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男気ゴリラが大暴れ!恋する魔法少女リーザロッテは今日も右往左往!  作者: ニセ@梶原康弘
Episode.2 泥と涙のリーザロッテ・パイルドライバー!

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第14話 奇跡の魔法石ふたたび、そしてまた明日……

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん! うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」


 森の中を流れる小川で泥を洗い落とし、一度は閉めたリーザロッテ・ハウスへとりあえず戻ってきたリーザロッテはポンチョを引っ被り、足をジタバタさせてわんわん泣いていた。傍目には駄々を捏ねて泣き喚いている子供である。

 プッティもルルーリアにいいところを掻っ攫われたリーザロッテが可哀そうだったので「もう泣くなってば」と、例の薪ざっぽを出さずになだめている。


「ぐやぢー! なんで私ばっかりカッコ悪くておバカで損な役回りばっかりぃぃぃ!」

「泣いても喚いてもしょうがねえだろ。とりあえず、これからのことを考えよう」

「今さら何を考えるのよ! 星石は使っちゃったし箒もない。魔法の杖も護符も着替えもみんなみんな川に流されちゃったわよ!」

「ウーム、参ったなぁ」

「そういえば王子様にもらったオサイフもお金も……うわぁぁぁぁぁん!」


 また大泣きに泣き出したリーザロッテを見てプッティは「駄目だこりゃ」と、ため息をついた。どうにもこうにも手がつけられない。

 なだめようがないので気が済むまで泣かせるしかないか……と思った時、リーザロッテ・ハウスの扉が遠慮がちにコンコン、と鳴った。


「誰か知らねえが鍵なんかねえから勝手に入りな!」


 プッティが怒鳴るとドアがギギ……と開き、小さな女の子がおずおずと顔を覗かせた。


「こんにちは」

「あ、おめぇは……」


 リーザロッテ・ハウス最初の訪問者は、川で助けられた少女ペルティニだった。彼女は姿勢を正すと懸命に笑顔を作り、「リーザロッテお姉ちゃん、助けてくれてありがとう」と言ってペコリと頭を下げた。


「そっか。おめぇ、さっきのお礼を言いに来たのか」

「うん、そうなの」


 まだ小さいのに礼儀正しい子だ、と感心してうなずいたプッティは「八つ当たりしてゴメンな。あばら屋だけどよ、まぁ入りな」と招き入れた。


「おい、リーザロッテ」

「お礼なんかいらないわよ! 帰って!」


 ポンチョの中から泣き喚かれ、怯えたように後ずさるペルティニにプッティは「任せろ」と目配せした。例の薪ざっぽを大きく振りかぶる。

 そして、ポンチョに向かって思い切り打ち下ろした。

 ボカチーーーン! という打撲音と「いったぁぁぁぁーーい!」という悲鳴がリーザロッテ・ハウス内に響く。


「何すんのよ! ぷげげーっ、頭にでっかいタンコブがぁぁ……おお、痛い痛い……」

「うっせぇ、それ以上ウダウダ言ってっとタンコブをもひとつ増やすぞ! てめー、こんな小さい子がちゃんとお礼を言いに来たのに、いつまでも駄々捏ねてんだ。出てこいオルァッ!」

「そんなこと言ったってぇ……」


 ポンチョからヒックヒックと泣きながら出てきたリーザロッテときたらグジョングジョンのベジョンベジョン、これ以上ないくらい情けない顔をしていた。


「ほれ、リーザロッテ。ありがとうと言われたら普通はなんて言うんだ!」

「……どういたしまして」


 ぶすくれた顔で言ったリーザロッテの脳天に「心がこもってない!」と、お代わりの薪ざっぽが炸裂する。


「ごめんなペルティニ。後でコイツにもう二、三個タンコブ追加しとくから」

「しなくていいから、そんなこと! それより……」


 プンスカしている魔法人形をなだめながら、ペルティニは抱えてきたカゴをそっと差し出した。


「これ、村のみんなから」


 中を覗くと、そこにはクリームをたっぷり塗った上に甘酸っぱいフルーツを載せたケーキや香辛料を加えて焼き上げ美味しそうな匂いを漂わせたクッキー、色とりどりのパステルカラーで作られたゼリーが入っていた。どれも、贈る者に少しでも喜んで欲しいという趣向が凝らされている。

