4 マロ
マロは自分のひげを、前足で、毛づくろいしている。
ピコルの寝床で、暇な午後を、まったりと過ごしていた。
マロは
体長18cm、体重100g
ゴールデンハムスターそっくり
体色は白、オレンジのマダラ模様
マロはいつも、寝るときはピコルと一緒だった。
周りの戦闘ペット達は、マロを、ピコルのペットと、
思っている。
だが、違う。逆なのだ。
ピコルはマロのペットなのだ。
マロは3歳のピコルを見つけ、ペットとした。
もう10年がたった。
ピコルは13歳になった。
幼児から少女になった。
マロはピコルが寝ているとき、ピコルの意識に侵入する。
そして、ピコルの記憶から、人間種の動向を探る。
我々にとって何か危険な兆候が無いか、毎夜探っている。
突然、緊急情報が届く。
マロは驚いて10cmほど、飛び上がった。
緊急情報は、ピコルに取りつけた心話虫から、
送られてきた。
即座に、マロは分析に入る。
心電図:心拍異常、心拍薄弱
呼吸 :一時停止、現在は回復、しかし浅い
筋力 :随意筋の活動がない
脳波 :生命維持に全力注力状態
血流 :弱い、何処かで出血状態
血圧 :低い、ショック状態
血液 :体組織にダメージ受けた状態
精神 :意識喪失
分析結果が出た。
1時間以内に死亡する確率90%。
ピコルは、おいらの大事なペットだ。死なせるわけには、
いかない。
マロ「まずい、まずい、まずい。急がなきゃ」
神話虫からの位置情報で、ピコル位置が判る。
マロはピコルに向かって走り出す。
マロはハムスターに似ているが、走りは得意ではない。
しかし、マロは休むことなく、ピコルを目指して走る。
マロは司令官ノース宛の、緊急連絡を発信した。
ピコルの救助許可を願い出た。
ノースから即座に返信が来た。
内容は許可ではなかった。
ノースから発せられたのは最重要命令であった。
命令文は
「ピコルとパピを救助せよ」とあった。
マロ「ピコルのツガイも救助が必要なのか。
でも、どうしてパピのことを司令官が知っているのかな。
パピのこと、一度も報告してないのに。
不思議だ」
マロは走りながら、2名の治療計画を立てる。
治療には、人間種用マイクロマシン薬を使う。
マイクロマシン薬は、人間種用の万能薬だ。
怪我や病気の状態によって、必要とする量が違う。
重傷や重病ほど、量が必要となる。
自分の持つマイクロマシン薬の、残量を調べた。
900mgしか持っていなかった。
少なすぎる。
ピコルのモニタリング情報から考え、
少なくとも15,000mgは欲しい。
パピの状態は不明だが、ピコルと同程度と推定する。
両者合わせて、マイクロマシン薬は30,000mg
必要か。
マロは緊急援助の歌を歌った。
歌って薬を持つ端末を呼び寄せる。
近くにいるノースの端末、
薬を持つ端末たちが集まりだす。
蝉の様な端末がマロの上空を通過、
小さなカプセルを投下。
マロはそれを口でキャッチ、飲み込む。
次はカラスの様な端末が来る。
カプセルを10個も投下してくれた。
次は小鳥、リス、またカラスとひっきりなしに、
マロにカプセルを渡す。
暫く走ると、薬の必要量は確保できた。
マロの腹は薬でポッコリとする。
体も重くなり、走る速度が鈍る。
徐々にだが、ピコルの位置が移動している。
何があった?
