シロナとアルバ
※「かくれんぼ」をテーマにしていますが、夏のホラー2021参加作品ではありません。ほのぼのしたお話ですのでご安心ください(^^♪
ひろーいこの海の中では、お魚たちが集まって、みんなでかくれんぼしているのでした。カレイくんやヒラメさんは、砂の中にうまくもぐってかくれていますし、クマノミちゃんはイソギンチャクさんにかくしてもらっています。アナゴくんも砂に穴をほって、その中にひょいっとかくれています。そして、見てください、イワシちゃんたちです。みんなでびっしりより集まって、大きなお魚になってかくれています。……えっ? それじゃあ見つかっちゃうじゃないか、ですって? あはは、たしかにそうですね。それじゃあ次はイワシちゃんたちが鬼ですね。
おやおや、どうしたんでしょうか、沖のほうから、大きな影がやってきました。なんと、クジラさんです。シロナガスクジラ、海の中で一番大きなクジラさんです。シロナという名前でした。
「あっ、シロナさん、こんにちは」
「みんな、こんにちは。いったいなにをしていたんだい?」
シロナに聞かれて、かくれんぼしていたカレイくんやヒラメさん、クマノミちゃんにアナゴくん、それにイワシちゃんたちがいっせいに集まってきました。
「みんなでかくれんぼしてたんだよ」
「ほう、それは楽しそうだねぇ。どうかな、ひとつワシも混ぜてくれないかな?」
かくれんぼしていたお魚たちは、みんな顔を見合わせました。
「うーん……ぼくたちはいいけど、シロナさん、大きすぎるから、すぐ見つかっちゃうんじゃないかなぁ」
「あぁ、そうか……。わかったよ、じゃましてすまんなぁ」
シロナは、そのまま泳ぎ去ってしまいました。みんな申し訳なさそうにしていましたが、やがてかくれんぼに戻るのでした。
「やっぱりワシは、こんなに大きいから、だれもいっしょに遊んでくれないんじゃなぁ。かくれんぼかぁ、一度もしたことがなかったなぁ」
シロナは、生まれたときから大きなからだだったので、お魚さんたちと遊ぼうにも、大きすぎて遊べなかったのです。
「かくれんぼもだめじゃし、おにごっこも怖いといわれてしもうた。マッコウクジラなんかは、いつもダイオウイカとおにごっこしてるのに……」
クジラ仲間のマッコウクジラが、ダイオウイカとおにごっこしているのを思い出して、シロナはゆっくり水面に近づきました。ぷしゅーっとふいた潮は、いつもよりしょっぱくて苦い味がします。すると……。
「うわっ、なんだよこの潮は……。クジラのやつ、泣いてんのか?」
背中から声が聞こえました。シロナはゆっくりふりむきます。
「君は……アホウドリくんかい?」
クジラさんに聞かれて、背中に乗っていたアホウドリくんはえへんと胸をはります。
「そうさ、でも、おいらのことは、アルバトロスの『アルバ』って呼んでくれよ。アホウドリだなんてかっこ悪い名前はいやなのさ」
アホウドリくん、いいえ、アルバはまたしてもえへんとやります。シロナは答えるかわりに、もう一度ぷしゅーっと潮をふきました。
「おうおう、さっきよりはましになったな。で、なんで泣いてたんだよ? こんなりっぱなからだしてんのに、なにを泣くことがあるんだ?」
アルバに聞かれて、シロナはまたもやぷしゅーっと潮をふいたのです。今度は最初のときと同じ、しょっぱくて苦い味でした。
「りっぱなんかじゃないよ。ワシは、もっと小さな魚がよかった。そうすれば、みんなと遊べたし、もっともっと怖がられずにすんだのに……」
「……なにがあったんだよ? おいらに話してみてくれよ」
ひょこひょこと、アルバがシロナの顔のそばにやってきました。ひょいっと背中から降りて、水面に浮かびます。
「じつは……」
さっきのかくれんぼのことを話して、アルバはすまなそうにくちばしをカチカチとならしました。
「そうだったのか。だが、そりゃあほかの魚たちはみんなそう思うだろうさ。だって考えてみてくれよ。ほかの魚にとっては、シロナ、お前さんは、まるで山みたいだぜ。そんなのに追いかけまわされたら、そりゃあ怖いだろう」
今度はぷしゅぅ……と、なんともよわよわしく潮がふかれたので、アルバはあわてて続けます。
「待て待て、待てって。気を落とすなよ。ほら、おいらがなんとかしてやるからさ」
「……本当かい?」
シロナが顔をあげました。潮だけでなく、そのまん丸い目までうるんでいます。アルバはまたもやえへんと胸をはりました。
「まかせてくれってんだ! ちょっと待ってなよ、おいらの仲間も呼んでくるからさ」
そういうと、アルバはバタバタと羽を大きくはばたかせて、それから水面をけり、一気に空へ舞い上がっていったのです。シロナはびっくりして、それから今度は勢いよく、ぷしゅしゅーっ! と潮をふいたのでした。
アルバはなかなか帰ってきませんでした。シロナはそのあいだ、ずっと水面に浮かんで待っていたのです。一日が経ち、二日が経ちました。アルバはまだ帰ってきませんでした。
――もしかしたら、ワシはからかわれたのかもしれないなぁ。ずーっと待ちぼうけする、バカなクジラだって思われているかもしれない――
