38 大盗賊団
ケリーの怪我が治り、ケリーとルミンは故郷の北の村に帰っていった。
さあ、自分達も西を目指して進もう。
ピコル達は街道を西に進んだ。
空白地帯で、旅をする場合、
商人達の流通網である商人キャラバンに同乗する。
しかし、ピコル、パピ、マロは3人での旅を選んだ。
パピとマロがいれば、強盗や追剥、誘拐などは怖くない。
今回の旅の目的地は、港町ケファと決めた。
地図で調べると、目的地まで、村を三つと、町一つを通過する。
港町ケファはその次にある。
大道芸の公演も行うので、旅の期間は約1か月を予定している。
村を2つ経由して、今日は町に来た。
林を抜けると、前方に町の全容が見えだした。
この町もやはり、城塞の中にあった。
まだ、町まで1km程あるが、
町に近づくと、騎馬と歩兵達の訓練に出くわした。
驚いたことに、この町には軍隊があった。
ピコル達は、荷馬車を馬車預り所に預け、東門から徒歩で町に入った。
門は衛士が警備していた。衛士の他、徴税官も居て、
入るときに入場税を取られた。入場税は銅貨2枚であった。
ハビアロンの村や町の構造は似通っている。
東門を抜けると広場がある。広場には市場があり、商店があった。
沢山の人が買い物に来ていた。
やはり、ここにも大道芸人がいた。
ピコル達は大道芸人と交渉し、今夜の公演を手に入れた。
前の町のようにショバ代は取られない。
ただ、ここも街中での野宿は禁止されていた。
大道芸人と話して分かったのだが、町は大事件に直面していた。
大盗賊団が町に難癖を付け、西、南、北に延びる街道を封鎖している。
商人キャラバンや旅人は、東以外の街道を通行できない。
もし、旅をしたいなら、この町を迂回することになる。
距離が延びる分、商人は損害を受けていた。
大盗賊団は街道の封鎖を解く見返りに、町に金貨10万枚を要求している。
無茶苦茶な商売があったものだ。
ピコルは呆れてしまった。
ピコルは西に行く必要があるのだが、西への街道が封鎖されていては進めない。
しかし、急ぐ必要もない旅なので、この町で、大道芸で稼ぎながら、もう少し情報を集めることにした。
ピコル達が町に着いて2週間が過ぎた。
町の噂では、町は大盗賊団に金貨を支払うことになった。
ただ、金貨10万枚は払えない。金額を交渉する事になり、
大盗賊団は町に交渉団を送り込んできた。
この交渉がまとまれば、街道の封鎖が解かれ、ピコル達も西に行くことができる。
ピコルもそろそろ西に行く頃合いだと感じていたので、都合が良かった。
ピコルとパピは広場の片隅で、他の大道芸人達と一緒に、いつもの様に大道芸の練習をしていた。
その時、小麦を沢山積んだ荷馬車がピコルの脇を通り過ぎた。
小麦は高さ2mほど積まれ、荷を引く馬も汗をかいている。
ピコルはその荷馬車に漠然とした不安を感じ、練習を中断し、荷馬車を注視した。
石畳のワダチに馬車の車輪がハマり、車輪がきしむ。
車輪を支えるスポークが砕ける。
片方の車輪が砕けたことで、馬車が傾き、荷の小麦袋がゆっくりと荷崩れを起こした。
小麦袋は馬車の脇で練習していた子供の大道芸人の上に崩れていく。
ピコルは悲鳴のような叫び声を上げた。
ピコル「キャ、パピ! 」
ピコルの悲鳴を聞き、パピは反射的に高速移動モードになった。
同時に、ピコルの安全を確認する。
目視ではピコルに直接的な脅威は確認出来なかった。
次に、自分自身への脅威を確認するが、これも確認できなかった。
マロがパピをアシストする。
マロ「パピ。ピコルの視線の先を確認してください」
パピ「了解」
パピはマロに促され、ピコルの視線の先を確認する。
荷崩れした小麦袋が大道芸人の子供の頭上に崩れ落ちようとしていた。
ピコルの悲鳴の原因が分かった。
自分の位置から子供の所までは15m程、
パピは全速で移動する。
小麦袋はまだ子供に接触していない。
パピは優しく子供を抱き、小麦袋の落ちる速度に合わせ、ゆっくりと移動した。
こうしないと、子供はパピのスピードで怪我を負ってしまう。
パピは子供を安全な所まで移動させた後、高速移動モードを解いた。
辺りは荷馬車の事故で騒然となった。
しかし、パピはこの事故から子供を助けた事は殆ど誰にも気づかれなかった。
子供はいきなりパピに抱かれ、驚いていたが、パピに助けられた事に気づいていない。
パピは子供に怪我の無いことを確認し、抱いた子供を放した。
ピコル「パピ。ありがとう」
パピ「ああ、危なかったな」
マロ「さすがです。パピ」
騒ぎは荷の積み過ぎによる荷馬車の荷崩れ、よくある事として時間と共に静まっていった。
偶然、この騒ぎをミランダが目撃した。
ミランダは元は盗賊であったが、現在は町の警備からスパイの取り締まりのために雇われている。
ミランダ「今の見たかい?