ピコルは、自力で移動できる状態ではない。
不安が増す。
暫くして、ピコルは東側に動きだした。
マロから見れば、近づいている。
これはラッキーだった。
ピコルの位置と自分の位置から、後、
何分掛るか予測する。3分か。
マロは急いだ。1秒でも早く、
ピコルの元に駆け付けたい。
ピコルの心臓の鼓動が弱くなっている。
ピコルとパピは荷馬車に乗せられ、
生ごみの捨て場に、運ばれている。
通常、主人が死ぬと、戦闘ペットは殉死させられる。
だが、既に死んでいては殉死させられない。
生ゴミとして、捨てられようとしていた。
ピコルとパピを乗せた荷馬車が、ゴミ捨て場に着いた。
白ガウイが、ピコルとパピの体を、
荷馬車から引きずり出す。
そして、生ごみの上に無造作に投げ捨てた。
マロはピコルの位置を追っている。
突然、ピコルの移動が止まった。
マロ「急ごう。ピコルは死なせない。絶対! 」
ピコルは直ぐ近くのはずだ。まだピコルが見えない。
マロの目前に大きな穴が見える。
マロは穴の淵まで走り、ジャンプする。
地面に深さ3m、直径20m程の穴が掘られていた。
ガウイ達は地面に穴を掘り、そこに生ごみを捨てる。
生ごみが十分溜まると、穴を土で覆い隠す。
ジャンプしたため、急にマロの視界が開けた。
転がっていたピコルを見つけた!
パピも見つけた。一緒にいる。
穴の底に着地したマロは、急いで、
ピコルの元に駆け付ける。
マロはピコルの手首を観察する。
皮膚の浅い場所に走る静脈を探す。
見つけた。皮膚に噛みつく。
噛みついた皮膚の下の静脈に、口から注射針を差し込む。
マイクロマシン薬を15,000mg注入する。
ピコルの隣にパピも転がっていた。
ピコルと同様に、マロはパピにもマイクロマシン薬を
注入する。
両名に注入したマイクロマシン薬から、
情報がマロになだれ込む。
体の各部の傷みの状況が判明しだす。
ピコルのダメージ
脳組織 浮腫状態
頭部全体 鼓膜裂傷
骨 胸骨骨折 3カ所
骨盤 1か所
大腿骨 1カ所
血管 腹部で複数出血
心拍 微弱
呼吸 浅い
血圧 低い(ショック状態)
パピのダメージ
脳血管 3か所出血
脳組織 浮腫状態
頭部全体 眼球破裂
内臓 脾臓破裂
肝臓破裂
腎臓破裂
骨 脊髄骨折 3か所
胸骨骨折 8カ所
その他 15カ所
心拍 微弱
呼吸 浅い
血圧 低い(強いショック状態)
両名のマイクロマシン薬が応急処置と、
止血手術を開始しだした。
両名の死亡確率が下がりだす。
ピコルの1時間後死亡確率は30%。
パピのの1時間後死亡確率は60%。
だが、まだ高い。
もっと下げなきゃ。
内臓破裂と脊髄骨折は、マイクロマシン薬では
荷が重いだろう。
マイクロマシン薬も、そう言っている。
マロ「ダメだ、ダメだ。
予想より、二人とも重症だった。
ここはポルポ軍曹に頼ろう」
マロは、ポルポ軍曹への救援依頼の歌を歌う。
1分程、マロのありったけの願いを込めて、歌った。
返事は直ぐ届いた。
人間種用の生命維持端末を2体、
飛ばしたと連絡を受けた。
生命維持端末が届くまで20分かかる。
20分か、長い。
マロはマイクロマシン薬に、生命維持、
最優先の指令を出す。
この場所の、外部環境は厳しい。
こみ捨て場だから当然だが、不潔この上ない。
何やら訳の分からない虫が、這いずり回っている。
ピコルが齧られたら一大事だ。
マロは、ピコルをもっと安全で清潔な場所に、
移動させたかった。
しかし、マロは100gほどの存在。
ピコルは38kgもある。
マロでは到底、移動させられない。
マロは代替策を実行する。
マロは繭糸を吐き、ピコルとパピを保護する
繭玉シェルターを作りを始めた。
マロの吐く繭糸が、傘のようにピコルとパピを、
覆い隠していく。
繭糸は細く薄いが、驚くほど高い強度がある。
たぶん、ガウイ族の拳の1撃くらいなら、
防げる強度がある。
さらに、繭糸には付加機能がある。
繭糸は周りの景色を取り込み、
見るものに迷彩効果を与える。
光学迷彩として機能するのだ。
ガウイ族の目は、素早く移動する物をとらえるのに、
適した複眼だ。
ガウイ族ではマロの繭球を捉えることは出来ない。