7 行動開始
マロが話してくれた。
今いる場所は、アバ家の城から、
4Km離れた所にある洞穴である。
洞穴の周囲は森で、城下の人間が、
たまに狩りに来るという。
1週間程度であれば、この場所が、
人間やガウイ族に見つかる可能性は低い。
ピコルは行動計画を立て、
1週間以内にこの場を離れることにした。
ピコル「ユニヴの意思を確認しないとね」
ユニヴに言われた通り「ユニヴの意思」を思い浮かべる。
<西へ行け>
西に行くのか。どの様な所だろう。
ピコルには知識がない。
そこで、マロに聞くことにした。
マロは心話虫を通じ、地図を示してくれた。
アバ家を中心に、南は100Kmで海。
北は大陸中央部に続く。
東は平地が続き、2,000kmで海に出る。
西は1,100kmほどガウイの領土。
その外250kmは空白地帯。
その外側に人間の国がある。
ガウイの領土、空白地帯、人間の国にも
町や村、港などがあり、
それらの町や村は街道で結ばれているという。
ガウイ族は支配するのみで、商業、流通には携わらない。
それらは、人間がガウイ族の監視のもと、行っている。
ピコルはパピとマロと相談する。
ピコル「西に行こうと思う」
パピ「俺はピコルの行くところに行く」
マロ「お供します」
ピコルの思いは、一瞬で可決された。
ピコル「旅をすることになる。人間の町や村を旅する。
人間と同じ格好をする。服を着る必要がある」
パピ「俺、服着たことない。裸がいい」
ピコル「私も着たことない。でも裸で旅は出来ない」
パピ「ピコルが着るなら、俺も着る」
ピコル「旅をするには金が要る。用意する必要がある」
パピ「金?どんなの」
ピコル「金貨、銀貨、銅貨。パピも知ってるだろ」
パピ「知ってる。使ったことない」
ピコル「私も使ったことないが、必要。手に入れる」
マロ「どうしますか?」
ピコル「ガウイの城の金蔵からもらう」
マロ「泥棒ですか」
ピコル「違う。夜に行って、貰ってくる」
パピ「後は?」
ピコル「服が必要。服を人間の店から、貰ってくる。
服と金があれば、
人間の店で必要な物を手に入れられる」
パピ「何時やる?」
ピコル「今夜、大きい方の月が沈んだで、
小さい方の月が南中するころ」
パピ「分かった。準備する」
時刻は夜11時頃か。
ピコルとパピ、マロは、アバ家の城の外壁の外にいる。
外壁は、巨木の丸太を地面に突き刺し、並べたもので、
高さは地上10m程ある。
パピは背負ってきた蔦と、
蔦の先に括りつけた小石の仕掛けを下す。
そして小石を上に投げ、外壁の頂上に引っ掛ける。
パピは、スルスルと蔦に手を掛け上り、
ピコル達に上れと合図をよこす。
ピコルと、ピコルの髪の毛にしがみ付いたマロは、
頂上まで上った。
パピは蔦を引き上げ、内側に垂らす。
ピコルは思う。
この蔦の仕掛けが無かったら、
今日の侵入は無理だったろう。
パピはいつの間に、かこんな仕掛けを準備していた。
自分の計画の不備を、さりげなくフォローしてくれる。
パピは本当に頼りになる。
帰ったら、パピにお礼をしよう。パピが喜ぶお礼。
ピコルは、自分の体が火照るのを、感じた。
2人にとって、アバ家の城内は、勝手知ったる所である。
何処に何が有るか、熟知している。
戦闘ペットが何時、何処を巡回しているか、知っている。
金蔵から金貨3袋、銀貨と銅貨合わせて1袋を、
持ち出した。
ガウイの城内では、扉に鍵は掛かっていない。
戦闘ペットが場内を徘徊しているので、
侵入者は見つかってしまう。
見つかれば、死ぬまでガウイのオモチャとなる。
そんな危険を冒す者はいない。
硬貨は持ち運びにくかった。
人間用の道具倉庫に行き、背負子2つと革袋2つを貰う。
硬貨は革袋に入れ、背負子に括りつけた。
金貨を手に入れるミッションは、1時間で完了した。
アバ家の北側には、人間の町が広がっている。
服を手に入れよう。
ピコル達は暗がりにまぎれ、服屋を探した。
結構大きい服屋が見つかる。
服屋の周りを巡ったが、人の気配がなかった。
住居兼用の商店ではないようだ。
じっくり、服選びができる。
マロに、天井と壁の隙間から、侵入してもらい、
通用門の扉の、留め金を外してもらう。
中は真っ暗で何も見えない。
マロが、ランプの元に誘導してくれた。
ランプにくくられた火打ちで、ランプに火を付ける。
結構豊富に、服が置かれていた。
ピコルがパピの服を見立てる。
下着上下3着、服上下3着を頂いた。
下着と、服の1着はその場で着させた。
ピコルは自分の服を見立てる。
男物の下着、服を3着、頂いた。
女物は選ぶ気にならない。
1着はその場で着たが、まあまあの着心地であった。
丈夫そうなのも気に入った。
値段が判らない。あてずっぽうだが、
金貨24枚と値踏みし、
ランプの横に、金貨24枚を置いた。
本日の予定ミッションは全てクリア。
3人は意気揚々と洞穴に帰還した。
もちろん、帰ったピコルはパピにお礼をした。
彩にとっては初体験だった。
幸せな気分は、次の日いっぱい続いた。
彩は次の日、ピコルはパピとマロに、
優しく接することができた。
* *
ピコル、パピ、マロは監視されていた。
しかし、そのことには、誰も気づいていなかった。
洞窟の中の天井に張り付いた虫、
サウスの監視端末である。
偶然、マロがピコルとパピを、
前線基地に運んでところを、サウスの端末が目撃する。
サウスの将校は前線基地に違和感を感じる。
ペットの救出に前線基地?
普通ではない。機械生命体にとって、
ペットなど重要性はない。
前線基地を構築する意味が分からなかった。
取りあえず、監視端末を張り付けた。
半月ほど経過した。
前線基地は撤収された。
2名のペットは回復したようだ。
その直後、監視端末から驚くべき情報が上がってきた。
潜入兵と思われる1体と、ペットが話をしている。
将校の常識では考えられなかった。
間違いが無いか、3度にわたり、
潜入兵と2体のペットの動向を確認した。
100%間違いないことを確認し、
将校はサウス司令官に報告した。
サウス指令は報告を受け、戸惑っていた。
ノースに何があった。
自分たちの行動原理に鑑みて、
ノース潜入兵の行動は理解不能であった。
この潜入兵は壊れているのか?
サウスはこの考えを否定する。
そもそも、前線基地構築も不自然だ。
異常はノース全体で起きている。
通常、このような異常事態の場合、
本国に指示を仰ぐのだが、
本国との通信は絶えて久しい。
通信途絶の原因も判明していない。
サウスは自分1人で、この問題に対処する必要がある。
ノースに、理由をただすことは出来るが、
サウスとノースは仲が悪い。
下手をすると戦争になりかねない。
サウス指令は考えたあげく、
当たり障りのない方法を選んだ。
ガウイ族に、2体の戦闘ペットの始末をさせよう。
ノースの計画を阻止できる可能性が高い。
名案に思われた。
ガウイ族を間に挟めば、
ノースとの直接衝突は回避できる。
早速、準備をしよう。