 リーザロッテはプッティは顔を見合わせ、ゴクリとつばを飲み込んだ。


「それからね、ちゃんとお礼をしたいから明日、村に来て下さいって。あと、お裁縫とかお薬とか……お仕事を頼みたいって。でもヘンな格好はしないで下さいって」

「……ほ、本当?」


 それは、あれだけ忌避されたので諦めて村から離れようとしたリーザロッテには、にわかに信じられない話だった。


「本当だよ! お姉ちゃんが本当はいい人だって、みんなと仲良くなりたかったんだねって、みんな言ってたよ。レディル王子様も」

「レディル様!?」


バネ仕掛けみたいに飛び上がったリーザロッテは「レディル様があそこに来たの! レディル様はなんて言ったの! ねえっ! ねえっ!」と、目をギラギラさせてペルティニの両肩をガクガク揺さぶった。


「お、お姉ちゃん怖い!」

「ガルルルル!」

「リーザロッテ、落ち着け! どうどう……」


 うなっているリーザロッテをプッティが引き剥がす。

 ペルティニは全く落ち着きのないこの魔法少女に目を白黒させたが、とりあえず話し始めた。


「あのね、偉そうな魔法使いが私達をバカにして消えた後、レディル様が馬に乗ってお見えになったの。そして……」


 ペルティニは話しながら自分が魔法使いになったような気がした。話を聞くリーザロッテが、目の前で別人のように変わっていったのだ。

 最初は生肉を前にしたオオカミみたいに鼻息も荒く興奮していたのが次第に鎮まると、今度は深窓の令嬢のように俯き、静かに耳を傾け、やがて目に零れそうなほどの涙を浮かべ……


「レディル様が泣いてくれた……こんな私の為に……」


 声を震わせ、ヨレヨレになったポンチョで目を覆ったリーザロッテを見たペルティニは、子供心にこの少女を愛しく思った。

 思わず立ち上がった彼女は、リーザロッテの震える肩をそっと抱いてあげたのだった。


「お姉ちゃん……レディル様が好きなのね」

「好……!」


 途端に真っ赤になったリーザロッテは「いや、その、好きだなんて! こんな私があのようなお方をトンでもない! あうあう……」と狼狽の限りを尽くした。

 だが八歳の少女のジト目に情けなくも負け、最後はしゅんとなって「はい……」と、うなだれた。


「大好きです……王子様のことを思っただけで胸がきゅうってなっちゃうくらい」

「じゃあ私、これから応援してあげる」

「本当? で、でもその前に……」


 上目遣いにおずおずと「私と……お友達になってくれる?」と尋ねかけたのでペルティニは笑い出した。


「当たり前じゃない! 友達だから応援するのよ」

「そ、そっか」


 リーザロッテは照れ笑いして「友達……レストリアの初めての友達……へへへ」と、しきりに頭を掻く。

 明日、村に来ればもっとたくさんの友達が出来るだろうに、その幸せに彼女はまだ気づいていない。クスッと笑ったペルティニは黙っておくことにした。

 だが。


「でも私、お姉ちゃんがゴリラに変身して助けてくれた時から友達になってたと思ってたわ」

「ゴリ……」


 その台詞はリーザロッテの心臓を一瞬で凍り付かせた。


「ちっ、違うの! あれは私であって私じゃないのよーーー!」


 顔を歪ませて「ムンクの叫び」みたいなポーズで身体をぐねぐねさせながらリーザロッテは悲鳴を上げた。


「ゴっ、ゴリラはゴリラなの!」


 そりゃそうだ。


「私じゃないの! 私がお説教したりウォーとか暴れたりしてるんじゃないの! 記憶はあるんだけど私じゃないの。お願い、友達なら信じて! あああ、レディル様にあのゴリラの正体が知られたら私もう生きてゆけない……」

「分かったから! 分かったから落ち着いて、お姉ちゃん」


 筋の通った男の説教で自分を諭したあの巨大ゴリラと目の前で踊ってるように狼狽えている情けない魔法少女が同一人物とは到底思えないので、ペルティニは「あれは私であって私じゃない」というリーザロッテの主張は難なく納得出来た。


