23 凱旋
ピコルは木の上で、パピを見ていた。
遠く橋の上で、ガウイ族の2体がパピをうかがっている姿が見えた。
ガウイ族を確認すると、ピコルは怖くなった。
もうパピを見ていられなくなった。
ピコルは目を瞑ってしまった。
手を合わせ、ひたすら祈ることしか出来ない。
神様、パピを助けてください。お願いします。
仏様、パピを助けてください。お願いします。
パピを失うかもしれない。その恐怖で心が狂いそうになる。
狂いそうになる自分を、祈ることで、鎮める。
お月様、パピを助けてください。お願いします。
大地の精霊、もし、居るのなら、パピを助けてください。お願いします。
海の精霊、もし、居るのなら、パピを助けてください。お願いします。
足りない。もっと。
木の精霊、もし、居るのなら、パピを助けてください。お願いします。
川の精霊、もし、居るのなら、パピを助けてください。お願いします。
水の精霊、もし、居るのなら、パピを助けてください。お願いします。
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どれだけ祈っても足りないかった。
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ピコルは時を忘れて祈り続けた。
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ピコルは気が遠くなっていく。
そんな時、誰かが、優しく肩を抱いてくれた。
ピコルは正気を取り戻した。
パピの手が見える。
パピ「ピコル、お待たせ。行こうか」
ピコル「うん」
パピに促され、ピコルは木を降りた。
ピコルは木を降りられたが、足に力が入らず、歩けなかった。
パピは、そんなピコルを背におぶってくれた。
パピの背の温もりが肌を通して感じられる。
パピは何処を歩いているのだろう。
海の音が聞こえる。
ピコルはパピの背で甘えた。
何時しかピコルは眠ってしまった。
気が付くと、音が聞こえる。
何処からか、大きな音が聞こえる。
飛行機、違う。ヘリコプター、近い。そんな音がする。
ピコルは背を起こし、音の方向を確かめる。
勘であるが、西の方から聞こえる。
まだ、辺りは暗く、何が起こっているか分からない。
パピはピコルの横で、立ち上がり、音の方向を見ている。
パピ「起きた。ピコル?」
ピコル「うん。何の音?」
パピ「心配いらない。マロの友達」
マロ「はい。心配いりません。
黒ガウイと青ガウイの死体を海に運び、捨てます。
私の仲間が出す音です。
ガウイの血や内臓も、きれいに片付けます。
先々、禍根を残さない為です」
ピコル「大きな音」
マロ「すみません。大きい奴なんで。許してやってください」
ピコル「ううん。ありがとうマロ。そして大きなお仲間も」
パピはピコルを促し、移動する。
東門の外、いつも高速動作モードを練習する草場、そこに行った。
草場の隅に流れる小川で体を洗った。
水は冷たかったが、すがすがしい気持ちに成れた。
2人共、用意していた服と靴を身に着けた。
門が開くのはまだ早いが、2人は門の方に向かった。
門の前には、荷馬車の列が出来ていた。
荷馬車は200台以上ある。
今日は特別な日なのか?
最後尾の荷馬車の御者に聞いた。
御者「特別な日? 違う。違う。
朝は荷馬車の列ができる。食い物を町に運ぶ。
曜日によっては、もっと多い。
今日は普通かな。
後10分で夜が明ける。
そうすると門が開く。
今日は、積み込みでへまをして、最後尾だ。
運が悪い。
お前達、歩きだろ。列に並ぶ必要はない。
荷馬車以外は、そのまま入れる」
ピコル達は朝が遅いので、毎日、
こんな列ができているとは知らなかった。
世の中は、人が回している。それを実感した。
御者の忠告を聞き、門に向かう。
門は開いていた。
荷馬車の横を通り、町に入った。
ピコルとパピは宿に戻った。
午前中いっぱい、ベッドで横になり、
取り留めのない話をして過ごした。
午後になり、食事のため、東の広場に行く。
ピーターがいたので声を掛けた。
パピ「昨夜の荷物回収、ご苦労」
ピーターは昨日パピが隠した革袋を宿に届けてくれていた。
ピーター「無事でしたか。心配しました。
聞きましたか。今、町はこの話で持ちきりです」
ピコル「どんな話?」
ピーター「昨日、戦闘ペット2名が、西門から逃げ出したそうです。
例の懸賞金が掛かった者たちです。
最初に、大鷲がこの戦闘ペットに目を付けました。
それを知らないガウイ2体は、戦闘ペットをしとめてしまいました。
エサを横取りされた大鷲は大いに怒りました。
大鷲はガウイ2体を足の鍵爪で挟み、持ち去ったそうです。
そして、巣で待つヒナの餌にしたそうです」
この噂、小学1年生でも信じないと思う。
聞いていて、恥ずかしかった。
このおとぎ話の作者は、上手くできたと、自信がありそうだ。
パピの趣味だろうか、それともマロか。
たぶん二人の合作であろう。
噂話も半月もすれば下火になる。
誰もが戦闘ペット、黒ガウイ、青ガウイの件を忘れていった。
ピコルはユニヴの意思を確認するが、
<海賊ラプマンを救え>は達成されていなかった。
そんな折、ピーターがパピに泣きついてきた。
ピーターの話によると、
ピーターのねぐらの倉庫の借主は、
中堅規模の商会などだが、その商会がこの町から撤退するという。
ピーターも倉庫の荷物がだんだん減って、
この頃は、荷物の出し入れがほとんど行われなくなった。
不安になったピーターは情報を集めた。
それで分かったのが、商会の撤退話。
ピーター「パピ兄。僕はどうしたらいいんでしょう」
パピ「おまえ、年上、俺は兄じゃない。
自分で考えろ」
ピーター「そんな。もう5年も住んで、住み慣れた場所。
あれ以上のねぐらなんて、ありません」
パピ「しらん。野宿しろ」
ピーターは便利屋。
この世界の便利屋は、ホントに稼ぎが少なく、
宿や下宿を借りられない。
ピーターは根っからの善人で、
人を騙すとか、悪事ができない。
裏稼業の情報屋も、正直すぎて稼ぐことができない。
ピコルは、ピーターには便利屋も情報屋も、
向いていないと感じた。
もっと真っ当な商売が向いている。
そう、洗濯屋ののような。
今日も、ピーターはパピにまとわりつき、
ねぐらの愚痴を言っている。
ピーターの愚痴はピコルの我慢の限界を超えた。
ピコル「ピーター。好きな女が居るんだろ。
たしか、幼馴染で、洗濯屋の子のアイナだったけ。
寝る所がないなら、そのこ娘に頼め。
一緒に寝かせろって言え。
寝る所の無いお前を追い出すようなら、その娘、
お前に気が無い。
これは、娘の気持ちを確かめるチャンスだ。
うじうじ言ってないで、
突撃してこい。
分かったか」
ピーター「はい」
ピーターは無事、新しいねぐらを確保できたようだ。
パピに纏わりつかなくなった。
めでたし、めでたし。




