29 エミリー捜索
不幸話はどこにでもあるのだなとピコルは思う。
カールを助ける理由は無かった。
パピ「分かった。助けてやる」
パピが先に話を受けてしまった。
まあ。急ぐ旅でもないので、いいか。
ピコルがそう思っていると、パピが心話虫で話しかけてきた。
パピ「理由を聞いて、断るのは無し。
断るなら、理由を聞く前」
パピに叱られてしまった。パピの言う通りだ。
パピはいつも、さりげなく、正しい方向に導いてくれる。
パピはカールと話しながら、エミリーの状況を聞き出していく。
いつもの寡黙なパピしか知らない者が見たら、別人に見えるだろう。
パピ「エミリーが寝ている場所はどこか分かるか?」
カール「分からない。鉱山には女奴隷房は4カ所あり、
それの何処かのはずだ」
パピ「女奴隷房は4カ所あるのか。女奴隷には何人いる?」
カール「それも不明だ」
パピ「鉱山の見取り図は無いか?」
カール「ない」
パピの質問に答えられないカールは情報収集が何もできていないことを悟らされた。
パピは鉱山の偵察が必要だと判断した。
パピ「カール。正確な情報が必要だ。
鉱山に近い所に下宿を借りろ。
そこを前線基地にする。
借りる下宿は夜間出入り可能なものにしろ。
俺とピコルのねぐらも兼ねる。
あと、救出後はエミリーの隠し場所にもする。
此処より広い部屋が必要だ。
今日の夕方までに探せ。
夕方、5時に、そこで作戦会議だ。
下宿はお前が借りろ」
パピは矢継ぎ早の指示を出す。
カール「分かった」
高飛車なパピの指示にも、カールの返事は明るかった。
嬉しかったのだろう。
昨日まで、まったく進まなかった、エミリー救出作戦が動き出した。
多分、これは最初で最後のチャンスだ。
絶対にエミリーを助け出す。
死ぬ気で取り組もう。カールはそう誓った。
パピはピコルと鉱山と町の境界に来ている。
現場を自分の目と耳で確かめるためだ。
境界は高さ10mの丸太を、縦に刺す方法で、作られていた。
ガウイ族の領都の外壁と、同様の作りであった。
この境界の向こう側は鉱山となっている。
町側からは中を伺うことができない。
境界は東西の岩山の間に作られている。
境界は1km程あり、中央には町と鉱山を繋ぐ門が有る。
町側の門の入り口には、出入りする荷馬車や荷車の、列が出来ていた。
パピ「明日から、俺とカールは鉱山の中でエミリーを探す。
ピコルの守りはマロに任せる。できるか?」
マロ「任せてください。悪漢は全てヤッツケます」
パピ「ダメだ。戦うな。いざとなったら、ピコルを繭に隠せ。そして俺を呼べ」
マロ「はい。理解しています」
パピ「俺が留守の間、ピコルとマロで鉱山の地図を描いて欲しい。
鉱山の建物や目印が分かるもの。
マロの友達の見た物をピコルが図に描く。
大きさ1m四方ぐらいの紙に、インクで描いて。
位置関係が重要だから、正確に描いて欲しい。
できる?」
ピコル「ええ、できる。マロもお願いね」
マロ「はい。頑張ります」
カールは下宿を探し、契約を済ませてきた。
翌日は前線基地の構築に当てた。
エミリーの救出に必要な備品や物資を調達した。
今夜から作戦を開始するという。
パピはマロから心話虫を5匹借り受け、
カールと出撃していった。
残されたピコルは寂しかった。
アバ領を抜けて以来、初めての一人寝だった。
寝るときはいつもパピが抱いてくれていた。
眠ろうとしたが、すぐパピの事を考えてしまう。
パピがいないと思うと、なぜか、涙がこぼれる。
パピが自分にとって、どれ程大切かを再認識させられた。
パピとカールは鉱山境界を超え、鉱山側に侵入した。
端末からの情報で、大まかな建物の配置は分かっていたが、パピは直接、自分の目で確認する。
金鉱の出入り口近くにある奴隷房を観察したい。
エミリーの所在を探るため、奴隷の顔も確認したい。
この条件を満たせる場所を探した。
奴隷用の給餌小屋の屋根の上が条件に合っていた。
パピは端末にお願いし、給餌小屋の屋根の上に、
特別なテントを張ってもらった。
テントは光学迷彩が施されていて、下からは見えない。
パピとカールは給餌小屋の屋根を登り、テントに入った。
2人は朝、実行する作戦の準備をする。
パピはカールに心話虫を取り付けた。
カールの記憶からエミリーの顔情報を取り出す。
自分と、今回の作戦に協力してくれる端末とで、
エミリーの顔情報を共有する。
朝と言うには早すぎる時間、鐘が打ち鳴らされる。
それを合図に奴隷たちが外に出され、整列させられる。
お陰で、どれが女奴隷房かを確認できた。
パピと端末は女奴隷たちの顔を調べていく。
ある端末が一致率99%の女奴隷を見つけた。
その女奴隷は給餌小屋の列に並んでいた。
パピはその女奴隷に心話虫を飛ばした。
心話虫は上手く、その女奴隷に取りついた。
パピは女奴隷の記憶を探る。
名前はエミリーであった。
見つけた!
