⑫幸せ
可愛い、可愛い、私の彼氏ちゃん。
スヤスヤ寝ている彼の横顔を見ながら、静かに手を叩いた。私の手の平には、先ほどまでなかった一冊の本。
今から三年後に出版する、彼のデビュー作。大賞はさすがに無理だったけどね。彼が一生懸命書いた渾身の一作だ。
私は、何度も何度も何度も何度も読んだその本をまた最初から読み始めた。天国にいる時から読んでる、私のマイベスト。
「ハクシ………。あなたが、好き。地球上にいる人間の中で一番好き。ちょっと意地悪で、エッチで変態なところもあるけど、ずっとずっと一緒にいたいと思ってるよ」
柔らかいほっぺにキスを三回してから、彼にくっついて朝まで一緒に寝た。
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朝、起きると隣で寝ていたはずの神様の姿がなかった。
飛び起き、一階に駆け降りる。
階段を降りていく途中、味噌汁の良い香りが安堵を連れてきた。
「…………良かった」
小さな独り言。
僕は、焼き魚の火加減を見ながらネギを刻んでいた彼女を後ろから抱き締めた。
「起きたの? もう少し寝てて大丈夫だよ。出来たら、呼ぶから」
「ナタリって、なんでこんなに良い匂いがするんだろう……。はぁ~~~」
「んっ………そんなにクンクンしないの。恥ずかしぃ……」
首筋のうなじ辺りを重点的にクンクンクンクン匂いをかいだ。僕から逃げれないと観念した彼女は振り向いて、潤んだ瞳で僕を見つめていた。人懐っこい子犬のよう。
「どうしてほしいの?」
「心を読めばいいだろ。早く、こっち来て」
「………痛いのイヤだよ。嫌いになるからね」
結局、朝飯は遅れに遅れ、昼飯になった。




