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彩の異世界転生  作者: 巴空王
11/44

 11 最初の村

野営を終えた、ピコル一行は街道を進む。

お昼少し前に、最初の村に到着した。

領都の3分の1ほどの規模か。

村の目抜き通りは、午前中にも関わらず、

ちらほらと人が歩いていた。

村の中を、真っ直ぐ道が通っている。

道の両側には商店が、商店の奥は民家が並んでいた。

村の中央だろうか、道が円形に広がり、

通りの中央に噴水がある。

お昼が近いので、

ピコル一行は噴水の傍で、休憩することにした。

噴水の周りには、4人組が腰を掛けていた。

ピコルとパピは、4人組と反対の位置に、腰を掛け、

休憩に入る。

反対側の4人組の、会話が聞こえてくる。


「おいら、もう動けないよ」

「練習しないと今日、芸を披露できないよ」

「腹が減って、もう動けない」

「水をお飲み」

「昨日から、水ばかり飲んでる。

いつ、おまんま食べたか、忘れちまった」

「お足が無いから、しょうがないだろ」

「何か食べさせておくれよ。

今日もの朝から、水だけしか飲んでない」

「…」

「カオラン、タロンはまだ持ちそうだけど、

ミーシャはもうだめだよ。完全にダウンしちまった。

早めに何か食べさせないと。

パンを1個で良い。買えないかい」

「リンラ、手持ちの金は銅貨1枚。

パンは銅貨2枚。無理だ。今日、大道芸で稼ぐしかない。

何とか持ちこたえてくれ」


どうやら後ろの4人組、金が無くて困っているようだ。

ピコルは4人組に興味がわいた。

それに、ピコルは食料を買おうと、

思っていたところだった。

丁度いい。

ピコルはパピを連れて、4人組の前に行く。

ピコルより少し年長の男女2名、6歳位の男の子、

5歳位の女の子の4人。


ピコル「パンをどこで買えるか、教えてほしい」

年長の女「パン屋だけど」

ピコル「案内してくれたら、パンをご馳走する」

年長の男「俺達は乞食じゃない。断る」

ピコル「乞食と思ってない。

芸ができるんだろう。

練習するんだろ。それを見せてくれ。

芸の代金がパンだ。

悪い話じゃないだろ」

年長の女「カオラン、お願いしようよ」

男の子「おいら、パンが食べたい」

年長の男「分かった。パン屋に案内する」


ピコルとパピは自己紹介した。

ピコルもパピも自分の年齢を知らない。

適当に13歳と答えておいた。


カオランが一座のメンバーを紹介してくれた。

リーダーで伴奏のカオラン、男、15歳。

歌い手でリズムのリンラ、女、14歳。

踊り手のタロン、男の子6歳。

踊り手のミーシャ、女の子5歳。


彼らは大道芸人一座で、村を巡り、

芸を披露して生計を立てている。

一昨日、運悪く、追剥(おいはぎ)に会い、

荷物とお金を、全て奪われてしまった。


カオランが伴奏で使用するギターや、

リンラがリズムを取るタンバリンも、

追剥に奪われてしまった。

そのため、昨日は大道芸で稼ぐことが出来ず、

文無しであった。


パピ「どこで追剥に会った。教えろ」

カオラン「ここから東の街道。5kmくらいの所だった」

パピ「あいつらか」

カオラン「会ったのか?」

パピ「俺達は迂回(うかい)した」

カオラン「そうか。それは良かった」


5分も歩かないうちに、パン屋に着いた。

店ではパンとバター、牛乳を買った。

パンは大きく、1個で2食分ほどあるが、6個買った。


噴水に戻り、4人組と一緒に、昼食をとることにした。


タロン「おいら、パン1個丸まる食っていいのか」

パピ「食べたければ食べろ」

タロン「バターも塗っていいのか」

パピ「好きなだけ塗れ」

タロン「牛乳も飲んでいいのか」

パピ「勝手に飲め」

タロン「春分祭とカミワヒの祭りが、

一緒に来たみたいだ。最高だ」


