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国より強い男




「ここですか」


少女は山奥の一軒家の前にて立ち止まる。

貰った資料を確認し、自分の目的の場所と照らし合わせ、間違いでは無いか確認する。

確認を終えると今度は住人が居ないかの確認を使用と部屋のドアをノックした。


「すみません、誰かいませんか?」


返事がない。

少女は再びドアをノックする。


「すみませーん、誰かいませんかー?」


先程より強く、そして大きな声で呼ぶが返事が全くなかった。

それ所から家の中から物音一つ聞こえない。

人の気配すら感じられない。


「留守?可笑しいですね、この時間はここに居るという情報なのに」


少女は束になった紙を取りだし、とある男の写真が乗った資料をめくり始める。

もしも話し合いで解決で解決できず、交戦になった際少しでも敵の情報を知っている必要がある。

パラ、パラとページをめくる度に彼の身近なこと、家族、妻、そのほとんどの情報が記されていた。


「····················」






『もうすぐ戦争が起きる』

『はい』

『だが我々は負けるだろう』

『··········何故でしょう。我々の保有する武器、兵の水準、数はどれもパンタシアを超えています』

『···············あぁ、お前はアレの存在を知らないのか』

『アレ··········ですか?』

『確かにパンタシアにはほかの国々に比べ保有する兵器が多いわけでも、兵の水準が高く、数が多い訳でもない。ましてや核を保有してる訳でもない。だがそれでもパンタシアは三大国家に並んでいる。何故だと思う?』

『分かりません』

『お前は優秀な戦士であり、我らが保有する核の一つだ』

『はい』

『戦士の中なら我らの国では随一だ。だがお前は我らの国が保有する核、兵器、兵士全員に、国に勝てるか?』

『無理です』

『そうだ。たとえどれだけ強かろうと、核であろうと多勢に無勢、国家には勝てん』

『···············』

『この男だ』


そう言って上官はある資料を少女に渡した。


『この男は?』

『たった一人で国家より強い男だ』







「生まれ、育ち、家族、種族すら不明。わかっているのが昔王族だった···············名前は───」

「俺に何か用か」

「   」


一瞬少女は身体と思考が膠着した。

彼女はある使い魔の能力によって、この家に人がいないのを確認する為、そして誰かが待ち伏せをしていないか確認する為に山一帯の生物、木々、果は水や空気に至るまで、全てを感知し、場所を特定していた。

1度だってこの能力を使って特定の誰かを見逃したことは無い。

資料を見ながらも、全神経を山一帯の生物に向けていた。

未知の相手、敵になりうるかもしれない存在の家の前。

何が起こるかわからないからこそ、油断もしていなかった。


慢心はない。

全力で能力を駆使し、男を探していた。


なのに、男は平然と自分の真後ろに立っていた。


「ヒュッ」


反射的だった。

思考が停止していて、頭で考えるよりも、体に染み付いた今までの経験で体が動いた。

真後ろの相手を、自分の身体は敵だと判断したのだ。

渾身の回し蹴り。

足は男の首を蹴り抜いていた。


彼女の思考は未だ止まったまま。


「なんだ、お前の故郷じゃ挨拶は不意打ちか?」

「───」


しかし、男は全く動じていなかった。

殺す気で蹴った。

確実に首の骨を折ったと確信していた。

内心「やってしまった」と焦っていたが、男の動じない姿を見て、その思いも簡単に消し飛んだ。


「まぁそれなら───」

「ハアァッ!!」


───ドゴォッ!!


『崩拳』

渾身の一撃。

確実に身体に入り、人の急所の一つである鳩尾に確実に当たった。

少女の崩拳は確実に魔力を帯びない人の身体なら相手を肉塊へと変える破壊力。


「落ち着け」


───ドゴッ


「ご───」


しかし、これも平然としており、それ所か男は見て分かるほど手を抜いた軽い蹴りで少女の腹を蹴る。

次の瞬間、下半身の感覚と力が消え、その場にへたり込むと、口から血と吐瀉物の混じった液体を吐き出す。


「お゛え゛ぇ゛ッ」


今まで感じたことの無い不快感。

気分が悪い。兎も角腹の中が気持ち悪い。


「悪い、少し強く蹴りすぎた。大丈夫か?」


男は突然攻撃してきた少女をあろう事か心配し、気遣っていた。


「···············強いですね」


未だ腹の中をぐるぐると回る不快感に蝕まれながらも何とか立ち上がる。


「··········面白いものを飼っているな」


そう言って男は少女から距離をとる。

そこには赤より紅く、魂すら燃やす業火のように激しく燃える炎。

火の魔神。全てを燃やす炎。破壊神。

様々な世界で神と畏怖され、崇められ、数多くの名を持つ精霊。

火の精霊、イフリート、フィニックス、鳳凰。

誰もが一度は聞いた事のある神話の精霊。

その炎が少女の髪の毛となり、揺らめいていた。


原初の火(メテウス)妖精を統べる(エント・)業火の神(エフリート)。妖精王か」

「突然訪ねてきて、突然襲われ、無礼ばかり申し訳ありません。しかし、もう少し私の無礼につけあってもらいます」


自分はこの男と戦いに来た訳では無い。

上の指示は友好関係を築くこと言い渡されていた。

しかし、武に生き技を磨く者として、この目の前の果ての見えない頂きを見てみたい。

見ずにはいられなかった。

彼女の身体が闘志と興奮で燃え上がる。


「安心しろ、子供の遊びなど無礼の内に入らん」

「子供の遊びですか·············そんなことを言うのはあなたが初めてです」


業火が周りの水分を奪っていく。

まるで目の前の精霊が太陽そのもののように見えるほどの熱。

精霊の足元の地面が溶けている。

恐らくここら一体を火の海でつつもうと言うのか、怒り狂った精霊ならばありうる話だ。


言い伝えでは身に余る力を手に入れた火の巫女を恐れて人間達は火の巫女を罠にかけ、無惨に殺し、怒ったエフリートは国を一晩で灰に変えたと言われている。


それ程目の前の少女はエフリートにとって大切な人物なのだろう。

100年現れなかった火の巫女か。


「だが、家を燃やされるのはこまるな。『転移(テレポート)』」


俺は何かあった時の為に事前にしかけていた魔法陣を展開させる。

空を覆うほどの巨大な魔法陣が4つ現れた。


「悪いが場所を変えるぞ」

「えぇ、構いません」


そう言って少女が瞬きをした瞬間、景色は変わった。

一面砂の大地。

微かに残る石の建物。

世界随一の大砂漠。

パンタシアの保有する土地のひとつ、アスラ朝。


かつて神々の都と言われ栄えた国の、成れの果て。


「さて、胸くらいは貸してやるよ」

「お言葉に甘えさせてもらいます」

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