3 戦闘ペット
グリ様が北部穀倉地帯の検分から、
2週間ぶりに帰られた。
ピコルは知らせを聞き、喜びが爆発する。
ピコルは、グリ様の私邸では待ちきれず、
北門に向け、走り出す。
グリ様は白や赤、青のガウイ族より、
頭1つ分以上、背が高い。
遠くからでも、簡単にグリ様を見つけられる。
「グリ様だ! グリ様を見つけた」
白ガウイ2体を従え、通りを歩いてくる。
グリ様は大きい。
ほれぼれする大きさだ。
従者の白ガウイより、1mは大きい。
ピコルは全速で走り、グリにジャンプする。
ピコル「グリ様、グリ様、お帰りなさいませ」
グリの左手がさっと伸び、
ピコルはその手の平で、すくわれる。
そのまま、ピコルは胸元まで抱え上げられ、
右手で撫でられる。
グリは超重低音で「ピコル、良い子にしていたか?」
ピコル「はい、グリ様」
ピコルは、ビロードのような肌触りの毛で撫でられ、
満足だった。
ピコルは、グリに気に入られるよう、努力している。
他の戦闘ペットが嫌がる水浴びも、ピコルは毎朝する。
前からパピが走ってくるのが見える。
のろまなパピ。
今頃になって、グリに撫でられようと、走ってくる。
ピコル「きたない。のろま。下がれパピ」
パピ「グリ様、お帰りなさいませ」
パピはピコルのいうことなど聞かない。
パピはジャンプし、グリの右手に取りつく。
そのまま腕を上り、肩に上り、汚い体を頬に摺り寄せる。
パピ「お土産は?」
グリ「良い子にしていたか?」
パピ「うん、良い子、パピは良い子」
グリ「はっはっは。お土産は後で渡す」
その時、
「ウォ~、ウォ~、ウォ~、ウォ~」
戦闘ペットの吠え声が聞こえる。
東側からだ。
グリ達一行に緊張が走る。
敵の刺客を知らせる吠え声だ。
他国の刺客に侵入されたのだ。
声の繰り返しから、刺客は4体か。
パピとピコルはグリから飛び降り、東側を警戒する。
20秒ほどの沈黙。
「ウォ~、ウォ~」吠え声が近い。50m程か。
2体接近している。
ピコルもパピも緊張する。
2体の護衛の白ガウイがグリを守るよう、
東側に移動し警戒する。
ピコルとパピはグリの足元で、さらに警戒する。
一瞬の沈黙。
戦闘ペットの吠え声が消えた。
重低音が響く。東側から何かが走り、近づいてくる。
何かが塀を飛び越え、護衛の白ガウイに飛びかかる。
敵のガウイだ。
赤ガウイが2体。
刀を上段に振りかざして、
グリの護衛の白ガウイに飛びかかる。
白ガウイでは赤ガウイに勝てない。
一瞬で護衛の白ガウイ2体は切られた。
切られた切断カ所から、緑色の血液を噴き出している。
戦闘ペットであるピコルとパピは吠える。
「ウォ~、ウォ~」
ピコルは味方を招集するため、力いっぱい吠えた。
息継ぎをしたとき、後ろでかすかな音がした。
振り返ると青ガウイが2体。
気配を殺し、近づいてくる。
ピコルは叫ぶ「グリ様、後ろから2体! 青が来た」
グリは2体の赤ガウイと対峙し、戦闘に集中している。
後ろの2体の青ガウイと戦う余裕はない。
青ガウイ2体が、同時にグリに迫る。
ピコルはグリを守るように前に出る。
吠え声を上げる。
「ウォ~、ウォ~、ウォ~、ウォ~」
青ガウイ2体はピコルに目もくれない。
グリに刀で切りかかる。
グリは避けるが、スキが出来てしまった。
前方の赤ガウイが同時にグリに切りかかる。
グリは右腕を切り飛ばされる。
それを機に、グリの守りが崩れる。
守りを崩したグリに、青2体が切かかる。
青ガウイの刀はグリの外骨格の胴を切り裂く。
中から内蔵、内骨、緑の血があふれ出す。
グリはその場て、倒れ伏す。
グリの身体は小刻みに震え、命の灯を失っていく。
ピコル「グリ様、グリ様、死んじゃや! グリ様」
ピコルは、グリの身にしがみ付き、
泣きながら呼びかける。
パピは、ピコルの横で、茫然としている。
刺客の赤ガウイ、青ガウイは撤収していく。
戦闘ペットの吠え声は、東に聞こえ、
そして遠ざかっていく。
刺客たちは、東に逃れていった。
一瞬の出来事だった。
刺客の襲撃から、1時間ほど経ったろうか。
死亡直後、震えていたグリの体も、
もう震えは収まっていた。
それでも、ピコルはグリの亡骸にしがみつき、
泣いていた。
ピコルは悲しみで、時間の感覚を無くしている。
時間と共に、味方のガウイや、戦闘ペットたちが
集まってきた。
辺りを警戒している。
だが、グリの亡骸に近づこうとする者はいなかった。
突然、周囲のザワツキが静まった。
20人程の集団がグリの亡骸に近づいてくる。
その集団の中心に、一際大きい黒ガウイがいる。
ガウイ王国、アバの国を治める領主ジンガ・アバである。
赤ガウイ、青ガウイがジンガの周りを警護している。
ジンガ「グリは何時襲われた?」
副官「1時間前です」
ジンガ「敵は誰か?」
副官「シウナの国の暗殺部隊です」
ジンガ「戦力は?」
副官「陽動部隊、赤4、青5、白20。
暗殺隊は赤2、青2です」
ジンガ「被害は?」
副官「グリ様、赤3、青3、白35。
陽動部隊は殲滅、ただ、暗殺隊は取り逃がしました」
ジンガ「グリを殺した奴らを無傷で逃したというか」
副官「はは、申し訳ありません」
ジンガは怒りを爆発させた。
次期領主であるグリを失った怒りと悲しみで、
頭に生える2本の角が赤く染まる。
複眼の両眼も赤く染まる。
こうなるとガウイ族は、怒りを鎮めるのが難しい。
怒りを鎮めるには、何かに怒りをぶつける必要がある。
ジンガはアバ領の領主。
間違っても、部下には怒りをぶつけられない。
その時、ジンガの目に小さな戦闘ペットが目に入る。
この戦闘ペットはグリのペットなのだろう。
主人を失った戦闘ペットは殉死させられる。
どのみち死ぬのだ。
怒りをぶつける対象が決まった。
腕を振りかぶる。
ジンガ「馬鹿者共が!」
その腕を戦闘ペットに振り下ろす。
パピはグリの亡骸から2mほど離れ、膝まづいていた。
領主様がピコルを殴ろうとしていた。
パピの体が勝手に動く。
「ピコル!」
そう言って、ピコル目掛けジャンプする。
そして、ピコルと領主の拳の間に、体をねじ込む。
ピコルを守ろうと全身に力を入れ、衝撃に備える。
次の瞬間、ジンガの重い拳がピコルとパピに当たる。
2人はは弾き飛ばされた。
ジンガ「グリは棺に安置。
今すぐ、シウナの国に暗殺部隊を送れ。
急げ、明日にまでにシウナの次期領主を暗殺せよ。
グリの葬儀はそれからだ。
グリの葬儀には、シウナの次期領主の首を供えよ」
ピコルは死んでいなかった。
パピの行動が辛うじて、ピコルの命を繋ぎ止めた。
パピはと言えば、ピコルより、
もっとひどい状態であった。
ピコルとパピは生命の危機に瀕していた。
このことは、即座に、ある生物に伝えられた。