6 彩の転生
ピコルに転生した彩は目覚めた。
ここは何処だろう。
隣にパピがいる。
目の前には動物の様なものがいた。
その動物が話し出す
動物「私は神様だ。
ピコル、パピ。今からお前たちに忠告を与える。
朝、ガウイに会ったら逃げよ。
夜、ガウイに会ったら隠れよ。
ガウイに近づいてはならぬ。近づけば死が訪れよう」
パピ「はい。分かりました。神様」
ピコル「…」
まるで小学1学年の学芸会だった。
見ていて、恥ずかしい。
ピコル「神様?
神が自分に敬称の『様』を付けるはずないだろ。
おまえ、神をかたるとバチが当たるぞ」
動物「え!」
動物はそう言って固まってしまい、返答できないでいた。
ピコルの夢は四散し、ピコルはまた眠りにつく。
マロ「え!」
そういって、マロは、ピコルとパピの精神侵入から、
離脱した。
マロ「ピコル怖わ!
いつものピコルじゃない。
大怪我で、人格変わったのかな。
『ガウイ族の対応』は、おとぎ話を使えば、
うまくいくと思ったのに。
今更、ポルポ軍曹にも頼めないし。
本当にどうしよう」
ピコルは眠りから覚めた。
本当によく寝た。
ピコルはパピに抱かれ、パピの腕枕で寝ていた。
まだ、パピは寝ていた。
パピのぬくもりで、ピコルは幸せだった。
目の前にはマロがいて、
顔の髭を小さな手でとかしている。
ピコルは背を持ち上げ、伸びをする。
ピコルが動いたので、パピも眠りから覚めたようだ。
目をこすりながら、大欠伸をしている。
突然、不安が襲う。
ここはいつものネグラではない。知らない場所にいる。
ピコル「パピ、ここは何処?」
パピは辺りを見回しながら答える。
パピ「分かんない。ピコル教えて」
はぁ~。パピは役に立たなかった。
ピコルは記憶をたぐり、思い出す。
たしか、グリ様が刺客に・・・。
そこまで思い出した時、グリに強い嫌悪感が走る。
この嫌悪感は彩の感じたものだ。
彩は、虫が大嫌いだった。特に濃茶で脂ぎった奴。
走るだけでなく、時には飛んで攻撃してくる奴。
生理的に受け付けなかった。
ピコルは記憶をたぐる。
グリが殺され自分は泣いていた。
記憶はそこで途切れていた。
今に至る状況は、つかめなかった。
こういう状況では、パピは役に立たない。
今までの経験で分かる。
聞く気が起きない。
マロは相変わらず、髭を小さな手でとかしている。
マロが喋れたら、聞けるんだけど。
ピコルがそう考えた時、マロに強い違和感を覚える。
ピコルが物心ついた時には、マロはピコルの隣にいた。
ピコルが戦闘ペットになる前から一緒だった。
もう10年になる。
しかし、マロが物を食べたのを見たことがない。
ピコルが幼いころ、
木の実、草の実、種、肉の切れ端、虫、草の葉など、
およそ食べられそうなエサを、持ってきては、
マロに与えたが、一度も食べなかった。
ピコル理性はそれを、不思議に思ったことはなかった。
そのことを彩の理性に照らして、再考する。
口があって、エサを食べない。
そんな生物がいるはずがない。
マロは見た目通りの動物なのか?
動物… 目覚める前に見た夢の一場面を思い出す。
神を騙たったあの動物、ひょっとしてマロでは。
ピコルは、足元で寛ぐマロを摘まみ、手のひらに乗せ、
真正面からマロを見下ろす。
ピコル「マロ、神でもないのに、神をかたると、バチが当たるぞ」
マロ「…」
ピコル「要返答!」
マロ「ごめんなさい。もうしません」
沈黙が流れる。
マロは気が動転した。ピコルの前で喋ってしまった。
潜入兵にとって、正体がバレルことは絶対にダメだ。
それを犯してしまった。
潜入兵として5万年、一度も失敗はなかった。
どうしたんだろう。俺。
俺、壊れたのかな。
マロは自分の失態をノースに報告した。
対処方法について、ノースに判断を求めた。
ノースから即、返信が来た。返信は意外なものだった。
現時点をもって、貴君に発した命令は全て破棄する。
新命令を発す。
ピコルと共に行動せよ。
ピコルを守れ。
ピコルの意思を成せ。
ピコル「マロ、喋れたのか。
今までどうして黙ってたんだ」
マロ「済みません。規則で禁止されてました」
ピコルはマロに、この場所に至る事情を
尋ねようとしていた。
パピがそれを遮る。
パピ「ピコル、大変、無い」
パピはピコルの左頬を指で撫でる。
次にピコルの胸の中央、乳房付近も指で撫でる。
パピの言いたいことが判った。
顔に刻まれた入れ墨、アバ家の奴隷紋と
胸の中央に刻まれた入れ墨、戦闘ペット紋が消えている。
ピコル「はっはっは。パピもないぞ」
パピは自分の左頬を指で撫でる。
そして自分の胸、戦闘ペット紋が有った辺りを手で擦る。
パピ「どうしよう」
マロ「あの~、事情を説明しましょうか?」
ピコルとパピ、マロの記憶を繋ぎ合わせ、
マロは説明してくれた。
グリが殺された。
死体にピコルとパピは寄り添っていた
そこにアバ家の領主が訪れる
領主は次期領主を殺され、
暗殺隊を無傷で逃がした事に腹を立てる
怒りを鎮めるため、ピコルを殴ろうとする
パピが拳を受け、ピコルを助けるが、
2人共重傷を負う
2人は死んだと思われ、ゴミとして捨てられる
マロとポルポ軍曹は2人を治療する
治療のため、ゴミ捨て場からこの場所に運ぶ
治療の過程で薬が奴隷紋、戦闘ペット紋を消す
治療には半月掛った
治療が終わり、ポルポ軍曹は引き上げた
ガウイ族はピコルとパピは死んだと思っている
ピコルとパピがガウイ族の元に帰らないよう、
神のマネをした
ピコル「マロ、ありがとう。マロは命の恩人だね」
ピコルは手のひらに乗せたマロに頬刷りをする。
ピコル「ポルポ軍曹にもお礼が言いたいんだけど、
もう引き上げたんだ。
会ってお礼が言いたい」
マロ「生きていればそのうち会えます」
ピコル「パピ、ありがとう。私を守ってくれたんだ」
ピコルはパピに抱き付き、お礼に長いキスをする。
パピはピコルが楽な姿勢でキスできるよう、
絶妙な手さばきでピコルの体を支えてくれる。
パピはこういう場面では本当に素敵な子なのだ。
パピ「ツガイだから当然のこと」
ピコル「それでも、ありがとう」
状況は分かった。
これからどうする。
これからの行動計画立案には、たぶん、パピは役に立たない。
彩とピコルで、決める必要がある。
取りあえず、腹が減った。
2人はポルポ軍曹が残してくれた食料で、食事をした。