39 港町ケファ
ピコル達は大盗賊団が封鎖する街道を抜け港町ケファに着いた。
数日前だが、「ユニヴの意思」が更新された。
現在の「ユニヴの意思」は以下である。
<西へ行け>
<港町ケファに行け>
<錬金術師ミランを助けろ>
港町ケファは大都会だった。
港町リュウの5倍は大きい都市だ。
大道芸を披露する広場だけでも8か所ある。
本格的な演劇を上演する劇場まであり、
人間の国の王都と遜色のない文化度を誇っている。
こんな大都会で人を探すのだ。
素人では無理がある。
錬金術師ミランを探すのは、やはり、情報屋を使うのが賢明だろう。
そういえば、カールとエミリーも、この町の何処かで店を始めている筈だ。
彼らにも会えるだろうか。
大道芸を公演する広場にも格があるようだ。
最も格が高いのが中央第一広場、最も格が低いのが北第2広場。
ピコル達はこの町の新参者である。
そう言う訳でピコル達は北第2広場に来ている。
ここは若い大道芸人が多い。
年齢もピコルやパピと同年代であった。
それに、珍しい大道芸が多かった。
例えばコマの曲芸やパントマイム風の出し物、コントや仮面劇などがあった。
バラエティーに富んでいて、初めて見る大道芸ばかりであった。
暫く、ここで公演しよう。ピコル達はそう決めた。
ピコル達はこの町に慣れるため、最初は大道芸に専心した。
10日ほど過ぎ、そろそろユニヴの意思に取り掛かるため、
仲良くなった芸人達に情報屋を知らないか、聞いて回った。
探すのに苦労するかと思ったが、情報屋はあっさり見つかった。
男「君達、ピコル一座かな」
ピコル「そうだけど」
男「情報屋を探してると聞いたんだけど」
ピコル「そう。探してる」
男「僕は情報屋のロイドという。どんな依頼か聞かせてくれないか?」
ピコル「依頼は人探し。錬金術師のミランを探してほしい」
ロイド「年齢とか名前の他に分かる情報はないかな?」
ピコル「名前しか分からない。専属で契約してほしんだけど」
ロイド「俺の場合、専属は無理。
ただ、人探しは得意分野なんだ。
週金貨1枚。報告は週1回。
見つけた場合、金貨10枚。
それで良ければ契約したい」
本人から人探しは得意と言うだけあり、ロイドの仕事は几帳面で丁寧であった。
町は広いので、町を36地区に分割し、地区ごとに住む錬金術師を調べ、名前と住所の一覧を作っていく。それを週1回、報告してくれた。
もう4地区、その4地区には錬金術師が46人いたが、ミランなる錬金術師は居なかった。
港町ケファは広く、地区も36地区ある。
ロイドは、錬金術師が多く住む地区から、優先的に調べてくれている。
後1カ月、調べて分からいようであれば、
金を追加して、調べる情報屋を増やすよう提案されている。
話は少し、遡る。錬金術師ミランを探し始める前、北第2広場に来て直ぐの頃、
パピに友達ができた。
パピの友達は、ピコル公認でもある。
友達は人間ではなく犬であった。
その犬は大道芸を観覧する客の最前列に、いつも寝そべっていた。
そして大道芸人の公演を眺めている。
パピが興味を持ったのは、その犬の行動であった。
観客が投げた投げ銭が、犬の前に転がって来る。
犬は素知らぬ顔で、硬貨を前足で隠す。
硬貨を1枚隠すと、観客や芸人に気づかれぬよう、
口で拾いどこかへ去っていく。
犬の行動は一夜限りでは無かった。毎夜、硬貨を持ち帰るのだ。
観客、芸人の目を誤魔化せても、パピの目は誤魔化せなかった。
パピ「マロ。心話虫は犬にも付けられるか?」
マロ「どうでしょう。目的外使用なので、不明です」
パピ「マロ。心話虫を1匹出せ。目的は聞くな」
犬の話をして『出せ』である。どう使うかはマロでも推測できた。
パピは借り受けた心話虫を犬に飛ばした。
そしてパピは密かに犬と会話を試みたのだ。
パピと犬の件は、ピコルに内緒であった。
秘密裏にパピは犬と会話を練習した。
1週間後には、犬と会話を成立させていた。
パピは秘密を隠すのは苦手だ。それに、自慢話は大好きだ。
パピ「ピコル。面白い話、聞きたくない」
