14 海賊探し
カオラン達から暫く、ここ港町ルフで稼ぎたい。
一緒に大道芸をしてくれと、頼まれた。
パピも異存がなかったので、
ピコルは頼みを受けることにした。
どのみち、ユニヴの意思『海賊ラプマンを助けろ』を終えるまで、
港町ルフを離れることは出来ない。
両者にとって、都合が良かった。
東の広場で大道芸の練習中、
ピコルはカオランに海賊の情報を知らないか聞いた。
ピコル「海賊について知りたい。知ってることを教えて」
カオラン「海賊? どんなことが知りたいんだ?」
ピコル「何でも」
カオラン「皆が知っている程度しか、知らないが、
それでいいか?」
ピコル「良い」
カオラン「この町には表向きでは、
海賊はいない。
しかし、普通の商人や人夫だが、
裏稼業は海賊ってのがいる。
裏稼業に足を入れている者でないと、
海賊の事は分からない。
ただ、噂話を1つ知っている。
ホントかどうかは知らない。
ここの海賊は、強盗の様な事はしないそうだ。
港町ルフと空白地帯の港町ケファ間の往来、
航行の安全を警護する。
そんな海賊だと聞く。
もっと詳しく知りたいなら、
裏稼業に精通した情報屋を使うしかない。
これが俺の知ってる全部だ」
ピコル「ありがとう。
ところでカオラン。情報屋を知らない?」
カオラン「情報屋も裏稼業なんだ。
簡単には見つからない。
ただ、情報屋の息子なら心当たりがある」
ピコル「連絡が取れない?」
カオラン「連絡を取るよ。
便利屋なんだ。
大道芸人仲間に『俺が呼んでいる』と話しておく。
そのうち、向こうから会いに来る」
ピコル「お願いね」
その時、周囲の喧騒が急に止みむ。
巨大な黒ガウイと青ガウイが、東門からこちらに、歩いて来る。
皆がこのガウイ達に注目する。
そして、このガウイ達が醸し出す、
異様なオーラに気圧され、
行き交う群衆は道を譲る。
ギルとマントマが町に到着したのだ。
町中で見掛るガウイはほどんど白だ。黒や青ガウイは珍しい。
何処を見ているか全く分からない複眼が、不気味だった。
2体は東広場を突っ切り、代官所方面に去っていった。
これが、ギルとマントマとの最初の邂逅であった。
ピコルは嫌悪感と共に、敵であることを直感し、身震いした。
昨日と同じように、大道芸の公演は、
カオラン一座がトップバッターだった。
ピコルが歌う。
カオラン、リンラがリズムの合いの手、
タロン、ミーシャが踊る。
パピは逆立ちで踊る。
掴みは完ぺきだった。
パピの曲芸は日々進化している。
今日も、パピへのアンコールは3回だった。
パピはスターだった。
大量の投げ銭が送られた。
後に控える大道芸人の子供たちが、かき集めてくれた。
ピコル達は、後に続く大道芸一座の芸を見学していた。
昨日は旅の疲れを癒すため、先に上ったが、
今日からは他人の芸を見て、学ぶ予定であった。
「カオラン、久しぶり」
カオランと同年代の青年が、カオランに話しかける。
カオラン「ピーター、探してたんだ」
ピーター「知ってる。だから訪ねて来た。
それにしても素晴らしい芸だった。
感動したよ。
新しいメンバーを入れたようだね。
リンラ。久しぶり。また一段と美人になったね。
タロンにミーシャ。
ちょっと見ないうちに大きくなったね。
あ、新しい子だね。
カオラン。紹介してくれよ」
カオランが、ピコルとパピをピーターに紹介した。
ピーターは、ピコルとパピの芸を褒めてくれた。
ピーターの人柄か、裏のない言葉に悪い気はしなかった。
ピーター「君たちも僕に用があるようだけど、
先のこちらの頼みを聞いて欲しい。
ちょっと急ぐ話なんだ。
いいかい」
カオランがピコルに目配せする。
ピコルは頷き、OKの意思を示す。
カオラン「聞こう」
ピーターの頼みは借金のお願いだった。
カオランは理由を聞いた。納得できれば貸すといった。
ピーターの説明は以下であった。
ピーターの幼馴染、洗濯屋の子のアイナが、
借金のカタに取られている。
明後日が期限、借金を返さないと、
アイナは金貸しに取られ、
奴隷として売られてしまう。
ピーターはアイナに恋をしていた。
何とかしたい。
アイナの父親が病死し、洗濯屋がうまく回らず、
洗濯屋を畳んだ。
しかし、借金が出来てしまった。
母親とアイナで洗濯の下請けで金を稼ぎ、
借金を返していたが、
返しきれなかった。
金額は金貨15枚。
ピーターは金貨11枚と銀貨3枚を集めたが、
金貨3枚と銀貨7枚が足りない。
幾らでもいいから貸してほしい。
カオラン達は皆で相談した。
そして、
カオラン「今持っている俺達の持ち金は、
金貨4枚と銀貨8枚。
半分の金貨2枚と銀貨4枚を貸そう。
全額貸してやりたいが、これが精いっぱいだ」
ピーター「いや、無理は言わない。助かる。ありがとう」
ピーターはノートに、
カオランから借りた金額を記録した。
ピーター「僕が生きている限り、必ず返す」
礼を言って帰ろうとするピーターを、
カオランが呼び止めた。
カオランに近づき、小声で話をしている。
話が終わると、ピーターがピコル達に近づいてきた。
ピーター「もう少し話しやすい場所で聞きたい」
ピコル、パピ、ピーターは皆から離れ、
広場の隅っこの市場の荷台の陰に移動した。
3人は、他人に聞かれないよう、小声で話した。
ピーター「調べてほしいことがあるみたいだね」
ピコル「海賊について調べてほしい」
ピーター「海賊のどんな事?」
ピコル「海賊ラプマンについて、分かること全て」
ピーター「ラプマンは人の名前かな?」
ピコル「それも判らない。船の名前かもしれない」
ピーター「了解」
ピコル「報酬は金貨10枚。
もし受けてくれるなら、半分は前渡しできる」
ピーター「ホント?」
ピコル「ああ。情報の価値によっては、報酬を増額する」
ピーター「危険な仕事なのかな」
ピコル「それも判らない。慎重に行動してほしい」
ピーターは仕事を受けた。
パピは既に金貨5枚を荷から取り出し、
用意してくれていた。
マロは心話虫をピーターに飛ばした。
ピーターを通じて、情報を探ろう。
マロは不思議だった。
なぜ、ピコルが海賊に、
『ラプマン』に興味があるのだろうか?
過去において、ピコルと海賊の接点はない。
ピコルが、海賊に興味を持たキッカケはなんだ?
それに『ラプマン』はもっと不思議だった。
今まで『ラプマン』なる名称を、
ピコルが聞いたことがあると思えない。
ピコルは何処から、これらの情報を仕入れたのだろう。