「大丈夫、レディル様はまだ知らないみたいだよ。お姉ちゃんが魔法で召喚したゴリラって言ってたから」

「おおお、助かったぁぁぁ!」

「よかったね!」

「うん!」


 これではどっちが年上なんだか。

 だが、ペルティニは泣いたり喚いたり笑ったりオロオロしたり、右往左往しているこの魔法少女のことがいっぺんに好きになった。


「村のみんなにも言っておくわ。あのゴリラの正体は秘密、トロワ・ポルムの外の誰にも絶対に話しちゃいけないって……わたし、リーザロッテお姉ちゃんの最初の友達だもの」

「おお、ペルティニ! 心の友よー!」


 歌劇俳優みたいな抑揚で抱きしめたリーザロッテの後頭部をプッティが薪ざっぽで「いー加減にしろ」ポカッ! と、やって最後にオチをつけた。

 こうして感動的……とはいささか程遠かったが、リーザロッテはトロワ・ポムの人々から受け容れられたことを知って喜んだ。

 寂しくも別の場所へ去ろうとしていたが、もうそんな必要などなくなったのだ。

 わずかな所持品はすべて失ってしまったが、そんなものなどまた揃えればいい。リーザロッテの顔は喜びでいっぱいだった。

 やがて、暇を告げて村へ帰るペルティニをリーザロッテとプッティは家の外まで出て見送った。


「じゃあ、また明日!」

「また明日ね」


 二人はペルティニの姿が見えなくなるまで手を振り続けていたが……そのペルティニが急に駆け戻って来た。


「どうしたの。何か忘れもの?」

「うん、そう。忘れてたの。これ、お姉ちゃんにあげようと思って。ポケットの中にいつの間にか入ってたの。とっても綺麗だったから……」


 そういって彼女が差し出したものを見て、リーザロッテとプッティは思わず息を呑んだ。


「嘘……」


 それは星石だった。

 最初に持っていた石は拉致されそうな王子様を助けるために、偶然拾った次の石は目の前の少女の生命を救うために使った、この世界に存在しないはずの奇跡の宝石。それも使うと砕けて消滅し、二度と使えない。

 だが、この少女のポケットを借りて奇跡の石は再びリーザロッテの前に姿を現したのだ。

 まるで、天上からこの世界を眺めている誰かが、この魔法少女の善行へ報いるため、そっと授けてくれたように。


「……」


 星石は何も語らない。ただ燦然と輝き、七色の美しい光を放っているばかり。

 しばらくの間、黙ってそれを見つめていたリーザロッテは、ペルティニの前髪を掻き上げると、額にそっと唇をつけた。


「ありがとう……」


 ペルティニには、その言葉が自分ではなく、目に見えない誰かへ向かってささやいたように思えた。


「リーザロッテお姉ちゃん、ありがとうって……私に言ったの?」

「さあ、どうかしらね。ふふ……」


 静かに微笑む顔は、明らかに先ほどまで駄々を捏ねたりオロオロしていたリーザロッテではなかった。魔法で急に大人になったのではないか……そんな錯覚でペルティニは息を呑んだ。

 ドキリとするほど大人びた、美しい表情をしていたのだ。


「ペルティニ、困ったことがあったらいつでもリーザロッテ・ハウスにいらっしゃい」

「困ったことがなくても行くわ。だって私達、お友達なんでしょう?」

「おっと。リーザロッテ、コイツは一本取られたな」

「そうだったわ。ふふっ、いつでも遊びに来てね!」


 見惚れるような表情を垣間見たのは、しかしほんの僅かな刹那だった。

 手を打って笑ったプッティに「あいたっ!」と自分の額を叩いて舌を出したリーザロッテは、もういつものリーザロッテだった。


(子供みたいで、おかしくて、ヘンなことしたりゴリラになったりするけど。でも、リーザロッテはやっぱり魔法使いだ。どこか不思議で素敵な魔法少女なんだ……)


 そんな魔法少女が明日からトロワ・ポルムにまたやって来る。きっとおかしくて楽しいことが色々起きるだろう。もしかしたらさっきのような大人の顔もチラッと見られるかも知れない。ペルティニはワクワクしてきた。


「お姉ちゃん、明日はやく村に来てね。わたし、待ってるから! 一緒に遊ぼう!」

「おうよ、頼まれなくたってリーザロッテ様はトロワ・ポルムに参上するぜ!」

「でもヘンなカッコで来たら駄目だよ! また皆逃げちゃうから」

「そ、そうですか。ワカリマシタ……」


 しょんぼりしたところを見ると、また何かやらかすつもりだったらしい。

 リーザロッテに向かって「めっ」と叱ったペルティニが笑って駆けだすと、リーザロッテとプッティも笑って大きく手を振った。



 悲しみの涙は癒えて、ささやかな喜びを胸に今日が終わり、また明日。

 昨日より今日、今日より明日。きっときっと素敵な何かが待っている。リーザロッテは、いつも信じていた。


 そう、そのときは……

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