ピコル「どんな話? 聞かせて」
パピ「どうしようかな」
ピコル「お願い」
自分から話を振っておいて、どうしようかな、は無い。
パピ「ピコル。俺に友達が出来た。紹介する。マリオだ」
そこにはピコルも広場でよく見かける犬がいた。
ピコル「友達になったのね。宜しくね。マリオ。
ところで、名前はパピが付けたの」
パピ「違う。マリオから聞いた」
マロ「パピは心話虫で、犬と会話の練習をしてました。
しかし、名前まで聞きだしていたとは、知りませんでした」
パピ「マリオが首輪が欲しいって。買ってやりたい」
ピコル「わかった。とりあえず、雑貨屋に行って、犬の首輪があるか聞いてみようか」
雑貨屋を3軒はしごし、マリオの気に入った首輪を買った。
首輪は赤の革製で、首輪の前には星形の装飾品が吊るされている。
パピはマリオの首に首輪を掛けた。
これで、マリオは野良犬には見えなくなった。
パピ「マリオがツガイを紹介したいって言ってる。
2匹いるって。
弱っているから、俺達に助けて欲しいと、言っている」
ピコル「2匹も! マリオはモテるのね」
パピ「2匹共、とっても可愛いって」
ピコル「じゃあ、マリオの彼女を助けに行きましょうか」
マリオはピコル達を先導し、運河の方に歩いて行く。
運河沿いの船小屋が並んでいる地区に来た。
この地区の外れにある船が係留されていない、荒れた船小屋に、マリオは降りていった。
そこで、マリオは小さな声で「ワン」と一声吠えた。
船小屋の中から、小さな声がした。
「マリオ。お帰り」
少女の声の様だ。
ピコルもパピも驚いた。てっきり犬がいると思っていた。
パピ「大きい方のツガイだって。マリオが」
ピコルは、少女から事情を聴くことにした。
首を突っ込みたくないが、パピの友達の彼女だ。
放っておけなかった。
ピコルは船小屋の下まで来たが、少女の姿は見えなかった。
何処かに隠れているのだろうか。
優しく声を掛ける。
ピコル「こんにちは。私達はマリオの友達なの。
マリオに案内されてここに来ました。
出てきてくれる?」
しかし、少女は出てこなかった。
マリオが優しく「ワン」と吠えると、天井の扉が開き、
少女が1人、梯子を下りてきた。
少女はやせ細っていた。
ピコル「名前を教えてくれる」
少女「マリベル」
ピコル「マリオは2人いるって、言ったけど」
マリベル「妹は病気なの。上で寝てる」
ピコル「妹さんの名前を教えてくれる?」
マリベル「ビアンカ」
ピコル「ビアンカに、お薬を飲ませたいから、
ここに下すけど、良い?」
マリベル「妹を治してくれるの?」
パピに頼み、ビアンカを天井裏から下した。
マロに頼み、ビアンカにマイクロマシン薬を飲ませた。
ビアンカはやせ細っており、明らかに栄養失調だった。
マイクロマシン薬の報告では栄養さえ与えれば回復可能とのこと、それを聞き、ピコル達は安心した。
ピコルはパピと相談し、マリベルとビアンカを宿に移すことを決めた。
宿はマリオも一緒に居られるよう、馬小屋を併設した宿を、新たに取った。
マリベル達に、暖かい寝床と食事を与えた。
3日もすると、マリベルとビアンカは、見違えるように元気になった。
服装も汚れ、破けていたので、下着と服、靴を買いそろえた。
2人の体の汚れは、ピコルが銭湯で落とした。
今日はマリオ、マリベル、ビアンカを連れて広場に来ている。
マリベル達に事情を聞き、3人のこれからを決めるためだ。
まず、現在に至る事情を聞いた。
マリベル達はこの町に住んでいた。父は2年前に病で死んだ。
母とマリベル達は3人で、質素に暮らしていた。
6か月前、母も病気で死んでしまった。
母の死後、知らない男がマリベル達を引き取りに来た。
男は自分達を売る、そう直観したマリベルは、その男からビアンカを連れて逃げた。
あてもなく夜の街をさまよっていた時、マリオに出会った。
マリオは、自分のネグラである船小屋に案内し、そして匿ってくれた。
毎日、銅貨1枚を咥えてきて、マリベルに渡してくれた。
銅貨2枚溜まると、その金でパンを1個買い、2人は飢えを凌いできた。