そう思うとよけいに悲しく、シロナは大きく潮をぷしゅーっ! とふきました。海の底を見てみると、カレイくんとヒラメさんが、楽しくダンスをおどっています。塩っからい海の水に、シロナの涙がとけていきました。
三日が経ちました。お日さまの光で、じりじりと背中が熱く感じられます。シロナはもう限界でした。ぷしゅっと小さく潮をふきました。
――やっぱりワシには、だれも友だちなんてできないんだ――
シロナは、誰もいないような、海の底へもぐって消えてしまおうと思ったのです。そうしてもぐろうとした、そのときでした。
「おーい、シロナー! 待たせてごめんよ」
アルバの声でした。シロナはさっきとはうってかわって、ぷしゅしゅーっ! と、元気よく潮をふいたのです。
「アルバ、待ってたよぉ! ワシ、すごく心細くて、もう来てくれないかと思ってて……」
「わりぃ、わりぃ。仲間のアホウドリ……じゃなかった、アルバトロスたちに声をかけてさ、あっちこっちの海を探してきたんだよ。だからおそくなっちまった」
シロナは水面に顔を出して、不思議そうな目でアルバを見ます。
「探してきたって……?」
「あぁ、ほら、あいつらだよ」
アルバがくちばしで、向こうの海のほうをつっつきました。すると、シロナにもはっきりと聞こえてきたのです。今までは、自分の歌声か、もしくはほかのクジラ仲間たちの歌声しか聞いたことがなかったのですが、それはまぎれもなく、シロナガスクジラの歌声でした。
「えっ……ええっ? も、もしかして……」
「そうだよ。大変だったんだぜ。お前さんの仲間たちは、そりゃあでかいからすぐに見つかるけど、なんせ海は広いからな。それこそかくれんぼのオニをしている気分だったよ」
えへんと胸をはるアルバでしたが、もうシロナには聞こえていないようでした。ほかのシロナガスクジラを見るのは、ずっといっしょにいてくれたお母さん以来です。そのお母さんもずっと昔に死んでしまって、それからシロナはずっとひとりぼっちで暮らしてきたのです。もう一度ぷしゅーっと潮をふきました。潮をかけられたアルバは、その温かさにへへっと笑うのでした。
「へへへ、待ってよぉ!」
まるで子どものように、シロナがはしゃいでロローナを追いかけます。女の子クジラのロローナは、シロナとすぐに仲良くなって、いっしょにおにごっこして遊んでいるのでした。
「シロナくん、つかまえてごらん♪」
「よーし、ぼくの泳ぎを見せてやるぞ!」
いつの間にか、シロナは「ワシ」ではなく、「ぼく」というようになっていました。それもそのはず、シロナは知らなかったのですが、実はシロナは、シロナガスクジラでいえばまだまだ子供だったのです。大人の、ロローナのお父さんとお母さんから教えてもらったのでした。
「ふふ、よかった。すっかり仲良しになって」
「ロローナも、同じくらいの年のお友だちがいなかったから、さびしがっていたんだよ。アルバ、ありがとう」
ロローナのお父さんとお母さんが、アルバにお礼をいいます。アルバはいつものようにえへんと胸をはるのでしたが、やがて「あっ」と声をあげたのです。
「ん? どうしたんだい?」
「そうだった、おいら、大事なこと忘れてた。あのさ、おいらたちアホウドリからも、一つお願いがあるんだけど……」
アルバがもじもじしているので、ロローナのお父さんとお母さんは顔を見合わせました。
「ロローナ、ここらへんでいいのかな?」
ロローナたちと出会ってから、半年が過ぎました。アルバたちは、大海原の真ん中で、背中を水面に出してなにかを待っていたのです。
「うん、そうだよね、パパ、ママ?」
「あぁ。アルバがだいたいここらへんっていってたから、そろそろ来るんじゃないだろうか」
ロローナのお父さんとお母さんが、合図をするように大きく、高く潮をふきます。それをまねしてシロナとロローナも潮をふきました。すると……。
「おっ、いたいた、ありがてぇ!」
アルバが、そしてほかのアホウドリ……じゃなかった、アルバトロスたちが、いっせいにシロナたちの背中にとまったのです。みんな思い思いに羽を休めてリフレッシュしています。
「ありがとう。おいらたちさ、ずーっと風に乗って旅をしているんだけど、ときどき休憩できたらなぁって、いつも仲間たちと話してたんだ。シロナたちの背中に乗れて、ゆっくりからだも乾かせるし、ホント最高だよ」
アルバの言葉にうれしくなったのか、シロナがぷしゅーっと潮をふきました。アルバが羽をパタパタさせます。
「あっ、こら、今いっただろ、からだを乾かしてるって。ぬらしてどうするんだよ」
「アハハ、ごめんよ。でも、ぼくすごくうれしくってさ。アルバ、本当にありがとう……!」
お礼をいうシロナに、アルバはえへんと胸をはりました。それを見て、他のアルバトロスたちも、それにロローナたちもアハハと笑うのでした。
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