41 アイラン
マリオはどうやって、ミランの心を開いたのだろうか。
マリオのお陰でミランと話すきっかけができた。
ピコル達はミランが心を閉ざさぬよう、慎重に会話を進めた。
ピコルがミランの困りごとについて聞こうとした時、パピが心話虫で話しかけてきた。
パピ「ピコル、ストップ! 」
ピコル「何? 」
パピ「これ以上、ミランに聞くなって。 マリオが言ってる」
ピコル「分かった。でもどうしよう? 」
パピ「今はダメ、でも今夜なら大丈夫みたい。
だから、後はマリオと俺に任せて」
ピコル「じゃあ、そうする。後はお願いね」
パピとマリオは今夜の大道芸の公演にミランを招待した。
ミランは招待を辞退した。
しかし、パピもマリオも諦めなかった。
ミランが何回断ろうと、公演への招待を繰り返す。
パピとマリオの善意むき出しの圧力は強力であった。
ミランの心のバリアを取り除いていく。
最後にはミランは大道芸の公演への招待に応じてくれた。
ミランは約束通り、北第2広場に来てくれた。
マリオは張り切っていた。新しい友達が出来た。
その友達が会いに来てくれた。
マリオは嬉しくて仕方なかった。
そのマリオの喜びは観客に伝染する。
マリオ一座の公演は何時にもまして盛り上がった。
パピも本気を出した。ここの観客は、まだパピの本気の曲芸を見ていない。
始めてみるパピの本気に、トリでもないのに、アンコールが掛ったほどだ。
ミラン「招待してくれてありがとう。
素晴らしかった。
マリオ。君はホントに犬なのか?
それに、パピの曲芸には驚かされた。
こんなに楽しめたのは久しぶりだ」
マリオ「ワン」
パピ「ははは、もっと凄いのもあるぞ。今度見せてやる」
ピコル達はミランを食事に招待した。
ミランは快く食事の招待を受けてくれた。
マリオも一緒に楽しめるよう、野外席のある店で食事をした。
ピコル「ミラン、今から大事な話がしたいんだけど」
ミラン「ああ、良いよ」
ピコル「貴方、何か困りごとを抱えているわよね。
ある方にあなたを助けるよう依頼され、私達はこの町に来ました。
何に困っているか、話して欲しいの」
ミラン「ここしばらく、少し落ち込んでいたけど、僕は困っていない。
君たちと友達になれたことで、元気が出てきた。
だから、大丈夫だよ」
ピコル「ミラン。あなたを助けるよう私達に依頼したのは神様なの。
だから、あなたは間違いなく困りごとを抱えている」
ミラン「僕は錬金術師だ。神の存在を信じない」
ピコル「あなたの困りごとを解決するのが私たちの使命なの」
ミラン「僕の困りごとは危険なんだ。友達を巻き込みたくない」
ピコル「そうか、困りごとは危険なのね。
その危険を取り除くために、私達はここに来たの。
私達なら危険でない様にあなたの困りごとを解決できる」
ミランは暫く考えていたが、決断した。
ミラン「アイランを奪還したい。アイランは僕の女神なんだ。
今、アイランは奴隷として囚われの身、もうじき売られてしまいそうなんだ」
パピ「はは、お前、神様を信じないと言ったろう」
ピコル「パピ。アイランは、女神様みたいに綺麗な、人間の女のことなの」
パピ「え! そうなのか」
* *
ミランの回想。時は2年半前。
ミランは港町ケファからキエネ王国に来ている。
王立大学に入学したのだ。
将来、錬金術師となるため、ミランは幼いことから勉学に励んだ。
王立大学の入学試験では、ダントツの1位で入学した。
ミラン「銀貨4枚と銅貨6枚か。仕送りが来るまで、あと15日。
耐えるしかないな」
ミランは授業で使う教科書を買ったが、予想外に高かった。
手持ちの金が減り、食事もままならない。
食堂での食事には、朝食では銅貨3枚、昼食では銅貨4枚、夕食では銅貨5枚が必要であった。
今日は朝食と昼食を抜いた。
さすがに今日の夕食は食べないと、明日の授業に影響が出る。
授業が終わり、腹ペコで、俯きながら、廊下を歩いていた。
突然、目の前に、弾ける様な笑顔が現れる。
顔が近い。ミランは少し、のけぞる。
「天才ミラン。今日の授業の問題で、議論したい。いいかな」
青と緑、オッドアイの美しさに、ミランの心は吸い込まれる。
たしか。アイランといったか。クラスメイトであった。
