2.ある夜の倉庫の出来事
――ある夜の倉庫の中――
そこには10人の男達がいた。
中で1番若いと思われる青年が全裸で椅子に縛り付けられ、中年の男とその部下らしき男達に尋問されていた。
縛り付けられている青年はそれ以外の暴行などを受けた様子はないが、恐怖から顔が強ばっていた。
なにしろ青年含めて10人とも反社会的組織D社の構成員やその下請なのだ。
警察指定の団体ではなく表向きは普通の商事会社だが、決してまともな団体ではないことはこの状況からも明らかだ。
中年の男が全裸の青年に尋問する。
「で、カチッペよ。お前はあの20億円、盗ってねえって言うんだな?」
「ずっとそう言ってますって!なんで俺がそんなことするんですか?」
「ウチからK社に乗り換えるための手土産にしたんじゃねえのか?」
「そんなわけないですよ!盗ってませんって!」
カチッペと呼ばれた青年が震えながらも答える。
「ま、お前としちゃあそう言うよなあ……ところでミナヨさんとはどうよ?どこに居るか本当に知らねえか?」
ウメヅは数週間前から行方不明になっている女のやけに薄着な画像を見せながら青年に尋ねる。
女は社の幹部であるカイダの愛人であった。
「だからっ、ミナヨさんは知ってますけどっ、居場所なんて知りませんっ。そんな関係じゃないですって」
「ん、……じゃあ質問変えるか」
ウメヅは煽情的な美女の画像を消し、かわりに若い男の画像を出した。
「このハルオキさんとダチ共を撃ったのはお前か?」
「だから違いますって!あれは仲間割れの同士討ちじゃないんですか!?」
ハルオキさんというのはD社大幹部の長男だ。
1ヶ月前に側近と共に射殺されているが、それは側近と仲間割れの同士討ちでの死亡ではないかと囁かれている。
「俺はやってませんって!どこからそんな話がっ」
「これもK社に乗り換えるための手土産のひとつだったって話が流れてるぞ?」
「デタラメです!」
もう何度も同じようなやり取りを繰り返していた。
「きりがねえな。おい、キョウヤ」
ウメヅが部下の1人に声をかける。
「はい」
「アレを使え」
「……はい、只今」
キョウヤは鞄から小瓶を取り出す。
小瓶の中には直径1センチ程の灰褐色の球状の物体が1つ入っていた。
てっきり本格的に拷問されるかクスリでも打たれるかと身構えてたカチッペが困惑した表情を見せる。
キョウヤは小瓶の蓋を開け、同じく鞄から取り出した長いピンセットで物体を摘んで小瓶から出した。
「キョウヤが摘んだあれ、何だか分かるか?」
「い、いえ、全然」
「あれはなかなかいい働きしてくれる虫なんだよ」
「あ、あれ、虫なんですか?」
「一部界隈じゃ『自白虫』なんて呼ばれてるけどな。聞いたことあるか?」
「え!?あの『自白虫』?いやまさか、そんな虫いるわけないでしょう」
「効果の程は実験済みだ。そいつは痛めつける手間かけなくても素直にうたってくれたぞ。やれ、キョウヤ」
「はい」
キョウヤがピンセットで摘んだ自白虫をカチッペの鼻下に近づける。
すると毛玉がほぐれるように自白虫の丸い体がシュルリと紐状にほどけ、その先端からカチッペの鼻の穴に入っていく。
ほんの2〜3秒で虫の全身は鼻の中に消えてしまった。
「や、止め、止め、ヒイィィィ……ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙……あれ?」
叫んでいたカチッペだったが、やがて苦痛も何もないことに気づくと放心したような表情見せる。
その後急激に目に輝きが戻ってきた。
「よーし。じゃあ改めてカチッペ。20億かっぱらった感想は何かあるか?」
「最高だね。D社なんて金払い悪くてビンボーだったからな。半分の10億と内輪の情報手土産にK社入って大出世だ」
ウメヅが質問するとカチッペはあっさり白状した。
「ミナヨさんとはどういう関係だ?」
「もちろん俺の女さ。さっき言ったK社への手土産の情報源だよ。あ、言っとくけどあの女から言い寄ってきたんだからな。盗られて気づいてないカイダの顔が間抜けで笑わせてもらったぜ」
「彼女はお前のところにいるのか?」
「ちょっと遠くで隠れてもらってるよ。お前らが嗅ぎ回ってるようだったからな」
「それもK社の差し金か」
「俺はもう幹部扱いだからな」
淡々と答えているが活舌はやけにはっきりしており、目にも力があって確かな意思を感じさせる。
薬物患者にありがちな虚ろさがない。
むしろ満ち足りているように見えるくらいだ。
「ハルオキさん達を殺ったのはK社の指示か?」
「それもあったけどな。そもそもあのガキ共気に食わなかった。テメエ等がなんか功績上げたんでも無い七光りのくせに偉そうにしやがってな。だから銃2丁手に入れて同士討ちに見せかけて殺してやったのさ」
「そういうことか」
「あいつだけじゃねえさ。俺を舐めたやつらは皆ブチ殺して」
パーンと乾いた音がしてカチッペの額に穴が開く。
ウメヅが拳銃でカチッペを撃ったのだ。
「……片付けとけ」
動かなくなったカチッペを一瞥したあと、ウメヅは部下達にそう命じて立ち去った。