リンラ「恥ずかしいから、静かにお食べ、タロン」

タロン「こんなご馳走、静かに食べたら、もったいない」

リンラは牛乳にパンを浸し、ミーシャに食べさせている。

ミーシャも少しづづだが、元気を取り戻していく。


ピコル「カオラン、今日の大道芸は出来そうか?」

カオラン「しまらない芸になっちまうが、やるしかない

後で練習するから、見ていってくれ」

ピコル「ああ、見させてもらう」


1時間ほどで食事は終わった。

皆元気を取り戻していった。

タロンとミーシャなど、ふざけて、

追いかけっこをしている。

子供は回復が早い。


彼らの芸を見せてもらったが、

音楽が無い踊りは、単調で間が抜けていた。

歌も、リズム取の拍手だけでは平板で、垢抜(あかぬけ)けしなった。


カオラン「やはり、何処か物足りない。どうしたもんか」

リンラ「でも、今日はやらないと。

少しでもお足を稼がないと」

カオラン「そうだな。なんか考える。少し休憩しよう」


ピコルはタロンとミーシャの単調な踊りを、眺めていた。

短い動作の繰り返しだったが、

寸分違わぬシンクロ率であった。

ピコルは思わず「美しい! 」とつぶやいた。

彩はある動画を思い出す。

青く長い髪のツインテールの女の子がネギを回すだけの動画。

彩は小学1年生の頃、この動画にハマり、今でも歌える。


ピコルはイヴァンポルカを、

タロンとミーシャの振りに合わせ、小声で歌ってみる。

ネギを回すだけの動作にも、合わせられる歌なので、

タロンとミーシャの踊りにも当然、マッチした。


ピコル「タロン、ミーシャ。

その踊りに名前はあるのか?」

ミーシャ「これ? これは踊りじゃない」

タンロン「そう、これは練習。2人でするやつ」


ピコル「私の歌に合わせて、練習、やってくれないか?」

ミーシャ「ピコル姉ちゃんの歌に? やってみる」

タロン「いつでもいいぜ」


ピコルは歌った。そして自分に驚いた。

声量、音程、リズム、曲想。どれを取っても完璧だった。

彩の記憶にある、動画の女性たちと比べても、

遜色(そんしょく)がない。

タロン、ミーシャも正確なリズムで踊る。

歌も踊りも、良い出来栄えに感じた。


いつの間にか、パピ、カオラン、

リンラが近くで見学していた。

曲が終わると、3人が拍手してくれた。


カオラン「歌の言葉は分からんが、素晴らしい」

リンラ「ピコル。それ芸として披露できるよ」

カオラン「お願いなんだが、今の歌、

今夜歌ってくれないか?」

ピコル「良いけど」

カオラン「投げ銭の取り分なんだけど。

人数割りでどうだろう」

ピコル「まだ素人だから、投げ銭は要らない。

その代わり、港町ルフまで一緒に行かせて」

カオラン「そんなんで良いのか? こっちは助かるが」


ピコル「パピも良い?」

パピ「俺も何かやりたい。ピコル考えて」

ピコル「え~! 」

パピ「ピコルだけずるい。 俺も何かしたい! 」


ピコルは仕方なしに考える。

パピに出来ること。パピは運動神経は抜群。

しかし、歌や踊りは素人だろう。

今日の夜には間に合わない。

パピに出来る芸か。そこで思いついたのは曲芸。


パピはバク転やバックでの宙返り、側転、

前方宙返りなど簡単にやってのける。

ピコルは技の組み合わせを考え、パピに演じてもらった。

何回か練習しているうちに、

アドリブで技を組み合わせて披露しだす。

拍手に合わせて、技を披露することもやってのける。


練習が終わるとカオラン一座から、大きな拍手が湧いた。


カオラン「こんな素晴らしい曲芸見たことない」

ミーシャ「パピ兄ちゃん、素敵! 」

タロン「ふん。ちょっとはやるな」

リンラ「言うことないね」


パピは皆に褒められ、大満足の顔つきだった。

ピコル、パピは夕方まで5回ほど練習を重ねた。


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