あの大道芸人の動き」
部下「大道芸人?ただの荷崩れとしか見えませんが」
ミランダにもパピの動きが見えたわけではなかった。
いきなり、大道芸人が子供の横に現れ、神業とも言える速さで荷に押しつぶされそうになる子供を救助した。
ミランダにはパピがゆっくりと行った動作だけが見えていた。
ミランダ「あの大道芸人達、何者だろうね。大急ぎで調べな」
部下「承知!」
ミランダは、パピが大盗賊団のスパイではないかと疑い、素性を探り出した。
部下「男の名はパピ、女の方はピコル。
2人組の旅芸人です。
パピの芸は曲芸で、芸は一流との噂です。
2人は2週間前、東門からこの町に入りました。
奴ら、商人キャラバンに同乗していませんでした。
2人だけで、荷馬車に乗って来たそうです」
ミランダ「本当かい。怪しいどころじゃないね。間違いなく大盗賊団の一味に決まりだね」
空白地帯でキャラバンを利用しない大道芸人など、
聞いたことが無かった。
普通、大盗賊団のスパイを見つけた場合、衛士に通報し、捕まえるのだが、
ミランダはパピが簡単に捕まるとは思えなかった。
明日は大盗賊団の交渉団が町に来る。
それを前にして、パピの捕獲に失敗するような事になると、
町が取ろうとしている作戦に悪影響が出る可能性がある。
ミランダは慎重に事を運ぶ事にした。
町は交渉団に薬を盛り、始末する計画を立てている。
パピも交渉団を迎える宴会に呼び、薬を盛ってから始末しよう。
薬を盛れば、パピといえど、始末することは簡単にできるだろう。
ミランダは今考えた作戦を実行するため、パピに接触した。
ミランダ「そこの芸人さん。話があるんだけど」
パピ「俺にか?」
ミランダ「そう。素晴らしい曲芸だね。
その曲芸をある宴会で披露してほしいんだけど。
お足は弾むよ」
パピ「分かった。だが、そういう話はピコルだ。ピコル。来て」
ミランダは、交渉に来る大盗賊団をもてなす宴会で、
パピに曲芸をさせようとしていた。
ピコル「1公演で金貨5枚ですか。お足は十分なんだけど。
パピ。どうする?」
パピ「俺はピコルに任せる」
ピコル「受けます。明日、夜8時、ゼラパレスですね。
準備があるので、7時に伺います。
お呼び、ありがとうございます」
ミランダ「こちらこそ。よろしく」
翌日、宴会で、ピコル達はピコルの歌とパピの曲芸を披露した。
パピの曲芸は超人的で、交渉団にも、大うけした。
ミランダはパピの反応を注意深く探ったが、パピとピコルの振る舞いは自然で、
パピがスパイか自信が持てなくなってきた。
交渉団のトップ、大盗賊団の師団長がパピに目を付ける。
師団長は芸を終えたパピに金貨を1枚投げ渡した。
師団長「お前、名前は?」
パピ「俺はパピだ」
師団長「パピ。すごい体術だ。素晴らしい。
お前、俺の師団に入れ。
目を掛けてやる」
パピ「いやだ。俺はピコルと共にある」
師団長「ピコル? 女か。女など、いくらでも手に入る。
俺の提案を受けろ」
師団長が手で合図した。
合図に呼応した盗賊の1人が、ピコルを捕まえようとした。
パピは高速移動モードで、盗賊の1人の顎を捻り、気絶させた。
パピは高速移動モードを解き、ピコルを自分の背に隠した。
回りの盗賊が騒ぎ出す。
数名が立ち上がり、パピとにらみ合いになった。
パピは小声で「ピコル。壁際に下がるよ」
ピコル「はい」
パピは師団長を睨み、防御の姿勢を取る。
ピコルを自分の背に隠したまま壁際に後ずさりする。
そして、ピコルを庇うように、盗賊団の前に立つ。
パピ「(心話虫で)マロ。ピコルを繭で隠せ」
マロ「お任せ下さい」
師団長「おい。女1人のために、俺達とことを構える気か。
