第四箱 シールを張る時はピンセットを使え。
四作目です!今回はちょっと短めですがキリが良かったので!
新たな敵が続々登場!ではお楽しみください!
ウォーデンホルセ村での戦い。
クォンタムの活躍でゾーニ軍を撃退した。
しかし村にはまだ大きな傷跡が残ってる。
村人たちは協力して村の修繕作業を行い、もうすっかり夜になった。
クォンタムはそんな中で殺されてしまった皆の墓穴を掘っていた。
「これで全部か」
掘り終えたことを村長に伝え、墓穴に死者を丁寧に埋葬、墓石を立てて祈りをささげた。
死んだのは5名と少ないがいずれも妻子がいる男性だった。
家族を逃がそうと立ち向かい殺されたのだ。
泣きじゃくる子供たちを涙を流す母親たちが抱きしめていた。
(なんだろうな。映画でこういうシーンを見たらいつも泣いていたはずなのにな。もしかしたらあれは御伽話だからこそ泣けたのかもしれない)
シアル親子も泣いていた。
悲しいという感情はある。しかし涙は流れない。
この体で流れるわけもないが・・・。
「皆、今日のところはもう休んでくれ」
村長に促されて村人たちは各々の家へと戻る。
家を壊された人たちは村長の家で寝泊まりすることとなった。
〇
深夜、クォンタムは村長の家の前に立ち尽くして空を眺めていた。
そこへ…。
「守護神様。お眠りにならないので?」
「村長さん。私には眠るという行為が必要ありませんから。スリープモードはあるんですがあれは眠るというより意識が飛ぶ感じがして嫌なんです。再起動にも時間がかかりますから」
「ははは、よくわかりませんが眠らなくても良いという事は分かりました」
「それで充分です。何か御用ですか?」
「ええ、まずは村の代表としてお礼を言いたい。ありがとう。そしてもう一つ、貴方にお願いがあるのです」
「王都フェイデラへ向かってほしいのです」
「王都へ?なんでまた?」
「貴方はこの村だけでなくこの世界の守護神だ。最初はずっとこの村にいてはくれないかと都合のいいことも考えましたがそれでは貴方が目覚めた意味がない。貴方は平和を守るために作られた存在!こんな小さな村に留めておいていいはずがないのです。今王都ではゾーニ軍との決戦の準備を進めていると聞いています。貴方はそこへ行くべきだ」
「私は構いませんが。連中は報復に来ますよ。ああいう手合は必ず来ます」
「ええ、我々はこの村を捨てようと思います。修繕作業は見た目を整えるだけ。それで多少なり敵の目くらましにもなりましょう。終わり次第東の山を二つ超えた先にあるGOP支部の大きな村へ行くつもりです。何とか今日中に連絡がつきましたので」
「やることが速いね」
「村長として村民を生かすのは責務です。出発の準備で必要なものがあれば何なりと申し付けてくだされ。」
「いえ、こんな状況の貴方たちにこれ以上負担はかけられない。丁度皆寝ているしすぐ出ます」
「今すぐにですか」
「修繕作業を手伝った後でもいいんですが。出来るだけ早い方がいいような気がするんです。ここに俺が残っている方が村の皆が危ない気がする。あ、でも一つだけお願いが」
長老にお願いしたのは顔まで隠れるフード付きローブ、そして仮面だった。
「これでよろしいので?」
「ありがとう。私の姿をさらしたままだと目立ってしまいますから。では」
クォンタムが立ち去ろうとした時。
「待って!!」
「シアル、起きとったのか」
「行ってしまわれるのですか?」
「ああ、守護神とまで言われたら行かないわけにもね。それに君への恩返しもまだ済んでない」
「恩ならもうすでに!」
「確かに一度はこの村を助けたけど同じことが二度、三度と必ず起きるはずだ。村を、君たちを本当の意味で救うには戦争そのものを終わらせるしかないんだよ」
「ッ…」
「だから俺は行く」
「なら、私も連れて行ってください!私のユニークスキルがあればきっとあなたの役に立てます!」
「君にはお母さんが・・・」
そこへシアル母がやって来た。
「心配なさらなくても大丈夫ですよ。私はもう大丈夫です。連れて行ってやってください」
「母さん!」
「戦争を終わらせる手伝いができるなんて光栄なことじゃないか。行かずに後悔するくらいなら行ってきなさい」
「うん!」
「ただ、ちゃんと生きて帰っておいで」
「うん!」
二人はぎゅっと抱きしめ合う。
これは断れないとクォンタムは村長にシアルの旅支度をお願いした。
そして、早朝。
「では、行ってきます!」
「体に気を付けるんだよ」
「ゾーニ軍なんかコテンパンにしてやってください!守護神様!」
「おねぇちゃん!守護神様の足引っ張っちゃだめだよ!」