次にカールのことを覚えているか探った時、エミリーは泣き出した。
エミリーの封印された感情が溢れ出した。
爆発したエミリーの感情が心話虫からパピに流れ込む。
エミリーは感情を殺すことで、過酷な鉱山奴隷の状況を生き延びてきた。
不用意に記憶を探った結果、エミリーを過酷な現実と向き合わせてしまった。
エミリーは大きなストレスを受けた。
これ以上何かすると、ストレスでエミリーの行動が変化する可能性が高い。
もしエミリーが突飛な行動をすると、警備員に目をつけられるかもしれない。
パピはこれ以上、エミリーの記憶を探ることを中断した。
心話虫による精神侵入はエミリーに逃走計画を知らせる切り札だ。
その時まで保留としよう。
エミリーは少し立ち止まり、涙を腕で拭い、歩き出した。
良かった、何とか持ちこたえたようだ。
パピは安堵した。
パピはカールの肩を叩き、エミリーを指さす。
カールはパピの指先の先にエミリーを見つけた。
カールはエミリーを見つめて、声を出さずに泣いていた。
心話虫を取り付けたおかげでエミリーの位置はいつでも確認できるようになった。
また、心話虫からもたらされるエミリーの身体情報で健康状態も確認できた。
かなり栄養失調気味であるが、病気という程ではない。
少し栄養を補給すれば、回復可能な状態であった。
食事を終えたエミリー達、奴隷は鉱山に入っていった。
警備の中心は奴隷達の働く鉱山の中に移り、奴隷房付近には警備員はほとんどいなくなった。
パピ達は鉱山境界に作ったシェルターまで撤退し、夜まで休息を取った。
夜になり、エミリーたち奴隷が鉱山から出てきた。
エミリーは給餌小屋でパンと水椀を受け取り、食事をしている。
食事を終えた後、トイレに並んだ。
トイレといっても、目隠や仕切は無い。ただ地面に穴が掘られただけである。
トイレは北の崖に近い場所にあった。
東西に1列に並び、20か所ある。
トイレの前には立て札が立ち、番号が書かれていた。
一番西が1番。東に向け、順に数字が並ぶ。
一番東側は20番の立て札が立っていた。
20番トイレの東には倉庫と思われる建物が見える。
パピは、この建物の東側には隠れる余地があることを発見した。
エミリーは真ん中あたりのトイレに並んでいた。
用を済ませたエミリーは一番東側の奴隷房に入っていった。
時刻は22時、奴隷達は奴隷房に入り、辺りは静寂に包まれた。
今日の目的は達成できた。
パピはピコルの待つ基地に引き上げることにした。
前線基地に帰ったパピは作戦会議を開いた。
ピコルとマロが描いた地図を前に、パピの作戦を説明する。
パピ「エミリーを見つけた。エミリーは東端の奴隷房にいる。
地図ではここ。
あと、病気や怪我はしていない。ただ、少し、痩せすぎている。
助け出した後は、食わせる必要がある」
ピコル「エミリーは見つかったのね。
良かった。次はどうするの」
パピは心話虫でエミリーの記憶を探ることが難しいことを皆に説明した。
代わりに、数日、エミリーの行動パターンを確認し、
救出タイミングを決めるという。
今日のエミリーの行動は
04:30 奴隷房を出る
→ トイレに15分
→ 朝食に15分。
05:00 金鉱山に入る。
金鉱山で労働
21:00 金鉱山を出る
→ 夕食に15分
→ トイレに15分。
21:30 奴隷房に戻る。
後2日間、エミリーの行動を観察する。
エミリーの行動が2日共、同じなら、毎日同じと判断できる。
3日目に救出作戦を実行する。
ピコル「エミリーを助け出す作戦を教えて」
パピ「まだ案、変えるかも。
まずこの位置にテントを張る。
マロの友達が張る見えないテント。
20番トイレから30mの位置。
俺とカールはこのテントでエミリーがトイレに来るのを待機する。
エミリーが鉱山から出て、
トイレを終えた直後に、救出作戦を開始する。
俺が金鉱の出入り口、その上の崖に石を投げる。
石が崖に当ると崖が崩れ、大きな音がする。
皆、驚いて、西を見る。
そのスキに俺は東から近づき、エミリーをテントに運ぶ。
奴隷がトイレから去った後、警備員もいないことが確認できたら、エミリーを連れて逃げだす」
ピコル「パピは何処から石を投げるの」
パピは地図を指さし「ここ。テントの陰から」
ピコル「結構距離があると思うんだけど、大丈夫」
パピ「マロの友達にに計ってもらった。568m。楽勝」
パピとカールは、エミリーの行動観察に戻っていった。
時刻は真夜中の2時であった。




