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彩の異世界転生  作者: 巴空王
17/44

 17 覚醒

ピーターはピコルとパピを、尋ねてくるようになった。

ピーターの最初の報告は、金貨の枚数であった。

金貸しの金庫から持ち出した金貨は2128枚であった。


2日後、ピーターは金貸しの動向を教えてくれた。

金貸しの事務所は閉まり、出入りする人が消えた。

町の噂話では、夜逃げしたという。

金を貸す側が夜逃げとは、前代未聞で、

面白可笑しく、世間では喧伝されていると言う。


ピーター「これで追われることが無いので、便利屋に精を出せます。

(小声で)依頼の件も調べやすくなります」


海賊についての情報は、簡単には集まらないようだった。

ピーターは申し訳なさそうに報告する。

ピコルは無理をしないよう、ピーターに言い含めた。


パピ「お前、弱いから、何かわかっても、深く探るな。

深く探る前に、俺に教えろ」

ピーター「はい。自分の実力は承知しています」


東の広場で公演を始めて、10日がたった。

カオランは、念願の新しいギターを手に入れていた。

もちろん、リンラもタンバリンを手に入れた。

メロディーとリズムが加わり、カオラン一座の公演は、華やかさが増した。

そのお陰で、公演の順は、中ほどにまで、上がっている。


人気が出れば、(ねた)む者もいる。

妬みは、カオラン一座のスターとなった、パピに向けられた。

事件は、パピが曲芸をしている最中に起こった。


パピはピコルの歌に合わせ、踊っていた。

踊りから、曲芸のパートになった。

パピは逆立ちをし、足を打ち合わせて、リズムを取っていた。

その時、パピは視界の右端に、何か違和感を感じた。


その瞬間、ピコルの歌が聞こえなくなった。

代わりに、くぐもった連続音が聞こえる。

目を右に向けると、違和感の正体が分かった。

硬貨ほどの小石が、自分の方に飛んできていた。

小石はゆっくり飛んでくる。


小石は体の中心から、少し()れていた。

避けることができそうだった。

最初は避けようと考えたが、不味いことに気が付いた。

避けるとピコルに当る。

パピは小石を足で弾き、地面に落とした。


またパピ目掛け、小石を投げようとしている大道芸人が、目に入る。

小石はスローモーションで、パピに近づいてくる。

今度の小石も、避けるとピコルに当るコース。


パピは少し腹を立てた。

「小石が当れば痛いし、怪我もする。

こいつ、 そんなことも知らないのか?

自分に小石が当れば分かるだろう」

そう思い、足を勢いよく振り、小石をはじき返した。

小石は、それを投げた大道芸人目掛け、飛んで行った。


パピは、小石が大道芸人の顔の中央に当るよう、調整していた。

パピの目論見通り、小石は大道芸人の額を直撃した。

大道芸人は気絶し、その場で崩れ伏していった。


もう大丈夫だろう。そう安心した直後、ピコルの歌が、

リズム取りの拍手がパピに届きだす。


いきなり、気絶する大道芸人に、ザワツキが起こった。

しかし、公演を見ている聴衆も、

周りの大道芸人達も誰一人として、

これがパピの行為だと、気づく者はいなかった。


曲芸が終了した。聴衆に終わりの挨拶をしながら、パピは考えていた。

何だったんだろう。

回りの全てがゆっくり進む。だが、パピだけはその中で普通に動ける。

未知の経験であった。

最初は少し戸惑ったが、愉快であった。


挨拶の終わりは、いつもはここで、立ちでバックの宙返り、を披露する。

「もう一度、経験したいな。あのゆっくりな世界」

パピがそう思った瞬間、スローな世界が出現した。

自分の宙返りも、スローであった。

パピはこのスローな世界を、

自分の意思で、手に入れられることを理解した。


パピは、このスローな世界を、娯楽と考えていた。

誰にも気づかれくことなく、日に何十回も楽しんだ。


目の前を、小さな虫が飛びまわり、うっとおしかった。

パピは、スローな世界を出現させる。

手に持った小枝で、目の前を飛び回る虫を、撃ち落とした。


足元に、投げ銭の銅貨が3枚。

パピは、スローな世界を出現させる。

銅貨を順に3枚、足で踏みつける。

踏んだ反動で、銅貨は5cmほど、宙に浮く。

つま先で、浮いた銅貨を、真上に跳ね上げる。

上に飛び上がってくる銅貨を、手のひらで(つか)む。

この方法で3枚全て回収したが、気づく者はいなかった。


午後、大道芸練習の休み時間、ピコルが隣で休憩していた。

ピコルの胸元中央、バストと服の隙間で、

マロがまったりと、髭を両手でとかしていた。

パピはスローな世界を出現させる。

マロを摘まみ、胸の間隙から取り出す。

マロをピコルの頭に乗せた。


ピコル「あれ、マロ、何時の間に頭に上ったの?」

マロ「違います。パピの高速動作モードで、移動しました」

ピコル「高速動作モード?」


マロ「パピ。会得しましたね」

パピ「何、会得?」

マロ「今、使ったやつです」

パピ「スローな世界を出すやつ?」

マロ「世界が、ゆっくりになったのではないです。

パピが高速になったのです」

パピ「俺が早くなったのか」

マロ「そうです」

パピ「マロにバレちゃった。もうイタズラできないか」

マロ「高速動作モードを、イタズラに使っちゃダメです。

高速動作モードは、戦いのために使ってください」


マロは、高速動作モードは戦闘の道具だと、説明してくれた。

練習が必要なことも、説明してくれた。


大道芸人達の朝は遅い。午前中は大抵寝ている。

ピコル達も、大道芸人達を見習っていた。

ぐうたらになったピコル達に、マロは諫言した。

結果、午前中は東門の外で、戦闘の基礎訓練を行うことになった。

ピコルはパピの監視として付き添う。

マロはパピに、高速動作モードでのトレーニングを指導した。


 走る   走る練習、止まる練習 

 投げる  小石を的に正確に投げる練習、強く投げる練習

 敏捷   反復横跳びの様な練習

 空中姿勢 飛び上がり、体、手足を使い、空中姿勢を制御する練習


ピコルには、パピが何をしているか、さっぱり見えなかった。

しかし、この訓練でパピは、人間を超える戦士に覚醒した。

黒ガウイを軽く凌駕する戦闘能力を、身に着けたが、

本人はそのことを知らなかった。


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