それでも一番で嬉しい
夏のホラーに参加するつもりで書きましたが、帰り道というお題に沿った話にならなかったので、やめたものです。
――最悪!
私は通勤カバンを放り投げてベッドに倒れ込む。
――もう無理。絶対に別れる!
『一回目を許したなら、もう怒っても無駄じゃない?』
浮気癖が治らない恋人の話をしたときに同僚に言われた言葉を思い出す。あれだって浮気の現場に同僚も居合わせたから言う羽目になった。
別れを切り出したことは何度もある。そのたびに私が一番なんだと毎回縋られて許してきた。
けど、今回は知らない女に「君を食べてしまいたい」と道端で言い寄る姿を見てしまった。そんな言葉を彼が口にするのを初めて聞いた私は、人生で一番頭に血が上ったと思う。
その場に刃物があれば刺してしまったかもしれない。その時は同僚が宥めてくれたからなんとか落ち着いたけれど、感情の昂ぶりは収まらなくてどうやって帰宅したかも覚えていない。
ただ、家に着く頃には怒りより諦めが優っていたからそんな感情なんて消えていた。
数時間後に彼がやってきた。
私が見ていたことを何故か知っていて謝りに来たという。
まだ怒っていたけれど、彼の顔を見てホッとしたし、彼に「君が一番だから」と抱き寄せられたら、自分でも愚かだと思うけれどまた許してしまった。
いつもはそのまま部屋に入るのに、彼はなぜかその場から動かなかった。
私はどうしたの、と手を伸ばすと、手首をガブリと噛まれた。
痛みに声をあげようとしても口からはヒューヒューと息が漏れる音しかでない。
彼は私の目を見て笑う。
「君が悪いんだよ。僕は生きるのに飽いてずっと誰かに殺されようとしていたのに、こんな非道な僕を許し続けるから、また生きたくなってしまったんだ。だから君を最初に食べてあげるからね。君が一番という言葉に嘘はなかったでしょ」
彼のグルンと回る眼球と、尖った歯を見て私は彼が人間でないことを悟ったけれど、それと同時に
――あぁ……本当に最悪。
と思った。
それでも一番で嬉しいと思う自分が。
人を喰らう妖怪という設定です。
やはり2周年記念を投稿しようと
悩みに悩み、結局こういう話になりました(^_^;)