バカなことをするな。
今ならまだ、許してやる。俺達の仲間に成れ!」
パピ「はは! バカの手先は御免」
師団長「パピは生け捕りにしろ! 女はお前達にやる。好きにしろ」
相手は1人、こちらは20名以上、それに自分たちは武器も持っている。
普通、勝負にならない。
盗賊団は、宴会の余興程度に思っている。
ミランダは複雑な心境で事態を眺めていた。
パピはどうやら大盗賊団のスパイでは無いようだ。
しかし、パピ達を助ける事は出来ない。
下手に助けて、交渉団の毒殺計画が失敗しては元も子もない。
パピ達にはすまないが、ここは交渉団に加勢するつもりでいた。
パピは、マロがピコルを繭に隠すのを、待っていた。
マロは壁際に座り込んだピコルに繭を掛けていく。
ピコルの姿は繭の効果でぼやけ出す。
マロは10秒で繭を張り終えた。
マロ「完成しました!」
繭が完成したと同時に、パピは高速移動モードに入る。
パピはマロが繭を張る間、この場にいる盗賊を確認し、どの経路で盗賊を始末するのが最適か、シミュレーションしていた。
この場には26名の盗賊が居る。後、盗賊ではないが敵味方不明の者が3名。
敵味方不明の者を監視しながら、26名の盗賊団の首をひねり、殺害する。
所要時間は5秒。
敵味方不明の者も5秒では介入できないだろう。
高速移動モードになったパピにとっては、10秒で1人、処理する感覚だ。
簡単な作業であった。
ピコルを襲った1名は、最後に足で頭を蹴り、首を折った。
宴会場は静寂に包まれた。給仕の人間は足がすくんだのか、
誰も動かない。
楽団も演奏を止めた。
辺りは静寂に包まれる。
パピは通常モードに戻り、ピコルを繭から出し、2人で宴会場を出ようとしている。
ミランダは驚愕していた。ミランダは近場の盗賊を調べたが、死んでいた。
多分、交渉団の盗賊は全員、同じように死んでいる。
ミランダはパピを目で追えなかった。
しっかり見ていたのだが、何が起きたかまったく見えなかった。
盗賊達は次々に倒れ、死んでいった。
何か考えようとしたが、思考が停止する。
我に返ったミランダはパピを追いかけた。そして声を掛ける。
ミランダ「パピ達、そっちはダメだ。こっち。逃げ道を教える」
パピ「お前味方なのか? 敵なら死んでもらうが」
ミランダ「今は味方だ。逃走を助けたい。何処に行きたい?」
ピコル「西の街道」
ミランダ「西街道は大盗賊団がふさいでる。行けないよ」
パピ「通る」
ミランダ「わかった。
ギンタ(部下1)。パピ達の荷馬車を仕立て、西門の外に用意せよ。急げ、30分以内だ。
ダラン(部下2)。お前は西門の警備に話して、門を開けさせな」
ギンタとダランは走り去っていった。
ミランダはパピとピコルを連れて、会場を離れる。
ミランダ「パピ。お前を大盗賊団の仲間と勘違いしていた。
いらぬ騒動にしちまった
」
パピ「お前、人を見る目がないな。
お前のせいで、沢山殺してしまった。
まあ、ピコルが無事だったから許してやる」
ミランダ「すまなかった。それに感謝してる。
内緒だけど、町は、大盗賊団に金貨1枚も払わない。決定事項だ。
どのみち戦いになる。
その前に、26人の敵を削れたのは幸運さ」
ピコル達が西門に着くと、夜間なのに西門は開いていた。
門の外には、ピコル達の荷馬車が置いてあった。
荷馬車には暗がりでも進めるよう、松明も設えてあった。
ピコルはミランダに礼を言う。
ピコル達は荷馬車に乗り込み、街道の暗がりに消えていった。
ミランダ「ギンタ。パピ達がどうやって、
大盗賊団が封鎖する街道を抜けるか、偵察。後で報告」
ギンタ「承知。ありがたい。面白いものが見れそうです」