ミラン「あっ、ああ」
アイラン「良かった。ずっと、話すチャンスを待っていたんだ。
嬉しい」
急に緊張したため、ミランの腹の虫が盛大に鳴いた。
アイランは驚いた表情になる。しかし、それも美しい。
アイラン「ははは。腹が減っているのか。
そういえば、ミラン。あなた、朝も昼も食堂に居なかったわね」
ミランは恥ずかしく、答えられない。
アイラン「ミラン。財布を見せて」
ミランがおじおじと取り出す財布を、アイランが奪い取る。
アイランは中身を確かめ、ミランに返した。
アイラン「足りるわね。ミラン、付いて来て」
アイランは学校のゴミ捨て場に行き、
壊れた箱と木切れ、短いチョークを拾い、ミランに持たせる。
学校を出て、花屋に行く。
アイラン「店主。この白いヒナギク、100本で幾ら」
店主「銀貨3枚と銅貨8枚」
アイラン「銀貨3枚におまけして」
店主「商売にならんが、良いだろう」
アイラン「ありがとう」
アイランはミランに金を出させた。
さらに、アイランは歩き、墓地に来た。時刻は夕方。
お参りの人が来る時刻であった。
アイランはチョークで『1本 銅貨2枚』と木の板に書き、
足元の箱に立てかけた。
墓地に人が来ると、アイランは死者を悼む歌を歌った。
透きとおるような高音、そして、どこか暖かい、そんな歌声であった。
その歌に引き寄せられ、お参りの人が花を買ってくれる。
アイランはまた、歌を歌う。
日が暮れかける頃には、花は全て売れた。
売り上げを数えると、銀貨20枚、銅貨8枚であった。
アイラン「花を買ったのはミラン、あなただ。この金はミランのもの。
私も腹が減ちゃった。ミラン。学校に戻り、夕飯を食べよう」
ミラン「ああ。ありがとう。アイラン」
アイランの行動は、ミランの心を捉えるには十分だった。
その日から、アイランはミランの女神となった。
2年が終わり、3年になる間、学校は2か月間、休みとなる。
アイランは教授の推薦で、キエネ王国の第3王子の学導となった。
学導の仕事は、教師から与えられた問題を、王子と共に考る。
そして正解に導くことであった。
2か月の休みが終わり、3年生になった。
王子の要望で、アイランは学導を続けていた。週末、
金曜の授業が終わると、その足で、王宮に行った。
日曜の夕方、学校に戻って来る。
アイランの話によると、最初、王子は政治に興味がなく、
狩りに夢中であったが、最近は、政治に夢中になっている。
特に税制について、アイランと2人で、研究しているそうだ。
アイランを王子に取られたようで、ミランは寂しかった。
しかし、その寂しさをアイランに言えなかった。
3年になって、1カ月が過ぎたとき事件が起こった。
王宮に行ったはずのアイランが、行方不明になった。
ミランはアイランを探した。
しかし、何処にもいなかった。
事故ではない。あるとすれば、人攫いに会ったのだろう。
キエネ王国でも、人攫いは居る。
王国内では人身売買は犯罪として罪になる。
しかし、空曰地帯には法律は無い。
だから、人攫いは攫った人を空白地帯で売る。
同級生にキエネ王国の高官の子がいた。
その学生が、噂話と前置きし、教えてくれた。
最近、第3王子が政治に興味を示し始めた。
それを快く思わない者たちがいる。
原因は学導。原因を取り除くため、そいつらは強硬手段に出た。
アイランを救いたい。しかし、ミランには助ける方法が思い浮かばなかった。
そんな折、クラスメイトの1人が、手がかりを見つけた。
それはカジノのパンプレット。
そこには景品の一覧が記載されていた。
ある日の景品で、美女が出品されている。
名前は書いてないが、美女はオッドアイ、青と緑とある。
オッドアイ自体が珍しい。さらに青と緑。間違いなくアイランだ。
必ず、アイランを取り戻す。
決意を固めたミランは、大学を休学した。
ミランは、力ずくで取り戻すつもりでいた。
多分、カジノは自分の首に賞金を掛ける。
そうなれば、自分もアイランも空白地帯には、住めない。
そんなことは構わない。どうでもいい事だった。
ミランはアイランを連れ、何処か遠くに行くつもりでいた。
自分の行動で、親や友人に迷惑を掛けないよう、接触を絶っていた。




