35 幽霊を救え4
幽霊(3兄弟)を救うにはどうすべきか、ピコルは良い方法がないか、考え始めた。
やはり、家族の元に返すのが最善との結論に至る。
しかし、3兄弟が家族の元を離れ、1年が経つ。
家族に3兄弟を引き取れない事情が起きているかもしれない。
そこで、ピコルは家族に引取りの意思を確かめることにした。
まずピコルはガリンから、父親の名前と勤め先の名前、役職を聞き出した。
次にピコルは郵便商会でガリンの父親宛に郵便を出した。
郵便にはオプションを2つ付けた。
1つはあて先人の所在の有無。
もう1つは宛先人からの返書の受け取りである。
知らせる内容は、以下とした。
ガリン、キール、ワッツの3兄弟の生存の知らせ。
『3兄弟の引き取る』意思の有無。
親であれば、攫われた子が無事とわかれば、喜ぶはずだ。
しかし、引き取れない事情がある場合、直接、親の元に連れて行っても、子供は不幸だ。
それが、事前に分かるのであれば、郵便代は安い。
返信は1カ月後、それを待って、行動しよう。
ワッツは治療機の中で順調に回復している。
一方、ガリンとキールはワッツの病気で遅れていた熱気球の作成に追われていた。
ピコル「随分忙しそうね」
ガリン「次の打ち上げ予定は明日の夜なんだけど、まだ半分も出来ていない」
パピ「心配いらない。俺達で外の筒は作る。ガリン達は中身を作れ。後で合体だ」
ピコル「え! 外の筒を作るって? 作れないでしょ」
マロ「設計図と作成手順はガリンの記憶から取得済みです。
ピコル、パピ、私が力を合わせれば可能です。打ち上げを間に合わせる唯一の方法です」
ガリン「外筒全部は無理だと思う。材料の竹と紙の切り出しだけでも助かる」
パピとマロに図られたようで、ピコルは釈然としなかった。
仕方ないと諦めて、手伝うことに同意した。
マロは設計図から合理的な作成手順を導き、イメージとしてピコルとパピに示す。
マロのイメージは要点を捉えていて、解りやすく、初心者でも作成が容易になるよう工夫されていた。
お陰で、ガリンの予想に反して、外の円筒は1日で作成できてしまった。
翌日の昼にはガリン達が作った中身と合体させ、熱気球は完成した。
パピ「まだ終わりじゃない。幽霊の発射には俺も行かないと」
マロ「はい。パピの言う通りです。作成した以上、問題が無いか確認する義務があります。熱気球の打ち上げには私もお供します」
2人はどうしても、熱気球の打ち上げに参加したいようだ。
ピコルはガリンに頼み、今日の打ち上げに参加させてもらうことにした。
パピは子供のようにワクワクを隠さない。ピコルには、パピの無邪気さはステキであった。
パピはピコルの母性までも虜にしていく。
熱気球の打ち上げで盛り上がった夜の翌日、治療機がワッツの回復を告げた。
マロ「ワッツの治療が完了しました。ワッツを治癒機から出します。
ワッツは治療機から出しますが、起きるのは明日の朝、それまで寝ているように設定します。
ガリン達にうまく伝えてください」
ピコル「分かった」
ピコルはガリンとキールにワッツの治療が完了したこと、ワッツを治療機から出すこと、
ただし、ワッツが起きるのは明日の朝になることを伝えた。
キール「今から起こしちゃダメなの。早くワッツと話したい」
ピコル「今起こすと、ワッツの昼と夜が逆転してしまう。昼なのに眠く、夜なのに眠れなくなる」
キール「そうなのか。分った」
ピコルの時差ボケを防ぐという説明は正しいのだが、別の目的もあった。
治療機はワッツを藁の上に吐き出した。
直接見るワッツは生気を取り戻し、見るからに健康そうであった。
ガリンとキールは久しぶりにワッツと同じ藁の上で寝られると喜んでいる。
ピコルは役目を終えた治療機にホホズリをし、お礼を伝えた。
皆が寝静まった時刻、マロはキールに心話虫を飛ばす。
マロはガリンとキールの精神に侵入する。
2人の記憶を調べ、不都合な記憶を消していく。ワッツは万能薬で回復したことにすり替える。
朝までには記憶の改ざんは完了した。もう2人はマロが喋れることや、ワッツが治療機で回復したことは覚えていない。
ピコル達は町に帰ることにした。
次の行動を起こすには、兄弟の父親に宛てた郵便の返書を待つ必要がある。
