旅立ったものから残されたものへ
Prolog
「死」それは世界に誕生したその日から生まれた存在に与えられるもの
そして決して逃れることのができないもの
例えそれが、あらゆる世界や生命を創りだした神だとしても、数々の名誉や奇跡を生みだした勇者だとしても死から逃れることはできない。
死とは生まれたその瞬間にその生命が数え始めるカウントダウン
時の流れと共にそのカウントダウンは止まることなく進んでいく
そしてその時が刻み終え0になった時、命は終わりを告げる。
人だけではなく、世界に存在するすべての命は様々な理由で死と出会う
例えそれが、臨んだ「死」や望まない「死」だとしても
そうやって死を迎えたものたちが暮らす「都死」
ここには様々な死を迎えたもの達が、自身の理想のままに暮らしている。
「都死」は時に極楽浄土となり、時に地獄にもなる
その都死と現実の世界を行き来し、様々な死を迎えたも者たちの魂を呼び起こす不思議な力を持つ存在がいる。
その力は、時に災いとなり恐れられ、時に神と崇められる力にもなる
旅立ったものが残されたものへ残した思い、伝えることができなかった想い
その思いを辿り、心から想うものだけが訪れることができる不思議な空間がある
心から想うときその扉は開かれる
目の前に現れるのは丸太つくりの小さな一軒家、その周りには見たことのない花や植物が覆い茂っている
昆虫や鳥に森の生き物がたくさん集まっている
扉を開けると、窓際に置かれたテーブル
壁に沿って配置してある棚には見たことのないような宝石や石、苔が入った瓶に古い本が所狭しと置かれている。
そして奥にあるカウンターには一人の女性がいる
そう。この出会いこそが残されしものが託された旅立ったものの想いをつなぐ鍵
そして最後の希望。
ここに偶然にもその世界へと迷い込んだ一人の少年がいる
不思議な物語が今、始まろうとしている
ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・
「ねぇ…ここはどこ?」
突然かけられた声に本の中から意識が呼び戻される。
ふと顔をあげれば、そこには幼い少女が立っていた。
ピンク色のヒラヒラとしたワンピース。長く光を集めキラキラと輝く金色の髪の毛。不思議そうで、でもどこか不安げにこちらを覗き込む姿。
「お母さんと買い物に来ていたらはぐれちゃったの…気が付いたらご本が沢山ある所で…」
言葉が終わりに近付くにつれその声は震えていく
「そっか…キミ迷子になっちゃったんだね」
「ママに会いたいよ…」
少女の丸く大きな瞳から一雫の涙がこぼれ落ちる
「ああ、泣かないで?大丈夫。キミをお母さんの所に返してあげるから」
「ほんと?」
ゴシゴシと涙を拭いこちらをみる少女に微笑む
「うん。本当」
「ありがとう!…ねぇ、なんの本を読んでいたの?」
「これかい?とても素敵なお話だよ」
その言葉に少女の目からは涙が消え輝きが生まれる
「あたしもそのお話聞きたい!」
「それじゃあお母さん所に帰る道は少し長いから、帰りながらお話してあげる」
立ち上がり歩き始めるとボクの手を少女が握る
久しぶりに触れたその温もりに、あの2人の顔がふと思い浮かんだ
「このお話はねとても素敵な物語。人と人との想いを繋ぐある2人のお話だよ」
そう。これはあの2人が生み出した最初で最後の物語
ボクとの不思議な物語