 年齢:15歳。

誕生日:8月8日

 身長:174cm

 体重:47kg

 性格:冷酷(温厚)、(+妹思い・自己犠牲ガンギマリ)

一人称:()

  婚約者や幼馴染み、妹、友を守れるなら悪にでもなんでもなる自己犠牲ガンギマリ野郎。婚約者と正式に結婚して、子供三人授かって良き父親になるのが夢だった。婚姻がダメなら孤児院で子供達を守る司祭になることも夢見ていた。

 実力と才能が優秀過ぎた為に、幼い頃から世界の闇を目の当たりにし、祖国の危機には自ら候補して立ち上がった。

 幼馴染みと親友に嫌われた(自業自得だが)時は、3日間寝込んだ。だが、婚約者と妹に嫌われた(もっと自業自得である)時には、自室でギャン泣きし一週間眠れなかった。

 己を倒した少年(ゲーム主人公)には、多少思うところはあるものの彼女達を笑顔にしたことに感謝している。少年の為ならば彼女達の次に命をかけて助ける価値はあると勝手に考えているお人好し。

 実はポーカーフェイスと痩せ我慢が得意なだけで、メンタルはめちゃくちゃ弱い。昔は親友に本心を漏らしていたが、今ではそんなことが出来ずに普通に鬱になっていることが多々あり。

 暗い場所と甘過ぎる食べ物が苦手。

 左右の眼にはそれぞれ産まれた時から特別な能力を宿している。その眼を狙われることも屡々あるとか。


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