郵便の返書が届く予定は2週間以上先であった。それまで、兄弟を放っておくのは心配だ。
そこで、週に1度は兄弟の状況を確認することにした。
郵便を出して1カ月、ようやく返書が届いた。
返書にはガリン達の父親からの丁寧な礼文と、兄弟を迎えに父親が港町リュウに赴くと書かれていた。
父親は船で来るようで、港町リュウには6日後に着く。
ピコル「ガリン達の父親が迎えに来る。ガリン達、喜ぶわね」
マロ「水を差すようで恐縮なのですが、解決しなければならない問題があります」
ガリンには悩みがあるという。マロはこの悩みをガリンの記憶を改ざんする時に見つけた。
ガリンの関わる密輸組織は組織抜けを許さないというのだ。
密輸組織を抜けた者には制裁を加える。逃げた者には殺し屋を差し向けるという。
ピコル「ガリンは密輸組織に見つからないよう帰る必要があるのね」
マロ「密輸組織はガリンの顔を知っています。一方、ガリンは幽霊の依頼者しか顔を知りません。
密輸組織の人間は至る所に居る様で、ガリンは見つからずに帰る方法を思いつかず、悩んでしました」
パピ「キールとワッツはどうなんだ?」
マロ「密輸組織に顔が知れているのはガリンだけです」
パピ「なら、簡単」
ピコル「どうするの?」
パピ「ガリンに女の服を着せる。大丈夫、裸を見せなければバレない」
ピコルはガリンの顔立ちを思い浮かべる。歳も10歳、確かに女と言ってもバレないか。
良い案に思う。ただ、ガリンが承諾すればだが。
ピコル達は兄弟の基地を訪ねた。
ピコルは郵便の返信を兄弟に読み聞かせた。
ピコル「お父さんがここまで迎えに来てくれる。良かったね」
ガリン「父が迎えに来てくれるのか。そうか、ありがとう。ピコル、パピ」
ガリンはそう言ったが、どこか表情に曇りがあった。
キールとワッツは率直に喜び、はしゃぎ回っている。
ピコル「密輸組織が心配?」
ガリンの驚きと困惑の入り混じった表情で、図星であったことが分かった。
ピコル「密輸組織に見つからないように帰る方法がある。聞いてくれる?」
密輸組織の目はガリンが女装で変装すれば、誤魔化すことができることを説明した。
気丈に弟達を守ってきたガリンに女装を進めるのは気が引ける。しかし、この案しか思い浮かばなかった。
ガリンの反応が心配であった。
案を聞いたガリンはうっすら涙を浮かべ、考えている。
ガリンの中では理性とプライドが戦っているのだろう。
しばらく考えていたが、結論が出たようだ。
はしゃいでいたキールとワッツはいつの間にか静かになり、心配そうにガリンを見詰めている。
ガリンは一言「似合うかな」とつぶやく。
キールとワッツはガリンに抱きつき泣き出した。
ガリンの女装の服や靴を用意するのだが、ピコルは男装しか着たことがなく、敢えて女装と言われると困った。
そこで、リリーとエミリーに協力を仰いだ。
港町リュウから港町ケファまでの船旅の間だけ着る服なので、古着でも十分、間に合う。
古着屋でリリーとエミリーには1着づつ上下と靴を選んでもらた。ガリンには気に入った方を着てもらおう。
* *
時刻は夜11時を回った。
ピコル、パピ、マロの3人は馬車でリュウの南の間道を進む。馬車には熱気球が積まれている。
馬車は途中、間道脇の空き地に寄り、風向と風速を計測する。
パピ「幽霊を飛ばす空き地は何処がいい?
具申せよ」
マロ「リュウに一番近いこの空き地が適当です」
パピは馬車を空き地に停める。
パピ「幽霊の組み立て開始せよ」
マロ「了解しました」
ガリン達は、昨日の昼、父親と共に船に乗り、故郷にむけて旅立っていた。
密輸業者がガリン達の逃走に気付くのを遅らせるため、
ピコル達はガリン達3兄弟に替わり、熱気球を飛ばそうとしていた。
今日、熱気球を飛ばしておけば、3日後の幽霊屋の報酬受け取りまで、密輸組織との接点は無い。
密輸組織がガリンの逃走に気づくころには、ガリン達は港町ケファまで行っている。
ガリン達は痕跡を残していないので、密輸組織は追うことは出来ない。
パピとマロは最後の幽霊の打ち上げを楽しんでいる。
ピコルは風に流され飛んでいく幽霊を眺めていた。
ピコルは「ユニヴの意思」を確認した。
<西へ行け>
<港町リュウに行け>と<幽霊を救え>は消えていた。