「分かってるわよ!…母さん。行ってきます」
「ええ、いってらっしゃい」
二人の姿は昇る朝日の方へと消えていった。
「よかったのかのう?」
「ええ、シアルは私よりしっかりしていますから」
「はぁ、シアルがおればもっと早く修繕がおわったのだがな」
「おいおい、村長!若者の旅立ちに水差すなよ!」
「そうじゃの。これくらいは大人がちゃんとせねばな!」
村人たちも前を向き、歩き始めた。
ここから王都まで、波乱の二人旅が始まる。
〇
ゾーニ国、首都ザム。
軍国主義一色に染め上げられたこの国の首都は物々しい雰囲気に包まれていた。
街中を兵が練り歩く閑静な街の中に一際目立つ巨大な城に国王ギド・ゾーニが君臨している。
今この城では将軍たちによる軍事会議が行われていた。
巨大な長テーブルの左右に将軍たち、誕生日席にはギド王が座っていた。
今回の議題は侵攻の為の拠点作りに失敗したシャバルの処遇について。
「で、どう責任を取るつもりなのかしら?」
卑猥な鎧を着たナイスバディの銀色のロングヘアの女性がキセルで煙をふかしながら薄く開いた眼でシャバルを睨む。
彼女の名はハウラ・リシア。五将軍の紅一点である。
「真紅き閃光と名高い貴様がこんな簡単な任務をしくじるとはな。さらには時駆の剣と片腕まで失ってくるとは。くっくっく、私なら恥ずかしくて顔も出せんよ」
軍将校の制服を着ている彼はマーベック・ギヤ。
将軍と参謀の両方を兼ねている。
なぜかとてもシャバルを毛嫌いしている。
「報告では正体不明の戦闘用ゴーレムにやられたそうだな!どんな奴だった?詳しく教えろ!!俺がやってやる!」
身長二メートル以上ある巨体にごつい角のついた鎧をまとっているのはズルード・グザム。
ゾーニ軍一の剛腕の持ち主で部下からの信頼も厚い。
「あ、あの、皆さん落ち着いて…」
その中でおろおろとしている青年も将軍の一人。
名はマールガン・ガウ。
シャバルとは軍学校時代からの友人である。
議題になっている調本にと言えば周りの将軍たちに睨みを効かせたまま黙っていた。
「何か申し開きはあるか?」
ギド王が尋ねるとシャバルは首を横に振った。
「処分はいかようにも。覚悟はできています」
そう言い放つシャバルに王はにやりと笑うと。
「ならば貴様にはこれを与えよう」
王がパチンと指を鳴らすと会議室の扉が開き、宙に浮いた何かが入って来た。
それは真っ黒な鎧の左腕だった。
「こ、これは!ギド様、それはあまりにも…」
「罰とは責任を取らせることだ。その命をとしてな。その鎧は命と引き換えにお前に力を与える魔鎧。全身に身につければ世界を破壊できるほどの力を得るといわれているがその命は数分しか持たぬ。左腕だけでも相当な苦痛が貴様を襲うだろう。それを付けてその不届きなゴーレムとやらの首を取ってこい。終わるまではこの国の土を踏むことは許さん」
「それは・・・願ってもないことです!」
シャバルはその鎧を掴むと左肩へと取り付けた。
その瞬間、鎧が生き物のように動き出し、黒い触手で彼の体を侵食し始める。
「あ゛あ゛ああっ!?」
「おいシャバル!?」
「下手に近づくな。貴様も飲まれるぞ」
それから数分シャバルは魔鎧による神経接続にもだえ苦しみ続けた。
「あ、あ゛っ…ハァ、ハァ」
やっと落ち着いたようだ。
鎧は禍々しい新たな左腕へと変貌を遂げていた。
「よくなじんでいるな。気分はどうだ?」
「ええ、なんと、晴れやかな、気分だ」
「では行け」
「はっ!!」
(待っていろ白きゴーレム!貴様は俺が殺す!そしてフェイデラ国の奴らも皆殺す!俺の邪魔をする者と妹を辱めた連中は全て俺が!!)
シャバルが出て行った後、他の将軍たちは安堵の息を漏らしていた。
「王もお人が悪い!なにもここでやることはないでしょうに!」
「暴れだしたらどうするつもりだったのですか?」
「その時はお主らが何とかしてくれるじゃろう?」
「ええ、まぁ」
「はっはっは!任しといてくれ王よ!!」
「さて、これからの動きだが。ハウラは引き続きまだ我ら連合にもGOPにも属していない国とのパイプ製作だ。貴様の色香で落ちぬ男はそうはいまい」
「うふふ、御意に」
「ズルード、マーベックはこのまま侵攻のための軍備増強を急げ」
「「はっ!!」」
「マールガン、貴様はシャバルの後任だ。敵の領土内に隠密の拠点を作れ」
「は、はい!」
「では解散だ期待しているぞ!」
「「「「すべてはゾーニ国の為に!」」」」
(シャバルよ。やはりお前はいい素材だ。使いこなしてみろその力を)
ゾーニ軍による大規模侵攻は刻一刻と迫っていた。
つづく